2023年度の税制改正で決定し、2024年から施行されている相続税・贈与税の改正から1年が経過しました。相続時精算課税にも年間110万円の基礎控除ができたことと、生前贈与加算の期間が3年から7年へ延長になったことはかなり大きな変更でした。ところが、この改正点を知らない人も多いので、今回は改めて2024年の相続税・贈与税の改正点について解説します。贈与税には暦年課税と相続時精算課税の2つの課税方式がある2024年の相続税・贈与税の改正のポイントとなる贈与について、まずは説明しておきます。贈与とは贈与とは、当事者の一方が、ある財産を無償で相手方に与える契約行為で、一定額以上の贈与が行われると贈与税が課されます。夫婦間や親子間であっても、一定額以上の財産の贈与には税金がかかるということです。その贈与税には、暦年課税と相続時精算課税という2種類の課税方式があります。暦年課税とは暦年課税は、1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の合計額に対して課される課税方式です。1年間に贈与された合計額が基礎控除の110万円を超えていれば、超えた金額に対して贈与税がかかります。つまり、1年間の贈与の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりませんし、申告の必要もありません。注意していただきたいのは、複数の人から贈与された場合でも、それぞれに基礎控除が110万円あるわけではなく、1年間の贈与の合計額に対して110万円の基礎控除があるということです。相続時精算課税とは相続時精算課税は、相続税と贈与税を一体化したもので、60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子または孫に対し贈与をする際に選択できます。一組の贈与者(財産を贈る人)と受贈者(財産をもらう人)の間で累計2,500万円までの贈与は特別控除額として非課税になります。贈与額が2,500万円を超えると、そこからは一律20%の贈与税を納めておきます。その後、贈与者が亡くなったときには、贈与された財産を贈与時の価額で相続財産に持ち戻して相続税を計算します。相続税の申告の際、納めていた贈与税があれば、相続税から差し引くことができます。相続時精算課税を選択する場合は届け出が必要贈与を受ける子や孫は、贈与者ごとに暦年課税か相続時精算課税かを選択できます。例えば、父親からの贈与は相続時精算課税を選択し、母親やそのほかの人からの贈与は暦年課税を選択するという具合です。そして、相続時精算課税を選択する場合は、最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに税務署に届け出を提出し、贈与税の申告をします。その後は、贈与者が亡くなるまで相続時精算課税が継続します。暦年課税は特に届け出などは必要なく、1年間に基礎控除を超える贈与を受けたら、その翌年の2月1日から3月15日までの間に贈与税を申告し、金銭で一括納付します。相続時精算課税を選択すると暦年課税には戻せない相続時精算課税は、相続が発生する前に次の世代に大きなお金を移すことができる仕組みですが、いったん相続時精算課税を選択すると、暦年課税に戻すことはできません。贈与する財産の種類や金額によって、相続時精算課税を選択したほうがいい場合と暦年課税のままのほうがいい場合とがありますので、相続時精算課税の選択を検討する場合は、税理士などの専門家に相談して実行することをお勧めします。>>遺産整理業務等のご相談も西日本シティ銀行で改正その1 相続時精算課税に110万円の基礎控除を創設2023年までは相続時精算課税には暦年課税のような基礎控除はありませんでしたが、2024年の改正で相続時精算課税にも110万円の基礎控除が創設されました。したがって、2024年1月1日以降の贈与からは年間110万円を超える贈与があった場合にのみ申告をすればいいことになりました。これまでは相続時精算課税を選択すると、贈与の累計額を明確にしておく必要があるため、少額の贈与でも必ず申告をしなければなりませんでした。しかし、今回の改正で基礎控除以下なら申告の必要がなくなりましたので、これまでよりも申告手続きの手間が幾分軽くなるはずです。また、この基礎控除部分は相続財産に持ち戻さなくていいことになっています。この点も相続時精算課税を選択する人にとって、大きな改善点になったといえます。改正その2 生前贈与加算が3年から7年に延長実は、暦年課税にも相続開始前の一定期間に贈与された財産は、贈与者の財産に持ち戻して相続税を計算するというルールがあります。これを「生前贈与加算」といいます。これまでは相続開始前3年以内の贈与財産を持ち戻すというルールでしたが、それが7年に延長になりました。