金融リテラシーとは、お金の知識や判断能力を意味する言葉です。私たちは「商品を買う」「給与を受け取る」など、さまざまな場面でお金にかかわっています。経済的に自立して生活していくには、お金とうまく付き合うことが大切です。今回は、金融リテラシーの内容やお金に関する判断能力を高める方法を紹介します。
金融リテラシーとは
冒頭で述べた通り、金融リテラシーとは、お金の知識や判断能力を意味する言葉です。
十分な生活基盤を持ってより良い生活を送るには、家計をうまく管理する必要があります。また、自分に合った保険や金融商品を選んだり、投資詐欺などのトラブルを避けたりすることも大切です。知識だけでなく、自ら情報収集を行って適切な判断ができる能力が求められます。
日本の金融教育の現状(米国との比較)
「日本人は金融リテラシーが低い」と言われることもありますが、実際はどうなのでしょうか。まずは、日本と米国の違いを見ていきましょう。
家計の金融資産構成
日本銀行の「資金循環の日米欧比較(2022年8月31日)」によると、家計の金融資産構成は以下のとおりです。
日本 | 米国 | |
現金・預金 | 54.3% | 13.7% |
投資信託 | 4.5% | 12.6% |
株式等 | 10.2% | 39.8% |
保険・年金・定型保証 | 26.9% | 28.6% |
日本の家計は現金・預金が50%以上を占めており、投資信託や株式等の金融商品は20%に満たない状況です。資産運用に消極的な傾向にあり、預貯金や保険の保有割合が高くなっています。
一方、米国は現金・預金の割合が小さく、投資信託と株式等で全体の50%以上を占めています。米国は、日本に比べて積極的に資産運用を行う家計が多いといえるでしょう。
金融教育・金融知識
次に、金融広報中央委員会の「金融リテラシー調査(2022年)のポイント」の内容を紹介します。
複利やインフレといった金融知識に関する正誤問題の正答率は、日本47%に対して米国50%です。「金融知識に自信がある人」の割合は、日本12%に対して米国71%と大きく上回っています。
米国人に比べて日本人は金融知識が不足しており、自信を持っている人も少ないようです。
金融リテラシーが必要な理由
金融リテラシーを身につけることによって、次のような効果が期待できます。
経済的に自立してより良い生活を実現する
金融知識を身につけて判断能力が高まると、経済的に自立でき、より良い生活を実現しやすくなります。
多くの人は、限られた収入をうまくやりくりして生活しなくてはなりません。また、さまざまな場面で貯蓄や資産運用、保険、住宅ローンなどの金融商品と関わることになります。
金融リテラシーが高まれば生活スキルが向上し、お金について適切な判断が行えるようになるでしょう。
質の高い金融商品の普及が期待できる
金融リテラシーの向上は、質の高い金融商品の普及に役立ちます。
近年では、IT技術の進歩や金融に関する規制緩和を背景に、さまざまな金融サービスが生まれています。選択肢は広がりますが、サービスごとの特徴やリスクを理解し、自分に合った商品を選択できる能力が欠かせません。
消費者が十分な知識を持てば適切な競争が生まれるため、金融商品の品質向上が期待できるでしょう。
経済成長への貢献につながる
金融リテラシーを身につけることは、経済成長への貢献にもつながります。
上記で触れたように、日本の家計資産の50%超は預貯金で運用されているのが現状です。しかし、日本は低金利が続いているため、預貯金だけでまとまった資産を作るのは難しいでしょう。
資産運用の必要性への理解が深まり、家計の金融資産が少しでも株式などに向かえば、経済全体の活性化が期待できます。
最低限身につけておきたい金融リテラシーの内容とは
教育と金融それぞれの専門家が経験や知識を共有し、金融経済教育の充実と発展について研究を行っている金融経済教育研究会の「金融リテラシー・マップ」では、最低限身につけるべきお金の知識・判断能力が示されています。ここでは、金融リテラシー・マップの主な内容を確認していきましょう。
家計管理
家計管理では、家計の赤字解消・黒字確保を実現するために、適切な収支管理を習慣化する必要があります。
