スメルハラスメントとは、周囲の人を不快にさせるにおいが原因のハラスメントです。本人に自覚がないことも多く、デリケートな問題ゆえ、改善に苦慮する職場も多くみられます。この記事ではスメルハラスメントについて、定義や具体的ケース、個人や職場で取り組める対策・対処法について解説します。
スメルハラスメントとは
ハラスメントの一種として、スメルハラスメントが挙げられるようになりました。「スメハラ」とも略されるスメルハラスメントとは、どのようなものなのでしょうか。
スメルハラスメントの意味
スメルハラスメントとは、においを意味する「スメル」と、人を困らせることを意味する「ハラスメント」を組み合わせた言葉です。
スメルハラスメントの定義
つまり、スメルハラスメントとは、においが原因で周囲の人を不快にさせることです。
特に職場において、スメルハラスメントに関する声が増えています。体調不良や仕事に集中できないなど、実務に悪影響が出ている例もあるのです。
明確な「においの基準」は存在しない
においの感じ方は、人により異なります。スメルハラスメントになるかを決める、においの基準はありません。
自分は気をつけているつもりでも、周りの人が「このにおいは受け付けない」と感じれば、スメルハラスメントになる恐れがあります。自分で気付くのが難しいハラスメントの一つです。
自分のにおいは気づきにくい
ハラスメントに対する意識が高まる中、においケアを意識的に行なっている人も増えています。それでも、スメルハラスメントは起こり得ます。
自分のにおいは自覚しにくいものです。鼻がにおいに慣れてしまうと、自分がにおうことをなかなか把握できません。ここにスメルハラスメント対策の難しさがあります。
スメルハラスメントの具体的なケース
どのようなにおいが、スメルハラスメントに該当するのでしょうか。具体例を5つ挙げてみます。
体臭
誰もが持っている体臭は対策が難しいものの、スメルハラスメントに数えられるものです。においの強さは人により異なり、汗や身体・髪の清潔度、加齢臭などが主な原因となり得ます。
また、普段は体臭が強くなくても、緊張して一時的に体温が上昇したり、疲れが溜まっていたりするとにおいが気になることもあります。
口臭
体臭と同じく、口臭もスメルハラスメントの代表格といえるでしょう。本人は気をつけているつもりでも、日頃の歯磨き方法や口腔内疾患、体調、食事、嗜好品などにより口臭が強くなることもあります。
口臭を気にしてタブレットなどを日常的に食べている場合、その香りがかえって「におう」と感じられてしまうこともあるため注意しましょう。
衣類の柔軟剤
洗濯で使用している柔軟剤も、スメルハラスメントの要因です。香りの感じ方には個人差があり、人工的な香りが苦手な人もいます。
また、化学物質過敏症の人が柔軟剤の香りを嗅ぐと、頭痛やめまいなどの体調不良になる恐れもあるのです。職場に該当する人がいる場合、柔軟剤を使っている人の近くで働くのは非常につらいことでしょう。
香水・整髪料・化粧品
普段何気なく愛用している香水やヘアケア用品、化粧品なども注意が必要です。本人は身だしなみに気をつけているつもりでも、においが強ければ周囲からの評価はかえって下がってしまいます。
使い慣れているものに含まれる香料は、使い続けるにつれ鼻が慣れてしまい、香りを感じる度合いが弱くなります。少量でも強く香るものもあります。使用時には十分配慮したいものです。
タバコ
喫煙者はあまり感じないタバコのわずかな残り香も、非喫煙者からは煙たがられているケースが多いです。
近年、完全禁煙や分煙が進んでいます。しかし、喫煙後しばらくはにおいが身体についてしまうため、喫煙者が職場に入ると嫌がられることがあります。
香りが少ない電子タバコなども人気ですが、それでも非喫煙者の中には強いにおいを感じる人はいます。
スメルハラスメントと香害の違いとは
香害とは、人工的な香料が原因で体調不良を引き起こしてしまうことです。化学物質過敏症が、その代表例といえます。
スメルハラスメントと香害には相違点があります。スメルハラスメントは体調不良だけでなく、「不快」「嫌だ」といったメンタル面への悪影響もハラスメントに含んでいます。一方、香害が問題とするのは、頭痛やアレルギーなどの身体症状です。
スメルハラスメントの社内における問題点
同僚のにおいが気になっても、できるだけ我慢する人が大半ではないでしょうか。ただ、仕事にも支障が出てしまうケースもあり、スメルハラスメントは軽視できません。
職場におけるスメルハラスメントの影響とは、どのようなものなのでしょうか。
仕事への意欲・集中力低下
仕事を頑張りたいと思っていても、においが気になると集中力を失います。それが個人単位ではなく複数人を巻き込むことになると、職場全体の意欲低下に繋がりかねません。オフィスや会議室の広さによっては、スメルハラスメントの悪影響がより強く出ることもあります。
中には「気にしすぎだ」と感じる人もいるでしょう。しかし、個人の感じ方は千差万別であり、スメルハラスメントと感じることもあると理解しておきましょう。
体調不良
不快なにおいだな、と感じるだけでなく、それが体調不良につながってしまうのもスメルハラスメントの一側面です。
体調不良は、外から見ると分かりにくかったり、本人が必死に我慢することで症状が隠されたりしてしまう場合があります。においに起因する問題は、その原因となっている人に打ち明けにくいものです。また、仮に本人が症状を訴えても、「気にしすぎ」「気のせいだ」と軽く対応されてしまうケースも存在します。