ただし、2024年の相続からいきなり7年に延長されるのではなく、下記の表にあるとおり2027年から徐々に長くなっていき、最終的に2031年以降の相続から7年になるという仕組みです。生前贈与加算の対象になるのは、その間にもらった贈与財産のすべてで、年間110万円の基礎控除以下の贈与財産も対象になります。相続時精算課税を選択した場合は、年間110万円の基礎控除部分は相続財産に持ち戻す必要がありませんから、この点は暦年課税のデメリット部分になったといえます。ただし、この改正で延長になった4年間の贈与については、総額100万円までは持ち戻し不要となっています。また、生前贈与加算は、相続時に財産を取得した人が対象なので、贈与は受けたが相続で財産を取得していない人は持ち戻す必要はありません。例えば、相続人は配偶者と子どもで、孫に贈与していた場合などが該当します。生前贈与加算のイメージ出典:財務省 令和5年度税制改正パンフレット5ページ 2資産課税に記載の図(右下、暦年課税・改正後の図)に筆者が加筆では、相続発生日の違いによって、生前贈与加算がどれくらい変わるのか、2つの例で比較してみましょう。2つのケースは相続発生日の違いだけで贈与の時期と金額は同じ条件にしています。 2026年6月に相続発生のケース 2029年6月に相続発生のケース年齢が高くなってから定期的に子どもに贈与をする場合などは、生前贈与加算が7年になった影響は大きくなりそうです。暦年課税と相続時精算課税の概要相続財産に持ち戻さなくてよい贈与の特例暦年課税と相続時精算課税の改正点について説明しましたが、生前贈与加算の対象にならない贈与の特例が2つあります。「贈与税の配偶者控除」と「住宅取得等資金の贈与税の非課税措置」です。住宅取得等資金の贈与税の非課税措置については、相続時精算課税を選択している場合にも利用できます。この2つの特例についてそれぞれ概要を説明します。贈与税の配偶者控除とは贈与税の配偶者控除は、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産か、その購入資金の贈与であれば、2,000万円まで非課税で贈与できるというものです。これは110万円の基礎控除とは別枠になりますので、総額で2,110万円までの贈与が非課税になります。適用要件は以下の通りです。① 婚姻期間が20年以上である夫婦間での贈与であること(内縁の配偶者には適用できない)② 国内にある居住用不動産、または居住用不動産を取得するための金銭であること③ 贈与を受けた年の翌年3月15日までにその居住用不動産に居住し、その後も引き続き住む見込みであること④ 同一配偶者から過去にこの特例の適用を受けていないことこの特例の注意点この特例の適用を受けるためには、2,110万円の非課税限度額以下の贈与であっても贈与税の申告は必要です。贈与された年の翌年2月1日から3月15日までに贈与税の申告をしなければ、特例が適用できませんから注意してください。また、翌年3月15日までに居住するという要件がありますので、新たに住宅を取得する際には贈与のタイミングにも注意が必要です。住居の名義変更は節税にならないこともあるこの特例は現在住んでいる住居の土地や家屋部分の名義を変更することで贈与とするケースも多いと思いますが、その場合は必ずしも節税効果があるとは限りません。名義変更には、不動産取得税や登録免許税、司法書士への報酬などがかかります。細かい話ですが不動産取得税は相続で取得した場合はかかりませんが、贈与の場合はかかります。また、登録免許税も相続と贈与では贈与の方が税率は高くなっています。これらの税金や司法書士への報酬が数十万単位でかかりますので、「贈与税はかからなかったけど、大きな出費になってしまった」という感想になるかもしれません。また、夫から妻にこの特例を使って名義変更をしたものの、妻の方が先に亡くなってしまうこともあります。子どもが相続すれば結果的に親から子へ財産を移転したことになりますが、子どもがいなければ夫の名義に戻すことになり、贈与した意味がなくなってしまいます。住宅取得等資金の贈与税の非課税措置とは住宅取得等資金の贈与税の非課税措置は、父母や祖父母などの直系尊属から住宅を取得するための資金を贈与してもらった場合に、一定金額までが非課税になる特例です。この特例は期間限定の制度で、現在の制度内容は2024年1月1日から2026年12月31日までの贈与に適用されます。これまで何度も延長されて継続してきた制度ですが、その時々の世の中の状況に合わせて非課税限度額や適用要件が変わっています。2027年以降も制度は延長されるかもしれませんが、非課税限度額や適用要件などは変わる可能性があります。非課税限度額は下記のとおり、住宅の性能によって異なります。省エネ等住宅というのは、省エネルギー性能、耐震性能、バリアフリー性能のいずれかが一定以上の基準に適合している住宅をいいます。