2024年(令和6年)からの新NISAは非課税期間が無期限になるため、特に若い人に有利といわれています。しかし、新NISAにはさまざまな変更点があり、シニア世代にも大きなメリットがあるのです。今回はシニア世代が新NISAを利用するメリットと注意点、運用を成功させるコツについて解説します。
新NISAとはどんな制度?
NISA(少額投資非課税制度)とは、株式や投資信託で得られた利益が非課税になる制度です。2024年(令和6年)からNISAは恒久化され、以下のように内容も刷新されます。
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つみたて投資枠(旧つみたてNISA) |
成長投資枠(旧一般NISA) |
口座開設期間 |
恒久化 |
恒久化 |
非課税保有期間 |
無期限 |
無期限 |
年間投資枠(計360万円) |
120万円 |
240万円 |
投資対象 |
長期・分散・積立投資に適した一定の投資信託 |
上場株式・投資信託等 (除外される銘柄あり) |
投資方法 |
積立 |
一括・積立 |
出典:金融庁「新しいNISA」 より筆者作成
新NISAの変更点
現行NISAから新NISAへの主な変更点は、以下のとおりです。
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期間限定だった制度が恒久化され、非課税期間も無期限化される
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現行のつみたてNISAと一般NISAが統合され、つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能になる
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現行制度から年間投資枠が大幅に引き上げられる
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非課税保有限度額1,800万円が設けられ、うち成長投資枠は1,200万円までとなる
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保有する商品を売却して空いた非課税枠を、再利用できるようになる
シニア世代も新NISAを利用できる?
運用の自由度が増す新NISAは現役世代だけでなく、シニア世代にも有益な制度です。
NISAに年齢制限はない
iDeCo(個人型確定拠出年金)は最長64歳までしか加入できませんが、NISA・新NISAに年齢制限はありません。通常、高齢になってからも資産を非課税で運用するニーズがなくなることはないでしょう。若年層に比べて多くの金融資産を持つと考えられるシニア世代にも、NISA・新NISAはメリットのある制度です。
60歳以降でも長期投資の時間はある
長期運用ができる新NISAは若い人に有利な制度ですが、60歳以降の人にも長期投資の時間は十分にあるといえます。 以下は、厚生労働省のデータによる平均寿命の推移です。
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男性 |
女性 |
1947年(昭和22年) |
50.06歳 |
53.96歳 |
1955年(昭和30年) |
63.6歳 |
67.75歳 |
1960年(昭和35年) |
65.32歳 |
70.19歳 |
1975年(昭和50年) |
71.73歳 |
76.89歳 |
1985年(昭和60年) |
74.78歳 |
80.48歳 |
2015年(平成27年) |
80.75歳 |
86.99歳 |
2022年(令和4年) |
81.05歳 |
87.09歳 |
出典:厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況」より筆者作成
60歳から始めても20年以上の運用が可能
平均寿命は延び続け、男女とも80歳を超えています。現行のつみたてNISAの非課税期間は20年ですが、多くの人は60歳から始めても20年以上の長期運用が可能と考えられます。
また、新NISAは引き出すまで非課税運用が続けられるので、新規に買付をしなくなっても資産を増やしていけるでしょう。
60歳以降に働く人は増えている
公的年金の受給開始は65歳からのため、60歳から65歳未満の半数以上が働いています。以下は、男女別の就業率の表です。
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男性 |
女性 |
60~64歳 |
83.9% |
62.7% |
65~69歳 |
61.0% |
41.3% |
70~74歳 |
41.8% |
26.1% |
75歳以上 |
16.7% |
7.3% |
出典:総務省「労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の概要」より筆者作成
年金を受け取れる65歳以降も、働く人は少なくないことがわかります。働いて収入のあるうちは、完全なリタイア後のために積立投資で資産の積み増しもできるでしょう。
シニア世代が新NISAを利用するメリット
新NISAは、シニア世代にとって以下のようなメリットがあります。
インフレリスクに対応できる
NISAで資産を運用すると、インフレリスクへの対応が期待できます。長い老後生活では、継続的に物価が上昇する可能性があります。総務省によると2022年(令和4年)の消費者物価指数(総合指数)は、前年度比3.2%の上昇でした。この水準で物価が上がり続けると、預貯金だけでは資産が目減りします。
NISAでは資産が将来いくらになるかはわかりませんが、長期で運用すると物価上昇以上の成果が見込めます。資産を増やすのでなく、インフレから資産を守る目的で活用するのです。
老後資産が長持ちする
新NISAで老後資金を運用しながら取り崩すと、預貯金に比べて資産が長持ちします。新NISAは非課税期間が無期限のため、新規の買付をしなくなっても非課税運用を続けられるためです。
たとえば、65歳から2,000万円の資産を毎月8万円ずつ運用せずに引き出すと、85歳10カ月で底をつきます。一方、年率2%で運用しながら引き出すと、91歳11カ月まで引き出せる期間が延びるのです。
実際の運用成績には波があり、マイナスになる時期もあるかもしれません。そのような場合は、取り崩す金額を控えめにするとよいでしょう。
引き出し時に税金がかからない
iDeCoで年金資産を受け取る際には税金がかかりますが、NISAの引き出しにはかかりません。通常の特定口座などからの運用益には20.315%の税金がかかるため、10万円の運用益があっても手取りは約8万円です。
