出産時にはさまざまな出産費用がかかりますが、全額を自己負担する必要はありません。今回は、これから妊娠・出産を控えている人のために、出産費用の平均額や補助金、確定申告などについてお伝えします。お金の心配をなくし、安心して出産に臨みましょう。
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出産費用の平均金額はいくら?
まずは、一般に出産にはいくらくらいの費用がかかるのかを知っておきましょう。
分娩には約50万円かかる
出産をするときには、病院や産婦人科クリニック、助産院などを利用するのが通常です。分娩の際には入院も必要になりますから、それなりに費用がかかるといえます。
国民健康保険中央会が公表しているデータによると、正常分娩における妊婦合計負担額の平均値[2016年(平成28年)度]は、50万5,759円となっています。出産の経験がない人にとっては、出産費用は意外に高いと感じるかもしれません。
妊婦検診の費用もかかる
出産にかかる費用とは、分娩費用や入院費用だけではありません。妊娠中の最初のうちは月1回、予定日が近づくと1週間~2週間に1回は妊婦検診を受けなければならず、妊婦検診費用もかかります。
妊婦検診は全部で14回程度受けることになり、検診費用は1回あたり5,000円~1万円ほどです。つまり、妊婦検診費用でも合計7万~10万円程度かかることになります。
出産費用は健康保険適用外
病気やケガによって病院等で治療を受けるときには、健康保険により医療費の自己負担は3割で済みます。しかし、出産は病気ではないので、原則的に健康保険は使えません。分娩費用や妊婦検診費用は、健康保険適用外となります。
出産費用は全額自己負担しなくてもいい
健康保険が使えず、トータル60万円くらいの費用がかかると聞くと、不安に思う人もいるでしょう。しかし、出産費用に関しては、大部分を公的な支援制度でまかなえるため、実質的な自己負担額は少なくなっています。
貯金がないからといって、出産をあきらめる必要はありません。ただし、公的支援制度を受けるには申請等が必要になるので、手続きを忘れないようにしましょう。
帝王切開の場合は?
健康保険が適用される
帝王切開などの分娩方法の場合には健康保険が適用されるため、入院代や手術代は3割の自己負担で済みます。手術費用が高額になるので、健康保険の高額療養費制度も利用できます。
一方で、帝王切開の場合には入院期間が長くなってしまうため、結果的にかかる出産費用のトータルは、自然分娩よりも10万円くらい多くなるのが一般的です。なお、帝王切開の場合でも、出産に関する公的支援制度は受けられます。
民間の医療保険にも忘れずに請求する
帝王切開の場合、民間の医療保険に加入していれば、保険金の支払いを受けられることもあります。医療保険に加入中で帝王切開になった場合には、忘れないように保険金を請求しましょう。
出産にかかわる公的支援制度とは?
出産するときに受けられる公的な支援制度とは、以下のようなものが挙げられます。
出産育児一時金
出産費用に充てるメインのお金が出産育児一時金です。出産育児一時金は、加入している健康保険から支給されるお金です。
日本は国民皆保険制度ですから、健康保険には全員が加入しているという前提があります。つまり、出産育児一時金は、基本的に出産した人が全員もらえるお金といえます。自然分娩に限らず、帝王切開等で出産した場合も対象です。
金額
出産育児一時金は、子ども1人につき42万円です。双子など多胎児を出産したときには人数分をかけた金額になります。
申請手続き
出産育児一時金の受取方法は3種類あり、それぞれで申請方法が違います。
受取方法 | 概要 | 申請手続き等 |
直接支払制度 | 出産育児一時金の金額を上限に、健康保険から直接病院等に出産費用を支払ってもらう方法。 健康保険への請求手続きは病院等が行う。 | 病院等で渡される書類(直接支払制度合意書)に必要事項を記入して、病院等の窓口に提出する。 ただし、出産費用の方が少ない場合、差額を受け取るには後日健康保険に請求する必要がある。 |
受取代理制度 | 病院等を代理人とし、出産育児一時金を代わりに受け取ってもらう形で出産費用を支払う方法。 直接支払制度が利用できない病院等で利用できる。 | 出産予定日の1~2か月程度前に健康保険に申請する。 (※申請時期や申請方法は加入している健康保険に要確認) 出産費用の方が少ない場合、差額は自動的に支払いを受けられる。 |
事後支払制度 | 病院等に出産費用を支払った後、健康保険に出産育児一時金を請求する方法。 直接支払制度や受取代理制度を利用しなかった場合には、事後支払制度で請求できる。 | 出産後、健康保険に請求する。 (※詳細は加入している健康保険に要確認) |
ほとんどの病院等で、直接支払制度を採用しています。つまり、自分で出産費用を立て替えなくても、出産する病院等で手続きするだけで、健康保険から直接出産費用を払ってもらえるということです。
直接支払制度を導入していない小規模な産院等で出産する場合でも、受取代理制度を利用すれば、出産費用を自分で立て替える必要はありません。
出産手当金
出産手当金は、勤務している会社等の健康保険から支給されるお金です。
受けられる条件