主な適用要件は以下のとおりで、贈与を受ける人や住宅の要件など、ほかにも細かな要件があります。① 贈与を受けた年の1月1日において18歳以上で、かつその年の合計所得金額が2,000万円以下(家屋の床面積が40㎡以上50㎡未満である場合は1,000万円以下)であること② 登記簿上の床面積が40㎡以上240㎡以下で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上が居住用であること③ 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅を取得し居住すること、または遅滞なく居住する見込みであること④ 増改築(リフォーム)の場合は、工事費用が100万円以上であることこの特例の注意点この特例の贈与者は父母や祖父母などの直系尊属に限られ、配偶者の父母などからの贈与は適用できません。例えば、住宅を購入する際、妻の親から資金援助を受けることがありますが、その場合、この特例を適用するためには、妻が贈与を受け、贈与額の分だけ不動産の名義を妻名義にする必要があります。そして、この特例も非課税限度額以下の贈与であっても贈与税の申告は必要です。また、贈与を受けた翌年3月15日までに住宅を取得し居住すること、または遅滞なく居住する見込みであることという要件がありますので、贈与のタイミングに注意してください。相続時精算課税と併用できるこの特例は、暦年課税でも相続時精算課税でも使うことができます。相続開始前7年以内の贈与でも生前贈与加算の対象になりませんし、相続時精算課税を選択している場合でも、この特例で贈与された金額は相続財産に持ち戻す必要はありません。では、省エネ等住宅の1,000万円を贈与するケースで、暦年課税の場合と相続時精算課税の場合でそれぞれ非課税限度額と相続財産に持ち戻す金額を確認してみましょう。このように、相続時精算課税と併用すると、相続財産に持ち戻す部分はあるものの、贈与時点ではかなり大きな金額まで非課税で贈与することが可能となります。まとめ相続時精算課税の改正は、110万円の基礎控除が創設され、その基礎控除部分は相続財産に持ち戻す必要がないという利用者側にとってメリットがある改正でした。しかし、もう一つの生前贈与加算が7年に延長になったことは、実質的な相続税の増税と考えられます。相続税節税のために贈与を検討している場合は、早めに実行に移すほうがいいかもしれません。ただし、贈与する財産の種類や金額によって相続時精算課税を選択したほうがいい場合もあれば、暦年課税のままにしたほうがいい場合もあります。特に、相続時精算課税は一度選択すると暦年課税に戻すことはできませんから、相続時精算課税を検討する場合は、税理士などの専門家に相談して実行することをお勧めします。■あわせて読みたい記事・【福岡県】介護費用の平均はいくら?施設と在宅の違いや利用できる制度を紹介・LCCM住宅とは?メリットとデメリット、利用できる制度などを解説※LIFUQU noteのサイトポリシー/プライバシーポリシーはこちら。
国民年金は日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する年金制度です。40年間保険料を納めることで65歳からの老齢基礎年金を満額(2024年度は81万6,000円)受給できます。ところが学生時代や失業など、収入が少ない時期に保険料を納めていない期間がある人は少なくありません。そのような人が年金を増やすための方法について解説します。国民年金の概要国民年金を正しく理解していただくために、まずは国民年金の概要から説明します。日本に住む20歳以上60歳未満のすべての人は、法律で国民年金への加入が義務づけられています。これを国民皆年金といい、保険料を納めることで以下の状況になったときに年金を受け取ることができます。① 年をとったとき(老齢基礎年金)② 病気やけがで障害が残ったとき(障害基礎年金)③ 家族の働き手が亡くなったとき(遺族基礎年金)②の障害基礎年金は障害の程度により、③の遺族基礎年金は遺族の構成や人数によって年金額が決まっていますが、①の老齢基礎年金は保険料を納めた期間によって年金額が計算されます。国民年金の被保険者は職業により3分類される国民年金は職業などに応じて第1号被保険者から第3号被保険者に分類されます。第1号被保険者と第3号被保険者は国民年金にのみ加入しますが、第2号被保険者である会社員や公務員などは国民年金に加えて厚生年金にも加入します。年金を受給する際には国民年金と厚生年金の両方から受け取ることができ、「2階建ての年金制度」と言われています。また、保険料の納め方もそれぞれ異なり、第1号被保険者は自分で納付しなければなりませんが、第2号被保険者は厚生年金の保険料が給与から天引きされることで、国民年金の保険料も収めたことになります。