しかし、NISAでは全額を受け取れます。収入の限られる老後はできるだけ税の負担も抑えたいので、NISAの非課税メリットはシニア世代にも有益です。
必要なときに引き出せる
新NISAは無期限に非課税運用ができ、自分の都合のいいときに引き出せます。たとえば、シニア世代でも加入できる生命保険の一時払い商品は、一般的に将来支払った保険料以上の解約返戻金が支払われます。しかし多くの場合、短期間での解約では元本割れしてしまうのです。
シニア世代には、自宅の修繕、病気療養、子どもへの援助、高齢者施設への入居など引き出しの必要なケースがさまざまに考えられます。始めてすぐに資産を売却してもペナルティのようなものを受けないNISAは、シニア世代に使いやすい制度といえます。
シニア世代が新NISAを利用するリスク・注意点
新NISAはシニア世代にとっても魅力ある制度ですが、以下のような注意点があります。
元本割れの可能性がある
NISAの投資対象は値動きのある株式や投資信託であるため、元本割れの可能性があります。経済的な余裕のあるシニア世代は、NISAの勧誘を受けるケースも多いでしょう。その際に預貯金のようなものと誤解して始めると、値下がりに驚くようなことも考えられます。
新NISAのつみたて投資枠は投資未経験者でも取り組みやすくはありますが、想定されるリスクを理解してから始めましょう。
保有する運用商品をNISA口座に移せない
特定口座などですでに保有している運用商品は、NISA口座に移せません。金融庁によると、銀行および大手証券会社における投資信託保有顧客数の割合・資産残高は、60代以上が半数以上を占めています。
新NISAでは非課税枠が増えるので、特定口座から移したいと考える人もいるでしょう。その場合は一旦売却して、NISA口座で改めて買い直すことになります。
NISA枠利用促進の勧誘を受けるおそれがある
新NISAでは、若年層に比べて金融資産を多く保有するシニア世代は、NISA枠拡大に伴いNISA利用促進の勧誘を受けるおそれがある点に注意しましょう。現行NISAは、資産を売却すると空いた非課税枠の再利用はできませんでした。これに対し、新NISAでは売却後に非課税枠が復活し、再度買付ができるようになります。
金融庁は乗り換え勧誘を問題視
金融庁はこの仕組みを利用した、運用商品を短期間で乗り換える勧誘を問題視しています。 顧客が保有する商品に利益が出たところですぐに売って他の商品を購入すれば、金融機関に手数料が入りやすいためです。NISAの基本は長期運用なので、乗り換えは慎重に検討しましょう。
シニア世代が新NISAでの運用を成功させるコツ
最後に、シニア世代が新NISAで運用を成功させるコツを解説します。
余裕資金を超えてNISAに回さない
投資はすぐ使う予定のない余裕資金で行うものなので、生活費などをNISAに回さないようにしましょう。たとえば、新NISAでは年間の投資枠が合計360万円に拡大されるため、毎月30万円の積立ができます。老後資金を60歳以降に短期間で準備したい人は利用しやすくなりますが、そのために家計が圧迫されて生活費が足りなくなったら本末転倒です。積立をするなら家計を見直し、無理なく続けられる積立額を設定しましょう。
初心者は少額から始める
60歳以降に新NISAで初めて資産運用する人は、最初は少額から始めるとよいでしょう。一般的に、シニア世代は若い人に比べてリスク許容度が低いといわれています。大金で買付けた商品が大きく値下がりしたら、運用を続ける意欲を失うおそれがあります。新NISAの非課税枠が引き上げられるといっても、使い切る必要はありません。
また、最低投資額は金融機関ごとに決められていて、つみたて投資枠では毎月1,000円から始められる場合もあります。少額で始めてみて金融商品の値動きに慣れたところで、金額を増やすとよいでしょう。
リスクが高い商品は避ける
シニア世代は、株式だけの投資信託のようなリスクが高めの商品を選ばないほうが無難でしょう。引き出しを控えた時期や、引き出しが始まってからの大きな損失は避けたいためです。若い人であれば長期の運用期間中に運用資産が大きく減ったとしても、時間をかけて挽回もできるでしょう。
しかし、高齢になってから取り崩しの最中に資産が半分になるような値下がりは、大きなダメージとなります。長期の運用では、リーマンショックのような経済変動を想定しておくべきです。シニア世代には、その際の影響が大きくなりすぎない運用が必要となります。
仕組みのわからない商品は買わない
新NISAで運用商品を選ぶ際に、仕組みや内容のわからない商品を買わないようにしましょう。たとえば、投資信託をすすめられて興味を持ったとしても、投資対象や想定されるリスクなどを理解できないケースも考えられます。その場合、投資を見送る勇気が必要です。高齢になるとリスク許容度の低下以外に、認知の低下も問題になってきます。
金融機関ごとに高齢の顧客を保護する対応が定められていますが、最終的なリスクは本人が負わなければなりません。わからない点は納得できるまで担当者に確認するようにしましょう。
まとめ
シニア世代は現役世代に比べて保有する資産が多く、新NISAによって非課税枠が引き上げられる点は大きなメリットとなります。引き出しまでに退職金や60歳以降に働いたお金で新NISAの運用商品を買付けると、非課税運用しながらの取り崩しが可能です。
2023年(令和5年)までは現行NISAが利用でき、買付けた商品は新NISAとは別枠で管理されます。そのため、新NISAを始める前に現行NISAを始めたほうが、非課税枠を多く使えます。
西日本シティ銀行では69歳以下の人は来店しなくても、アプリでNISA口座の開設が可能です。店舗で相談したい人は、「ご来店予約サービス」の利用をおすすめします。
*投資信託のご留意事項について
商号等:株式会社西日本シティ銀行 登録金融機関 福岡財務支局長(登金)第6号
加入協会:日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会
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松田聡子
群馬FP事務所代表、CFP®、証券外務員二種、DCアドバイザー
国内生保で法人コンサルティング営業を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在は法人向けには確定拠出年金の導入コンサル、個人向けにはiDeCoやNISAでの資産運用や確定拠出年金を有効活用したライフプランニング、リタイアメントプランニングを行っている。