家計収支を適切に管理することの必要性を理解し、習慣となっているのが望ましい状態です。また、収入や支出を把握できることも重要となります。必要なものと欲しいものを区別し、計画的にお金を使える状態が理想といえるでしょう。
具体的には、「給与明細などで収入の手取り額を把握する」「家計簿をつける」などの行動が該当します。
生活設計
生活設計では、ライフプランを踏まえて資金を確保する必要性を理解することが目標です。
ライフプランとは、人それぞれの価値観に基づく人生の生き方・構想を意味します。結婚、出産・子育て、住宅、老後といったライフイベントの他、旅行や実現したい夢なども含まれます。
夢や希望を実現するにはライフプランを立て、必要に応じて見直すことが大切です。ライフプランの実現に必要な資金を把握すれば、貯蓄や運用などによって計画的にお金を準備できるでしょう。
金融取引の基本
金融取引の基本において、最低限身につけておくべき内容は以下の3つです。
契約にかかる基本的な姿勢(契約書をよく読む、不明点を確認するなど)を習慣化する
情報の入手先や契約の相手方が信頼できるかを確認することを習慣化する
インターネット取引は利便性が高いが、対面取引とは異なる注意点があることを理解する
契約内容や責任を確認し、理解できない場合は契約しないことが大切です。また、トラブルを回避するためにも、情報の信頼度や不正アクセス・情報漏洩のリスクなどを理解しておくことも重要といえます。
金融・経済の基礎(金融商品の選び方)
金融・経済の基礎については、以下2つを身につけておく必要があります。
金融・経済の基礎となる重要事項(金利、インフレ、為替、リスク・リターンなど)を理解している
取引の実質的なコストを把握することの重要性を理解している
金融商品の説明では、さまざまな専門用語が使われます。用語の意味を理解しておかないと、自分に合った商品を選ぶのは難しいでしょう。また、金融商品の取引コストは運用成績に影響を与えるため、費用がいくらかかるかを把握しておくことも重要です。
>>初心者の方はこちらから、ステップで基礎から学ぼう投資信託
保険商品
保険商品では、自分にとって保険でカバーすべき事象(死亡、病気、火災など)と経済的保障の必要額を理解するのが目標です。
保険は、商品ごとに補償内容が異なります。備えるべきリスクを理解したうえで、加入目的と保険商品の内容が合致しているかを確認できる状態が望ましいでしょう。
その際は、「遺族年金」「高額療養費制度」などの社会保障制度も考慮して必要保障額を決める必要があります。
ローン・クレジット
ローン・クレジットについて、最低限身につけておきたい金融リテラシーは以下のとおりです。
住宅ローンやマイカーローン等は無理のない返済計画を立て、返済が困難となる事態に備えることの重要性を理解する
無計画にカードローンやクレジットカードを利用しないことを習慣にする
例えば、住宅取得では、多くの人が年収を上回る金額を借り入れ、返済期間は10~35年程度と長期にわたります。金利タイプや諸費用、返済条件などを理解し、無理なく返済できる範囲で利用することが大切です。
クレジットカードは返済方法が複数あることを理解したうえで、使いすぎに注意する必要があります。
資産形成商品
資産形成商品については、以下2つを身につけるのが目標です。
高いリターンを得ようとする場合は、より高いリスクを伴うことを理解する
資産形成における分散や長期運用の効果を理解する
資産運用のリスク許容度(損失に耐えられる度合い)は、人によって異なります。リスクとリターンの関係を理解し、自分に合った資産形成商品を選択することが重要です。
資産や時間を分散した長期運用がリスク軽減につながることを理解すれば、安心して資産形成に取り組めるでしょう。
外部の知見活用
金融リテラシー・マップでは、金融商品を利用する際に、外部の知見をうまく活用する必要性を理解することにも触れています。
金融商品は専門性が高く、仕組みも複雑です。元本が保証されておらず、運用については心理的・感情的な要素にとらわれることもあります。必要に応じて専門家にアドバイスを求めれば適切な投資判断ができ、トラブル防止も期待できるでしょう。
金融リテラシーはいつから身につけるべき?