そして第3号被保険者は、第2号被保険者が加入する厚生年金で保険料を負担しており、自分で納める必要はありません。出典:厚生労働省 令和4年度(2022年度)厚生年金保険・国民年金事業の概況1ページ 公的年金被保険者数の推移(年度末現在)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000106808_1.html老齢基礎年金は10年以上の加入で受給権が得られる老齢基礎年金は、保険料納付済期間と保険料免除期間などを合算した受給資格期間が10年以上ある場合に、65歳から受け取ることができます。20歳から60歳になるまでの40年間(480月)の保険料をすべて納めると、満額の老齢基礎年金(2024年度は81万6,000円)を受け取ることができますが、未納や保険料免除、猶予などの期間があれば、その分受け取れる年金が減る仕組みです。会社員や公務員などの第2号被保険者は厚生年金に加入しているので、国民年金の保険料が未納になることはありませんし、第3号被保険者も手続きをきちんと取っていれば未納になることはありません。しかし、第1号被保険者は保険料の納付義務がありますから、保険料を納めないと将来の年金額に影響が出てしまいます。もし、収入の減少や失業等により保険料を納めることが難しい場合には、必ず保険料免除や保険料納付猶予の申請をしておきましょう。保険料を払えないからと放置していると未納扱いになってしまいます。「未納の期間があって年金が減ったとしても、とりあえず10年以上の加入期間があれば大丈夫でしょう?」と思っている方、その考えは危険です。未納が怖いのは老後の年金が減ってしまうことだけではなく、万が一のことが起きた場合に障害基礎年金や遺族基礎年金が受け取れなくなるかもしれないということです。面倒がらずに手続きはきちんとしておきましょう。未納者や未加入者はどれくらいいるのか?では、国民年金の保険料を納めていない人や年金制度に未加入の人はどれくらいいるのでしょうか。厚生労働省の令和4年度(2022年度)国民年金の加入・納付状況によると、国民年金の未納者は約89万人となっています。また、同省の令和4年(2022年)公的年金加入状況等調査によると、公的年金未加入者も4.1万人いるとのことです。国民年金被保険者数の動向(万人)出典:厚生労働省 令和4年度(2022年度)国民年金の加入・納付状況1ページ 国民年金被保険者数の動向https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/toukei/k-nenkin/厚生労働省 令和4年度(2022年度)厚生年金保険・国民年金事業の概況1ページ 公的年金被保険者数の推移(年度末現在)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000106808_1.htmlのデータをもとに執筆者により作成年齢階級別の保険料納付率のデータからは、年齢が高くなるほど納付率も上昇していることがわかりますが、この傾向は昔から変わっていません。やはり、年金を受け取る時期が近づくにつれて年金を増やしたいと考える人が増えるのは自然な流れなのでしょう。年々、未納者や未加入者は減少していて、これは日本年金機構による電話や文書での納付督励や、クレジットカードやスマートフォン決済などの保険料納付の多様化が功を奏しているようです。また、20代前半の納付率が上昇しているのは、同機構が学生に対して実施している年金制度理解のための啓発活動などの取り組みの効果と思われます。2022年度分(令和4年度分)年齢階級別保険料納付率出典:厚生労働省 令和4年度(2022年度)国民年金の加入・納付状況12ページ 年齢階級別現年度納付率のグラフhttps://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/toukei/k-nenkin/保険料の免除制度と納付猶予制度免除制度には保険料の全部を免除する「全額免除」と、一部分を免除する「4分の3免除」、「半額免除」、「4分の1免除」の4種類があります。猶予制度には学生を対象とした「学生納付特例制度」と20歳以上50歳未満の人を対象とした「保険料納付猶予制度」の2種類があります。いずれも前年の所得水準によって判断され、申請が承認されれば、その期間は保険料が猶予、もしくは免除になります。猶予と免除はどちらも年金の受給資格期間には入りますが、年金額の計算の取扱いが異なります。免除と猶予では年金額がどう変わる?老齢基礎年金の年金額の半分は国が負担しており(国庫負担という。2009年3月以前の国庫負担は3分の1)、免除の期間も国庫負担分は年金額に反映されます。一方、猶予の期間は年金額の計算には反映されません。