2024年からNISAは抜本的な拡充が図られ、恒久化します。まだNISAを始めていない場合、2024年の新制度まで待つか、2023年(令和5年)から始めたほうがよいか迷う人もいるでしょう。今回は、新NISAと現行NISAの違いと、2023年(令和5年)中に現行NISAを始めるメリットなどを解説します。
新NISAと現行NISAの違い
2022年(令和4年)12月の「令和5年度税制改正大綱」により、2024年以降のNISAの恒久化と抜本的な拡充の内容が示されました。
以下は、現行NISAと新NISAの主な相違点をまとめた表です。それぞれの内容について詳しく解説します。
現行NISAと新NISAの比較
|
現行NISA |
新NISA |
存続期間 |
一般NISA:2027年まで つみたてNISA:2042年まで 新規買付は2023年(令和5年)まで |
2024年から恒久化 |
非課税保有期間 |
つみたてNISA:最長20年間(2042年まで) 一般NISA:最長5年間(2027年まで) |
無期限 |
年間投資上限額 |
つみたてNISA: 40万円 一般NISA: 120万円 |
つみたて投資枠: 120万円 成長投資枠: 240万円 合計: 360万円 |
非課税保有限度額 |
つみたてNISA: 800万円 一般NISA: 600万円 |
買付額ベースで1,800万円 (成長投資枠は1,200万円以内) |
投資対象 |
つみたてNISA: 金融庁が選定した投資信託・ETF 一般NISA: 株式・投資信託・ETF・REITなど |
つみたて投資枠: つみたてNISAと同様 成長投資枠: 一般NISAから一部除外 |
非課税枠の再利用 |
不可 |
可能 |
制度の併用 |
不可 |
可能 |
買付方法 |
つみたてNISA: 積立 一般NISA: 一括・積立 |
つみたて投資枠: 積立 成長投資枠:一括・積立 |
時限的な制度から恒久的な制度へ
現行のNISAは一般NISAが2023年(令和5年)、つみたてNISAは2042年までと有期の制度です。一方、2024年からの新NISAは、期間の定めのない恒久的な制度になります。
現行制度では早くNISAを始めないと、非課税期間が減って投資できる金額も少なくなる不利益がありました。新NISAで制度が恒久化されると開始時期による有利不利がなくなり、いつ始めても非課税保有限度額が減ることはありません。そのため、個人のライフプランや余裕資金の状況に合わせた、柔軟な運用が可能になります。
非課税期間が無期限化
新NISAでは制度自体の期限だけでなく非課税期間も撤廃され、無期限になります。現行では一般NISAで最大5年、つみたてNISAには最大20年の非課税期間があります。非課税期間が終了すると、NISAの資産は特定口座などの課税口座に移管されます。一般NISAの場合は、ロールオーバーといって、翌年の非課税枠に移管する選択肢もあります。
しかし、新NISAでは非課税期間がずっと続くため、課税口座への移管やロールオーバーを考える必要がありません。
長期投資のメリットが得やすくなる
新NISAでは20年以上の非課税運用も可能なため、運用益がさらに運用されて増えていく「複利」の効果を得やすくなります。また、運用期間が長いほど資産の値動きのリスクが小さくなり、安定した収益が期待できます。
つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能に
現行の一般NISAとつみたてNISAは別々の制度であり、どちらか1つを選択する仕組みでした。新NISAでは一般NISAは成長投資枠、つみたてNISAはつみたて投資枠にそれぞれ引き継がれて統合され、2つの投資枠が併用できるようになります。
2つの投資枠が併用できるようになると、どちらを選べばよいかを考える必要がなくなります。また、積立投資をしながら成長投資枠を利用してボーナスで一括投資をする、というような活用法も可能になるのです。
年間投資上限の大幅な引き上げ
現行の一般NISAは年間120万円、つみたてNISAは年間40万円が上限でしたが、新NISAでは成長投資枠240万円、つみたて投資枠120万円に拡大されます。成長投資枠とつみたて投資枠は併用できるため、年間で計360万円までの非課税投資が可能になるわけです。
投資上限額が拡大されても、毎年使い切る必要はありません。余裕資金の多い人は多く投資し、そうでない人は少しずつ時間をかけて非課税枠を埋めていけばよいのです。
非課税保有限度額(総枠)での管理に
新NISAでは非課税期間を撤廃し、個人単位の非課税保有限度額(総枠)1,800万円が新設されます。現行のつみたてNISA800万円(40万円×20年)、一般NISA600万円(120万円×5年)から、大幅に個人単位の限度額も引き上げられました。
1,800万円のうち、成長投資枠は1,200万円までです。つまり、総枠1,800万円全額を使う場合、少なくとも600万円はつみたてNISAを利用することになります。
売却した空き枠の再利用が可能に
現行NISAでは保有する商品を売却すると、空いた枠を利用しての再投資はできません。新NISAでは商品の売却によって非課税枠(買付額ベース)が復活し、新たな買付ができるようになります。空き枠が再利用できるようになると、トータルでは1,800万円以上の非課税投資が可能です。
NISAだけで教育資金や老後資金など、ライフイベントごとに必要な資金の多くを準備できるようになるでしょう。
まだNISAを始めていない人は新NISAまで待つべき?