金融リテラシーを高めるには、小学生からお金について学び始めるのがおすすめです。2022年(令和4年)4月から金融教育が義務化されたため、小学校からお金の授業が行われます。しかし、専門の教科があるわけではありません。おこづかいやお年玉の使い方について話し合うなど、家庭でもお金について教える機会を作ることが大切です。
各年代の課題と習得しておきたい内容
各年代で習得しておきたい内容は以下のとおりです。
小学生 | お金に関わる経験・知識・技能を身につけ、社会で生きていく力の素地を養う |
中学生 | 家計や生活設計について理解し、将来の自立に向けた基本的な力を養う |
高校生 | 生活設計の重要性や社会的責任を理解し、社会人として自立するための基礎能力を養う |
大学生 | 社会人として自立するための能力を確立する |
若年社会人 | 生活面、経済面で自立する |
一般社会人 | 社会人として自立し、本格的な責任を担う |
高齢者 | 定年退職、年金生活へ適応する |
小学生は「おこづかい帳をつける」など、できることから始めるといいでしょう。中学生なら、家計の管理方法について話し合うのもよいかもしれません。高校生は18歳で成人になることを見据え、クレジットカードやローンの知識を身につけておくことが重要です。
金融リテラシーを高めるメリット
金融リテラシーを高めることで、次のようなメリットを得られます。
無理なくお金を貯められる
金融リテラシーが高まると家計管理がうまくなるため、無理なくお金を貯められます。欲しいものと必要なものと区別する判断能力が身につけば、無駄な出費を抑えられるでしょう。給与を先に貯蓄に回し、残ったお金で生活することが習慣化されると、自然と貯蓄できるようになります。
手取り収入アップが期待できる
金融リテラシーを身につけ、税金の仕組みを理解すると手取り収入アップが期待できます。
例えば、投資信託の積立投資をする場合、「iDeCo(個人型確定拠出年金)」を活用すれば掛金は所得控除の対象です。所得控除は課税所得を減らす効果があるため、所得税や住民税の負担軽減につながります。
iDeCoのように税優遇を受けられる制度を知り、うまく利用することで手取り収入を増やせるでしょう。
自分に合った金融商品・保険を選択できる
金融リテラシーは、金融商品や保険の選択にも役立ちます。
金融商品は「株式」「投資信託」「債券」などがあり、期待リターンやリスクが異なるのが特徴です。保険も、商品によってカバーできるリスクや補償内容に違いがあります。
資産運用や保険の基礎知識を習得すれば、目的や起こりうるリスクに応じて適切な商品を選択できるでしょう。
金融トラブルを回避できる
金融リテラシーを身につけると、金融トラブルを回避できるのもメリットです。
近年では、投資詐欺に巻き込まれる人が増えています。「必ずもうかる」「あなただけに紹介する」などの甘い言葉で勧誘し、お金を出すと音信不通になるのが一般的な手口です。最低限の知識があれば「おかしい」と気づけるため、トラブルを避けられるでしょう。
金融リテラシーを身につける方法
金融リテラシーを身につけるには、次のような方法があります。
インターネットで学ぶ
インターネット上には、金融や経済の基礎知識を学べるコンテンツが掲載されています。
金融庁のサイトでは、幅広い年齢向けにパンフレットや教材を提供しており、お金の基本を学ぶことが可能です。金融広報中央委員会の「知るぽると」でも、お金の知恵を学ぶリンク集を対象者別に紹介しています。まずは興味のある内容から読んでみるといいでしょう。
書籍を読んで学ぶ
金融や経済に関する書籍を読んで学ぶ方法もあります。お金に関する本は多数販売されており、初心者向けから上級者を対象としたものまで難易度はさまざまです。初めて学ぶ場合は、お金の基本が一通り学べる初心者向けの本を選ぶといいでしょう。
>>お金の勉強にオススメの本10冊|初心者でもお金の基本~応用まで知識が身につく
少額から投資を始めてみる
投資すれば、株価や経済ニュースへの関心が高まるため、自然とお金の知識が身につきます。投資信託であれば、1,000円程度の少額から購入可能です。非課税制度の「つみたてNISA」を活用すると、利益に税金がかからず手取り額を増やせるのでお得といえます。
まとめ
最低限の金融リテラシーを身につけると、生活スキルが向上します。自然と無駄な支出が減り、資産運用にも取り組めるようになるため、お金に対する不安が解消されるでしょう。金融・経済の知識を身につけるためにも、つみたてNISAで少額から投資を始めてみてはいかがでしょうか。
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AFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て、2017年10月より金融ライターとして活動。10年以上の投資経験とFP資格を活かし、複数の金融メディアで執筆中。