猶予は言葉の通り、保険料の支払いを待ってくれている状態で、あとから納めることを前提としているため、追納しなければ国庫負担分も年金額には反映されないということです。学生納付特例が始まったのは2000年4月から20歳以上の学生が国民年金に強制加入になったのは1991年4月からで、それまで学生は加入してもいいし、しなくてもいい任意加入となっていました。そのため、ほとんどの学生は国民年金に加入していなかったはずです。ちょうど今50代後半の人たちが該当します。また、強制加入となってからも2000年3月までは学生納付特例制度はなかったため、負担の大きさから未納のままにしていた人が多かったと思われます。後から保険料を納めることはできるのか?免除や猶予は10年前までさかのぼって保険料を追納することができます。追納する場合、原則は古い期間の分から納めていくことになりますが、3年以上前の保険料には経過期間に応じた加算額が上乗せされますから、早めに追納する方が負担は少なくなります。ちなみに、未納の場合は2年前までの保険料しか追納できません。学生時代に未納だった人は卒業して2年が経過していれば追納はできませんし、学生納付特例を利用していた人も卒業後10年を経過していれば追納できません。60歳以降も保険料を納めて年金を増やす方法がある20歳から60歳になるまでの40年間、保険料を欠かさずに納めることで、満額の老齢基礎年金が受給できるわけですが、さまざまな理由から免除や猶予を申請し、その期間分の追納をしていない人や未納の期間がある人は多いと思います。追納すれば納付済期間として認められますから、将来の年金額を増やすためにも追納するに越したことはありません。とはいえ、仮に1年分の保険料を追納するとしたら20万円ほどを納めることになりますから、決して安い金額ではありません。「余裕があれば追納したいけど、ちょっと厳しいな」と感じている人もいるでしょう。早めに追納するのが一番ではありますが、それ以外に60歳以降も保険料を納めて年金額を増やす方法があります。やっぱり年金を増やしたい!という場合は任意加入で満額受給を目指す60歳までに保険料の納付済月数が480月(40年)に達していない人は、国民年金に任意加入することができます。保険料を納めていない月数が60月(5年)以内であれば、任意加入で納付済月数を480月にすることができます。480月になるまで強制加入ということではありませんから、どれくらいの期間保険料を納めるかは自分で決められます。65歳まで保険料を納めても上限の480月に届かない人もいるでしょうが、確実に年金額を増やすことができますから、一考する価値は十分にあります。また、65歳まで保険料を納めても老齢基礎年金の受給資格期間である10年に満たない場合は、70歳まで任意加入することができます。厚生年金に加入している60歳以上の人は任意加入を利用できない任意加入で年金額を増やすことができると書きましたが、上記利用条件の④厚生年金保険に加入していないというところで「あれ?」と気づいた人もいるのではないでしょうか。今は60歳以降も厚生年金に加入して働き続ける人が多くいますが、その場合は任意加入の利用はきません。「なんだ、やっぱり年金額は増やせないじゃないか」とがっかりした人、がっかりする必要はありません。厚生年金で老齢基礎年金を増やすことが可能です。厚生年金の経過的加算で老齢基礎年金を増やす20歳以前と60歳以降の厚生年金の加入期間は国民年金の加入期間ではありませんから、老齢基礎年金を計算する際の加入期間には含まれません。ただし、国民年金の加入期間で計算された老齢基礎年金と、厚生年金の加入期間(480月が上限)×定額の単価で計算された金額との差額が『経過的加算』として厚生年金から支払われます。つまり、60歳以降に厚生年金に加入して働くと、老齢基礎年金を増やすことはできませんが、経過的加算が支払われることで、実質、老齢基礎年金を増やしたことになります。保険料納付済期間が1年増えると年金はいくら増える?2024年度の老齢基礎年金の満額は81万6,000円です。この金額を、満額受給するために必要な加入期間40年で除すると、1年あたりの金額は2万400円になります。つまり、保険料を納める期間が1年増えるごとに年金額が約2万円増えるということです。例えば、学生時代に2年間未納だった人が、2年間任意加入すると年金額を約4万円増やすことができるわけですが、そのために必要な保険料はいくらになるか計算してみましょう。2024年度保険料1万6,980円×12か月+2025年度保険料1万7,510円×12か月=41万3,880円約41万円の保険料に対し年金額の増加は4万円。決して保険料負担は軽くありませんが、何歳まで生きるかは誰にもわかりません。10年以上年金を受け取れば、支払った保険料より年金の増加分のほうが上回ります。長生きすればそれだけ受け取る年金も増えていきますから、追納や任意加入のメリットは大きいといえます。