出産手当金は産休中の給料に代わるものなので、基本的に会社等で働いている人がもらえるお金です。ただし、既に退職した人でも、退職まで1年以上健康保険に加入しており、出産手当金の支給期間内に退職している場合には受給できます。
なお、国民健康保険には出産手当金はないので、自営業者等で国民健康保険に加入している場合は受給できません。
金額
産前42日から産後56日までの給料の支払われなかった期間について、給料の約3分の2が健康保険より支払われます。
申請手続き
出産後に会社を通じて健康保険に請求します。申請書類には病院等の証明も必要ですから、産前に会社から書類を受け取って準備しておきましょう。
妊婦検診にかかわる公的支援
妊婦検診に関しては自治体ごとに助成制度が設けられており、内容や金額等も自治体によって多少異なります。通常、役所で母子手帳をもらうときに妊婦検診の受診券等をもらえますので、しっかり説明を聞いておきましょう。
出産費用は確定申告すれば戻ってくることも
出産費用が多くかかったときには、確定申告で医療費控除を受けることで、還付金がもらえるケースがあります。
医療費控除とは
年間でかかった医療費が一定額(通常は10万円)を超えた場合には、医療費控除を受けることにより税金が安くなります。
会社員やパート・アルバイトの人の場合、所得税の精算は年末調整により行われます。年末調整では医療費控除は受けられないため、医療費控除を受けるには確定申告をする必要があります。
控除額の計算方法
医療費控除の控除額は、次の計算式で計算します。
控除額=(支払った医療費の合計額-保険金などで補てんされた金額)-10万円(※)
※所得200万円未満の場合には所得の5%の金額
「支払った医療費」に含まれるものは?
医療費控除の対象となる医療費には、次のようなものが含まれます。
●妊婦検診の費用
●通院費用(公共交通機関の運賃)
●出産で入院する際のタクシー代(電車やバスの利用が困難な場合)
●分娩費用
●入院費用
●入院時の病院の食事代
里帰り出産で帰省する際の交通費は対象になりません。入院時の身の回り品の購入費用や、入院中に出前を取った場合の食事代なども対象外です。
医療費を補てんするものとは?
「保険金などで補てんされた金額」には出産育児一時金が含まれます。帝王切開の場合の高額療養費や民間の保険会社から受け取った保険金も、医療費を補てんするものとして差し引きます。
出産手当金は医療費を補てんする性質のものではないため、差し引く必要はありません。
還付金はどれくらい?
医療費控除を受ける場合、控除額がそのまま還付されるわけではありません。医療費控除を受けることによって課税所得が少なくなり、所得税が安くなるしくみです。
既に支払っている所得税のうち安くなった部分が還付されるため、控除額に所得税率(※所得によって変わる)をかけると還付金の概算額がわかります。
【例】
出産にかかった医療費の総額 | 65万円 |
医療費を補てんするもの | 出産育児一時金 42万円 |
課税所得 | 300万円(所得税率10%) |
上記の例では、医療費控除額は下記のようになります。
●控除額=(65万円-42万円)-10万円=13万円
●還付額=13万円×0.1(10%)=1万3,000円
確定申告の方法
医療費控除は、毎年1月1日から12月31日までにかかった医療費について行います。妊娠と出産で年をまたいだ場合には、それぞれの年ごとに支払った金額を集計し、控除の対象となる場合には確定申告します。
領収証を取っておく
医療費控除をするには、かかった医療費の領収証が必要になります。妊婦検診や出産時の病院等の領収証はなくさないように保管しておき、タクシーに乗った場合にも領収証をもらっておきましょう。
電車やバスの運賃など領収証が残らないものについては、家計簿等に記録しておきます。
確定申告に必要なもの
確定申告をするときには、医療費明細書に医療費の明細を記入すれば、領収証は添付しなくてもかまいません。ただし、領収証の保管は必要です。勤務先からもらった源泉徴収票、マイナンバーカード(またはマイナンバーのわかる書類+本人確認書類)も用意しておきましょう。
国税庁の確定申告書等作成コーナーを利用すれば、簡単に確定申告書を作成できます。パソコンまたはスマートフォンを使って、e-Taxによる電子申告を行うことも可能です。
まとめ
出産費用は、妊婦検診費用を合わせると60万円程度かかりますが、出産費用には公的支援制度があるので、自己負担はそれほどありません。
出産後に確定申告をすれば、還付金が戻ってくることもあります。出産前後は忙しくなりますから、請求できるお金は請求し忘れのないよう、あらかじめ手続き等を確認しておきましょう。
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森本 由紀
AFP(日本FP協会認定)、行政書士、夫婦カウンセラー
大学卒業後、複数の法律事務所に勤務。30代で結婚、出産した後、5年間の専業主婦経験を経て仕事復帰。現在はAFP、行政書士、夫婦カウンセラーとして活動中。夫婦問題に悩む幅広い世代の男女にカウンセリングを行っており、離婚を考える人には手続きのサポート、生活設計や子育てについてのアドバイス、自分らしい生き方を見つけるコーチングを行っている。