通信関連会社に勤務しながら、ペットホテル・トリミングサロンも経営している御手洗将さん。多忙なダブルワークに加え、元気いっぱいの息子・恵太くん(3歳)の育児にも奮闘しています。不妊治療に初めての子育て、コロナ禍での起業…妻・恵さん(47歳)と共に乗り越えてきた、さまざまな経験を聞きました。
■Profile
御手洗 将(みたらい しょう)さん
Dog Salon GRACE 代表取締役
1981年生まれ。福岡市出身。24歳で通信関連会社に入社し、営業職として現在も勤務。2020年、福岡市東区千早に無料送迎サービスを行うペットホテル・トリミングサロン「Dog Salon GRACE」を開業。会社員と経営者のダブルワークをこなしながら、妻・恵さん(47歳)と共に息子・恵太くん(3歳)の子育て中。
これで最後…諦めかけた時に授かった、かけがえのない命
――二人の出会いをお聞かせください。
2014年に、大学時代の先輩を通じて紹介されたのがきっかけです。当時、私は福岡に、妻は佐賀に住んでいて、どちらかというと私がしょっちゅう佐賀に通ってデートしていました。
――ご結婚はいつ頃されたのですか?
付き合い始めた頃、私は34歳、妻は41歳でした。自分たちの年齢も考えて「1年付き合ってみて何も問題が起こらなければ結婚しよう」と話しており、当初から妻の実家にも行っていました。それで2015年の9月頃に結婚を決めて、翌年の3月に入籍しました。
――結婚前、二人で子どもを持つことや育て方などについて話をしましたか?
子どもは欲しかったですが、年齢のこともあって、できないかもしれないとも思っていたので、「もし授からなくても2人で楽しく生きていこう」という話もしていました。
―― 恵太くんを授かるまでのことをお聞かせください。
結婚後すぐに産婦人科へ相談に行ったところ、医師から年齢と妊娠・出産のデータを示されながら自然妊娠の難しさを伝えられ、不妊治療をすすめられました。私たちも「できなかったら仕方ないけど、やってみよう」という気持ちで挑戦し、幸運にも半年後、授かることができました。人工授精を5回行ったけれどなかなか着床せず、「次で最後にしよう」と思っていた矢先のことでした。
――初めて子どもができたことを知った時の気持ちはいかがでしたか?
最初は、きつねにつままれたような、「まさか」という気持ちでした。というのも、産婦人科での検査より前に、妻が自分で妊娠検査薬を使って確かめていたのですが、その時には妊娠反応が出ていなかったんです。妻は「今回も多分ダメだよ」と言いながら半ば諦めて病院で検査してもらったのですが、そこでなんと妊娠反応が出たんです。ですから喜びもありましたが、驚きが大きかったですね。
「この子は命に代えても守りたい!」自然とそう思えた
――念願の妊娠で、お二人とも嬉しかったでしょうね
もちろん嬉しさもありましたが、無事に生まれるまでは安心できませんでした。医師からは年齢的に流産する可能性も高いと言われていましたので…。妊娠8カ月くらいまでは、過保護なくらいに心配していましたね。妻は妻の実家が経営する会社で事務員として働いているのですが、妊娠してからは体調をみながら、無理のないように仕事を続けていました。事務の仕事とは別にお香の講師もしていて、もともとイベントやアクティブなことが好きな性格なんですけど、妊娠中はすべて我慢して、口に入れるものにも気を遣っていましたね。
――初めて自分の子どもに対面した時はどんな気持ちでしたか?
出産も難産でした。妻は長時間陣痛に耐えてくれていましたがなかなか子宮口が開かず、最終的には緊急帝王切開で生まれてきてくれました。私は正直、生まれるまでは実感が湧かなかったのですが、最初に息子の顔を見た時、「命に代えても守りたい」という思いが自然と湧き上がってきました。
――パパになってご自身の意識が変わったところはありますか?
これまで「自分が一番」だったのが、生まれたばかりの息子を見たらスーッと、「この子が一番大事」という意識に書き換えられましたね。それに、以前よりも子どもや命の大事さを考えるようになって、息子が生まれてからは、テレビなどで動物の赤ちゃんが襲われたりするシーンなども見られなくなりました。
求めるばかりでなく、まずは自分が変わろうと思えた
――子どもが生まれてから、生活やご夫婦の意識は変わりましたか?
初めての子育てで、自分の時間が全くとれないので戸惑うこともありました。妻とは結婚してから初めて一緒に住んだということもあり、子どもが2歳くらいになるまでは、生活スタイルや価値観の違いなどからぶつかることもありましたね。でも家族ってそういうものだし、最近は相手に期待するばかりではなく、自分が変わることも大事だと思えるようになってきました。
――育児の分担はしていますか?