自分の年金の加入状況を確認するには今は、毎年ねんきん定期便が届くようになったため、自分の加入状況を意識するようになった人も増えたのではないでしょうか。ねんきん定期便には、保険料納付実績や将来の年金の給付に関する情報が記載されています。35歳、45歳、59歳の時に封書で届くねんきん定期便は全期間の情報が記載されていますが、それ以外の年に届くはがきのねんきん定期便は、直近1年間の納付状況や加入実績に応じた見込み額などが記載されているにすぎません。全期間の納付状況の詳細を確認したい場合には、日本年金機構のねんきんネットで確認するのが一番早くて確実です。マイナンバーカードを持っている人はマイナポータルからアクセスすることができますし、ねんきん定期便に記載されているアクセスキーを使って利用登録をすることもできます。アクセスキーがわからない人は日本年金機構のホームページから利用登録をすると、後日郵送でユーザーIDが送付されます。転職したときや結婚して会社を辞めたときに、手続きが遅れて未納になっている期間があった、なんてこともあるかもしれません。ぜひ、ねんきんネットで自分の加入記録の詳細を確認してみてください。>>ねんきん定期便を撮影するだけで試算ができる!まとめ公的年金は生きている限りずっと受け取ることができる終身年金ですから、できるだけ年金額を増やしたいものです。とはいえ、さまざまな事情から保険料を納めることが難しい時期もあると思います。そんなときも未納のまま放置せず、必ず免除や猶予の申請手続きをしてください。そして、なるべく早めに追納しておく方が安心ではありますが、追納できない場合も60歳以降に任意加入制度や厚生年金の経過的加算で年金を増やすチャンスがありますから、ぜひ覚えておいてください。■あわせて読みたい記事・どうする?退職金!上手に活用して長く付き合うために知っておきたいこと・老人ホームにかかる費用はいくら?平均相場と入居一時金について解説
長年働いてきて定年を迎えた時に手にする退職金。一度に手にする金額としては、人生の中でもかなりの大金であると同時に、老後のための大切な資金であることは間違いありません。ただ漫然と使っていき、いつのまにか使い切ってしまったというのでは残念すぎます。充実した老後をすごすために資金計画を立て、活きた使い方ができるように準備するべきです。長年働いてきた末に手にした退職金と頑張って貯めた老後のための資金。この合計額をどのように運用しながら、どう使っていくかを計画していきましょう。退職金は減少傾向にまずは退職金の現状から見ていきましょう。企業によって退職金制度の仕組みも額も異なりますが、全体としては年々減少傾向にあるようです。これは民間企業に限らず、公務員の退職手当も同様に減少傾向にあります。出典:厚生労働省 就労条件総合調査 結果の概要※令和5年(2023年)、平成30年(2018年)、平成25年(2013年)、平成20年(2008年)平成15年(2003年)のデータを元に執筆者にて作成出典:総務省 令和4年(2022年)地方公務員給与実態調査結果>>ライフプラン見直し必要度CHECKをしてみよう!老後生活の資金配分は前半と後半で分けて考える退職金が減少する一方で、平均寿命や健康寿命は延び続けています。健康寿命が延びているということは、趣味やレジャーを楽しむための時間が長くなっているということ。お金がかかる趣味やレジャーばかりではありませんが、家族や友人と楽しむための資金はある程度必要でしょう。老後生活前半は後半よりも活動的にすごすために、多めに資金を見積もっておく必要がありそうです。ただし、老後生活前半を思い切り楽しみすぎて、途中で資金が底をついてしまった…ということは避けなければなりません。もちろん、公的年金は生きている限り受け取れますし、年齢が高くなるにつれて趣味やレジャーに使うお金も減ってはくるでしょうが、代わりに医療費や介護費がかかるようになるかもしれません。老後生活後半を公的年金だけで乗り切らずにすむように、資金の余力は残しておくべきです。そのためには資金計画を立てることはもちろん、資産寿命も延ばすための運用についても考えていかなければなりません。60歳以降働く人は増加傾向に高年齢者雇用安定法により、60歳以降も働くことができる環境が整ってきたため、60歳を過ぎても働き続ける人は着実に増えています。総務省の労働力調査によると、2022年の60歳~64歳の就業率は全体では73.0%、男女別にみると、男性が83.9%、女性が62.7%となっています。公的年金の支給開始が65歳からということや、退職金が減少傾向であるということを考えれば、働いて定期的な収入を得ることは合理的であると言えます。働くことで老後資金の目減りを防ぐことができますし、場合によっては増やすこともできるかもしれません。