2023年(令和5年)時点で現行NISAを始めていない人は、2024年まで非課税投資を待つべきでしょうか。結論からいうと、2024年を待たずに2023年(令和5年)から現行NISAを始めるほうが有利です。ここでは、今すぐ現行NISAを始めるメリットを解説します。
2023年(令和5年)は現行NISAの口座開設が可能
現行NISAでの新規投資は、2024年以降はできません。しかし、2023年末(令和5年末)までなら一般NISAまたはつみたてNISAの口座開設は可能です。
ただし、つみたてNISAは積立での買付しかできないため、早く始めないと投資できる金額が少なくなります。一般NISAは一括での買付も積立もできるので、これから始めても非課税枠を使い切れます。
現行NISAを今すぐ始めるメリット
2023年(令和5年)のうちに現行NISAを始めるメリットは、主に以下の2つです。
非課税で投資できる金額が増える
2024年に新NISAが始まっても、現行NISAは別の制度として非課税枠が別枠で管理されます。そのため、現行NISAで投資をしている人は、新NISAの1,800万円の非課税限度額に現行NISA分が上乗せされるのです。投資の元本が多ければ、それだけ多くの資産形成が期待できます。
たとえば、2023年(令和5年)に15万円分の投資信託を買い付けるとします。この投資信託を利率2.0%で20年間運用すると、元利合計で20万5,803円になります(金融広報中央委員会「らくらくシミュレーション」より)。NISA制度を利用すれば運用益の約5万6,000円に課税されず、全額受け取れるのです。
投資のリスクを体験できる
投資のスキルは実践を通じて身に付くもので、早く始めるほど得策です。NISAは中長期的な資産形成を目指した制度で、商品価格の短期的な変動に振り回されず、コンスタントに運用を続けることが重要です。
ただし、初心者が投資を始めて直ぐに価格の下落を経験すると、驚愕してしまうこともあるでしょう。それこそ、今からNISAを始めて運用商品の価格変動に慣れることが、今後の長期運用で適切な判断を行うための第一歩となります。
2023年(令和5年)に始めるなら一般NISAとつみたてNISAのどちらを選べばいい?
2023年(令和5年)のなるべく早いうちに現行のNISAを始める場合、一般NISAとつみたてNISAのどちらを選ぶとよいのでしょうか。
一般NISAの特徴と注意点
一般NISAは年間120万円まで投資でき、最長5年の非課税期間があります。2023年(令和5年)に購入した商品は、2027年まで非課税で保有できます。投資方法は通常の一括買付も積立も選択可能です。2023年(令和5年)から始める場合、少しでも多くの資金を投資したい人には一般NISAが適しています。
ロールオーバーできなくなる
一般NISAでは非課税期間終了時に課税口座への移管の他に、ロールオーバーが選べました。しかし、現行NISAから新NISAへのロールオーバーはできません。2023年(令和5年)に購入した分は非課税期間終了後には売却か、課税口座への移管からの選択となります。
つみたてNISAの特徴と注意点
つみたてNISAは年間40万円まで投資でき、非課税期間は最長20年です。2023年(令和5年)に買付けた場合、2042年まで非課税で保有できます。つみたてNISAは初心者が始めやすいように、長期・積立・分散投資に適した投資信託が金融庁によって絞り込まれています。
投資方法が積立に限定され、積立の設定をすると毎月自動的に買付が行われる仕組みです。そのため、投資のタイミングを考える必要がありません。つみたてNISAは初心者だけでなく、投資に時間をかけられない忙しい人にも向いています。
年の途中からでは投資額が少なくなる
つみたてNISAはスポット購入ができないため、年の途中から始めると非課税枠を使い切れません。遅く始めるほど投資できる金額が少なくなります。2023年(令和5年)につみたてNISAを始めるなら、すぐにでも口座開設をしましょう。
どちらを選んでよいかわからない人はつみたてNISA
以上を踏まえ、一般NISA、つみたてNISAのうち自分に合ったほうを選んでスタートします。それでも、どちらを選んでよいかわからない人は、つみたてNISAを選ぶとよいでしょう。
その理由は、非課税期間終了時に値下がりしている可能性が、つみたてNISAより非課税期間の短い一般NISAのほうが高いからです。
一般NISAは非課税期間終了時に値下がりも考えられる
金融庁の資料に、過去の実績から5年間投資した場合と20年間投資した場合における元本割れの確率を示したものがあります。それによると、標準的な国際分散投資を20年続けた場合に元本割れはなく、5年間では元本割れのケースもあります。
このことから、非課税期間が最長20年のつみたてNISAは、移管時の元本割れのリスクはそれほど高くないでしょう。しかし、一般NISAは非課税期間が最長でも5年と短く、非課税期間終了時に値下がりしていることも十分考えられます。これから一般NISAでの購入分はロールオーバーもできないため、つみたてNISAを選ぶほうが無難といえます。
参考:金融庁「教えて虫取り先生」
2023年(令和5年)までに買付けた分はそのまま非課税保有が可能
2023年(令和5年)に購入した商品だけでなく、現行の制度で投資した分はそれぞれの非課税期間終了まで保有できます。ただし、現行NISAで非課税期間が完了した資産を、新NISAに払い出せません。引き続き非課税投資を希望する場合、一旦売却して新NISAで買い直すことになります。
まとめ
新NISAに2024年から投資を始めようと考えている方でも、2023年(令和5年)から現行NISAを始めた方が有利な場合があります。一般NISAよりもつみたてNISAは取り組みやすく、非課税期間終了時の元本割れリスクも低いと言えます。しかし、つみたて投資の特性上、始めるのが遅ければ投資できる金額も少なくなります。ですから、早めに始めることをおすすめします。
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商号等:株式会社西日本シティ銀行 登録金融機関 福岡財務支局長(登金)第6号
加入協会:日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会
松田聡子
群馬FP事務所代表、CFP®、証券外務員二種、DCアドバイザー
国内生保で法人コンサルティング営業を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在は法人向けには確定拠出年金の導入コンサル、個人向けにはiDeCoやNISAでの資産運用や確定拠出年金を有効活用したライフプランニング、リタイアメントプランニングを行っている。