平日は保育園に通っているので、妻が朝と夕方の送り迎えをしています。基本的に夕方から夜が私の担当です。平日は会社から18時半~20時半くらいに帰ってくるのですが、それから夕飯を食べさせて一緒に入浴、そして寝かしつけまでを私がやっています。妻もダブルワークで週末はお香の講師としての活動があるので、土日は私が息子と一緒にいることが多いですね。
――育児の中で一番大変だと思うことは?
入浴から寝かしつけまでが苦労しています。ずっとおもちゃで遊びたがってお風呂に入りたがらないので、それを説得するのが大変です。最近は「おもちゃを持って入ろう」と誘ってスムーズにいくこともありますが、何を望んでいるのか分からないこともあるのでなかなか難しいです。寝かしつけにも結構時間がかかってしまい、時々動画に頼ってしまうことも…。本当なら寝かしつけた後に自分のことをしたいのですが、だいたいは疲れて一緒に寝落ちしています(笑)。
家事は必要に応じてルール化すればスムーズに
――御手洗さんが担当している家事はありますか?
主に、妻が洗濯をして私は料理、掃除は二人で担当しています。きっちり決めたわけではないですが、自然にそうなりました。
――ご夫婦ともにダブルワークをされていて、家事も大変でしょうね
特に掃除ですね。土日は二人とも別の仕事をしているのでなかなか時間がとれず、放っておくとかなり散らかってしまいます。それで妻と話し合って「必ず掃除をしてから出かける」というルールにしました。それからは結構スムーズに分担できています。
育児まっただ中、すきま時間をみつけて起業準備
――会社員を続けながら起業されたそうですね。きっかけは?
2020年8月にペットホテル・トリミングサロン「Dog Salon GRACE」を開業しました。息子が生まれる前から柴犬を飼っているのですが、ちょっと預けたいと思っても自宅近くに預けるところがなく、私たち自身が困っていたんです。そんな時、自宅から30分ほどの場所にペットと居住することが条件というユニークなマンションができ、1階に店舗物件があるという話を聞いて、それなら自分でやってみようと。
――育児をしながら起業準備をされていたんですね、時間はとれていたんですか?
平日は会社に通勤していますし、夜は育児、土日も子どもの相手をしているので、ほぼ時間はありませんでした。ですので、昼休みなどに時間をみつけてコツコツ準備していました。
――コロナ禍での開業は大変でしたでしょうね
トリミングの方はおかげさまでオープン当初から順調だったのですが、緊急事態宣言中は、旅行はもちろん外出する人がそもそも少ないので、ペットホテルの利用が芳しくありませんでした。2021年秋頃からは復調してきたので、これからですね。
――開業してからは、お子さんとの時間はどうされていますか?
普段ペットサロンの運営はスタッフがしていますが、土日は私も店舗へ出て送迎などを担当することもあります。息子も犬が好きなので一緒にサロンに連れていって過ごしたり、時間があるときは遊園地に一緒に行ったりしています。
――御手洗さんご自身の時間は全くないのでは
自分の時間はゼロですね。でも、子どもが生まれてから「仕事以外に自分のしたいことって何だろう?」と考えてみたら、意外にないんですよね(笑)。子どもが甘えてくれる時期は今だけなので、なるべくたくさん思い出を作りたいと思っています。
大変なことも多いけど、そのぶん大きなものがもらえるのが子育て
――子どもにはどんな風に育ってほしいですか?
人生にはいろいろな選択肢があると思うけど、一番は元気に育って、思いやりのある人になってほしいと思います。
――最後に、これからパパになる人たちや子育て中のパパにメッセージをお願いします
子どもは生まれてみないと、生活にどういう動きが出てくるか分からないし、戸惑うこともあると思います。家族なのでぶつかることもあるけど、そのぶん、大きなものをもらえるのが子育て。命を懸けられるほど可愛い存在は他にないと思うので、大変だけど大事に育ててほしいですね。
(取材後記)
不妊治療を乗り越え、初めての育児に奮闘しながら住まいを新築し、コロナ禍での起業にダブルワーク…。「今しかない」子どもとの時間も大事にしつつ、ご夫婦それぞれの人生も諦めずに挑戦を続ける御手洗さんの経験談には、多様化する現代の働き方や子育てにおけるヒントが詰まっていました。家族とは価値観や環境が異なる他人同士が結ばれて出来るもの。御手洗さんが話してくれた「求めるばかりでなく、まずは自分が変わる」という意識は、一生を共にする家族だからこそ忘れてはいけない視点かもしれません。
西紀子
フリーライター・編集者
福岡市出身。大学卒業後、フリーペーパー編集部や企画制作プロダクションにて編集・ライティング業務に従事。2017年よりフリーランス。未就学児2人の子育てに奮闘中。