また、60歳以降も厚生年金に加入して保険料を納めながら働くならば、65歳からの年金も増えるという点も嬉しいポイントです。出典:総務省 令和4年(2022年)労働力調査年報60歳以降に働き続ける場合も生活費のダウンサイジングを意識する60歳以降も働き続ける場合は、それまでの生活スタイルとほとんど変わらないでしょうから、生活費もそれほど変わらないかもしれません。ただし、油断は禁物です。なぜなら、60歳以降の収入は50代の頃よりも大きく下がる場合が多いからです。働き方や勤務先によってどれくらい下がるのかはまちまちですが、50代の頃の半分以下になる場合もありますから、定年前と同じペースで生活をしていて毎月大赤字になるようでは、退職金などの金融資産はどんどん目減りしていきます。そうならないためにはどうするか?答えは簡単で、収入に合わせて生活費もダウンサイジングすることです。とはいえ「今月から収入が減るので、生活費もいままでの7割にします!」と、予算だけ決めても実行に移すのは容易ではありませんから、節約できる項目はないか等を検討しながら、少しずつ生活費をダウンサイジングしていくのが現実的です。60歳以降の収入は、月々の収支がトントンで退職金の目減りが抑えられればOK。退職金などを取り崩さないといけない場合は、仕事を辞めて年金生活に入るまでに、どれくらいの金額を取り崩すのかも確認しておきましょう。逆に収入に余裕がある場合は、余裕があるからとどんどん使うのではなく、さらなる老後のゆとりのために資産の積み増しを目指してください。いざ年金生活が始まると、50代の頃の収入よりも年金額はずっと少ないはずですから、60歳から生活費を見直していき、徐々にダウンサイジングできていれば、スムーズに年金生活に移行できるはずです。節目年齢である60歳の時には必ず家計の総点検と資金計画を立てる本来、老後の資金計画を立てるのは、50代のうちに始めていただくのが理想です。何もしてこなかったという人は少数派だとは思いますが、もし何も計画してこなかったという人は、60歳の退職時点で必ず家計の総点検と資金計画を実施してください。50代で資金計画を立てた人も、改めて節目となる60歳で再点検してください。退職金などを受け取った後なら、より具体的な計画を立てることができますから、修正や調整もしやすくなるはずです。また、定年制廃止や65歳定年の企業に勤務されている人も「まだ先でいいや」と言わずに、60歳時点で家計の総点検と資金計画を立てておくことをおすすめします。60歳からの資金計画は、三段階で実施退職金と老後のために貯めた資金をどう運用しながら使っていくかを決めるための資金計画の手順は次のとおりです。第一段階は現在の生活費と金融資産の確認まず、現在の生活費の確認と保有している金融資産の確認をおこないます。家計簿をつけていない家庭にとっては面倒な作業で、この段階でくじけそうになるかもしれませんが、現状を知ってこそ計画は立てられるもの。面倒くさがらず、月々と年間の生活費を確認しましょう。また、保有している金融資産も一覧にしておきます。第二段階は60歳以降の生活費と大きな支出の予算組み次に60歳以降の生活費と大きな支出の予算を立てます。第一段階で確認した生活費をもとに、60歳以降の生活費を点検していきます。併せて入ってくるお金も確認しておきましょう。企業年金や個人年金がある人は、何歳から何歳まで年間いくらの収入があるか、図表で一覧にしておくとわかりやすいです。第三段階は金融商品の選択最後は資金の目的に合わせた金融商品の選択です。月々の生活費の補てん分、趣味やレジャーのための資金、リフォームや車の買い替えなどに使う予定の資金、医療や介護などの万が一に備えておきたい資金、特に使い道が決まっていない余裕資金などに振り分けができます。資金ごとに金融商品を細かく分ける必要はありませんが、何にどれくらいの予算を振り分けたのかはわかるようにしておきましょう。金融商品の考え方10年以内に使う予定の資金は預貯金を中心に振り分けた資金の中でおおむね10年以内に使うことが決まっている資金や生活費の補てん分はリスクを取れない資金なので、預貯金などを中心に運用します。すぐには使わない資金まで普通預金に入れておくのはもったいないので、1年以上先に使う予定の資金であれば定期預金に入れておきましょう。退職者向けの有利な定期預金などがあれば積極的に利用しましょう。定期預金以外の金融商品なら、使う時期によっては個人向け国債なども選択肢に入ります。10年以上先の生活費の補てん分や余裕資金は投資型商品を中心にでは、10年以上先の生活費の補てん分や余裕資金はどうするか?こちらは投資型商品を中心に運用していくべきだと考えます。2024年スタートした新しいNISAを使って投資信託で運用することを基本とします。もちろん、これらの資金を全額投資商品で運用せずに、一部は定期預金などに振り分けていただいても構いません。ただし、ある程度の収益性も考えるなら、せっかく非課税で活用できる制度があるのですから、利用しない手はありません。いまや男性の4人に1人、女性は2人に1人が90歳を迎える時代です。60歳からでも20年以上運用できる時間がありますから、運用期間が短いということはありません。また、日銀が掲げている安定的な2%の物価上昇の目標が実現すれば、預貯金中心の運用では大切な老後資金の価値が下がってしまいます。仮に2%ずつ物価が上昇すると、10年後の100万円の価値は約82万円に、20年後には約67万円まで目減りしてしまいます。今60歳の方であれば20年後は80歳。まだまだ生活は続きます。物価上昇に負けず資産価値を維持するためにも、これからの時代に投資は必要不可欠です。NISAを活用して投資信託で運用する新しいNISAは、旧NISAと違って非課税期間の縛りはありません。ですから、非課税期間の終わりを意識しながら運用する必要はなく、基本的にはずっと運用を継続していくと思ってください。10年以上先に使う予定の資金であれば、最低でも10年は売却する必要がないということになりますから、ある程度じっくりと腰を据えた長期運用ができるということです。そして、必要になったときに必要な金額だけを売却して使い、残りはそのまま運用を継続します。つまり、運用しながら徐々に取り崩していく形です。投資をすると、利益が出ているタイミングで売却しなければいけないとか、常に値動きを気にしておかなければいけないと難しく考える人がいますが、そんなことはありません。むしろ忘れておくくらいが丁度いいのです。また、10年以上使わないつもりだったけど、想定以上に利益が出ているので、一部を売却して夫婦で海外旅行に行くということがあっても、それはもちろん構いません。ただ、基本はじっくりと運用を継続していくこと。「利益が出ていたらすぐに売却」を繰り返していると、せっかくの長期投資による複利効果も薄らいでしまいます。本来の目的は、資産寿命を延ばし老後生活後半に資金が尽きてしまわないための運用であることをお忘れなく。まとまった資金があっても積立で時間の分散をNISAは年間に投資できる金額が決まっています。つみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円で、両方を併用すれば年間360万円までの投資が可能です。退職金でまとまった金額があるので、一度に大きな金額で投資したいという人もいらっしゃるかもしれませんが、それはあまりおすすめできません。一括投資した直後にマーケットが急落する可能性はゼロではありません。一括投資した金額が大きく減ると、資金のダメージだけではなく、精神的なダメージも大きくなってしまいます。成長投資枠もつみたて投資枠と同じように、積立購入することをおすすめします。両方の投資枠を使って毎月30万円ずつ積立てすれば5年で投資限度額の1,800万円になります。NISAで長期運用する金額を決めて、時間を分散して積立てていきましょう。株式は余裕資金の範囲内で購入成長投資枠を使って株式投資をしたいと考えている人もいるかもしれません。株式投資をするなら、余裕資金の範囲内で行うことを心がけてください。また、株式投資に期待するのは値上がり益か、配当金か、株主優待か、そこを明確にして銘柄を選ぶことも重要です。それによって選ぶ銘柄も違いますので、やはり株式投資をするならある程度は自身で勉強していただく必要があります。投資戦略を考えて、決めて、実行するのは自分自身である投資信託を初めて選ぶときには難しく感じるかもしれません。最初は金融機関の窓口や専門家に相談したり、アドバイスを受けたりしてもいいでしょう。ただし「自分にはわからないから」と考えることを放棄して、勧められるままに商品を選ぶことだけはやめましょう。アドバイスを受けたら、自宅に帰ってから自分で調べて、しっかり考えて決める。不安なら最初は少額から始めてみても大丈夫です。始めることで少しずつ理解できるようになります。まとめ大切な退職金と老後のために頑張って貯めた資金を上手に使いながら、充実した老後生活をおくりたいと誰しも考えるはずです。60歳以降の人生もまだまだ長く続きます。途中で老後資金が尽きてしまわないように、まずは資金計画を立てること。そしてNISAを利用して資産寿命を延ばすための運用を実践してください。>>セカンドライフも西日本シティ銀行がサポートします。各種セミナーもご案内■あわせて読みたい記事・NISAとiDeCoの賢い活用法|上手に使い分けるためにもライフプランを作成しましょう!・解決!ほけん人|NCBほけんプラザの専門スタッフがライフプランの相談に無料で対応します*投資信託のご留意事項について商号等:株式会社西日本シティ銀行 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