いじめ
スメルハラスメントが、いじめに発展するという問題もあります。「あの人とは一緒に仕事をしたくない」「座席を離してほしい」など、においが原因で周囲からネガティブな声が上がり、環境が悪化してしまうのです。
職場の人間関係は、仕事のパフォーマンス低下につながります。さらに進んで、においの原因とされる人への冷遇や攻撃の恐れもあります。最終的に職場にいられなくなり、退職に追い込まれることもあるなど、軽視できません。
スメルハラスメントは対応・改善が難しい
さまざまな影響を及ぼすスメルハラスメントですが、好まれないにおいの基準がない分、会社全体や職場単位での対応に苦戦する面もあります。
においの感じ方は人それぞれ
同じにおいであっても、捉え方は人それぞれです。においを発する本人に自覚がなかったり、周囲のごく一部の人のみ嗅覚が鋭かったりと、感じ方はまちまちです。
また、HSPや発達障害の人は、においに対して敏感といわれています。同じ環境下でも感じ方に個人差があるため、企業側の対応は困難を極めます。
デリケートな問題
においに関しては、体質や障害、感覚などが深く関係するため、踏み込みにくいテーマです。ましてや職場の人間関係を考えると、においに関する話題は非常にデリケートなものといえます。
企業から個人へ注意を促すとしても、多くの課題が生じます。伝え方次第では当事者を深く傷つけ、体調不良や出社困難な事態を引き起こしかねません。そのため、従業員から相談を受けても、企業が有効な対策・改善に着手できないことも多いのです。
対処法次第ではモラハラになるケースも
とてもデリケートな問題である分、対策や対処法に十分な配慮が求められます。特に、スメルハラスメントの当事者へその旨を伝えるときは、気遣いや工夫が必要です。
ハラスメントは、受け手の感じ方が重要なポイントになります。スメルハラスメントの指摘は、伝え方次第では指摘した側のモラルハラスメントにもなりかねません。数多くの気遣いが必要なため、具体的な対策を取れないケースも多いです。
モラハラとは
モラルハラスメント(モラハラ)とは、道徳や倫理(モラル)に反する言動をすることで受け手に嫌な思いをさせることです。モラハラを受けた側は、精神的に大きな傷を負うことになります。
スメルハラスメントと同様に、言動の受け手側が「モラハラである」と感じるかどうかが鍵となります。
個人や職場でできるスメルハラスメント対処法
過度に意識する必要はありませんが、良好な職場環境や人間関係を築くための対策をすると効果的です。ここからは、スメルハラスメントを引き起こさないための対処法を紹介します。
においの原因を探る
自分から発するにおいがなんとなく気になるという人は、においの原因を探ることをおすすめします。
「スメルハラスメントの具体的なケース」項で挙げた体臭や口臭、衣類の柔軟剤、香水・整髪料・化粧品、タバコについてチェックします。当てはまるものが見つかったら、具体的な対処法を考えましょう。
辞められるもの・変えられるものはないか
柔軟剤や化粧品などは、他のものを使ってみる、もしくは潔く辞めてみるのも有効です。タバコについては、これを機に禁煙を目指すのもよいでしょう。特に外から取り入れたり身につけたりするものは、使用を辞める、または代替品にすることでにおいの原因を抑制できます。
検査キットで体臭を調べる
自分の体臭は、自覚しにくいものです。とはいえ周囲の人に意見を求めるのも勇気がいりますし、「におう」と本音で答えるのはハードルが高いといえます。
客観的に自分のにおいを知るために、体臭検査キットを使ってみるのも一つです。インターネットで購入できるものもあります。
生活や職場の環境を見直す
生活スタイルを見直してオフィス環境を改善することも、有効なスメルハラスメント対策になります。
生活環境の改善
汗っかきならこまめに汗を拭き着替えを用意する、口臭が気になるなら口腔ケアを丁寧に行うなど、できることから取り組んでみましょう。
加齢臭についても、生活サイクルを整えたり、においに効く洗剤を使って衣類を洗濯したりすることで改善される可能性があります。
職場環境の改善
オフィスでスメルハラスメントを指摘する声が上がったら、何らかの形で本人が自覚できるよう対応しましょう。直に伝える場合でも、個人面談の実施や、人事担当者から指摘してもらうようにするとトラブルになりにくいです。
においの問題はセンシティブなものであり、直接本人に伝えるのが難しいケースもあります。その場合は、マナー研修の実施や座席の変更などで対応します。
ビジネスマナーの一環としてにおい対策を組み込む
職場全体でビジネスマナー研修をして、スメルハラスメントに関するカリキュラムを組み入れます。においによる他者や仕事への影響、起こりうる問題を解説して各自でにおいについて振り返り、改善方法を見つけられる研修内容が望ましいです。
においについて自分自身で自覚できれば、周囲の人が指摘しなくても問題解決につながることがあります。個人攻撃になりにくく、モラハラの心配も防げます。
座席の配置を変える
本人に直接スメルハラスメントを指摘しなくても、状況を改善できる方法は他にもあります。
たとえば、座席の配置変えを行います。オフィスの空調を確認し、当事者が風下の席になるよう工夫します。暑がりで汗をかきやすい人なら、空調がよく効いている場所へ移動すると暑さが和らいで汗の量も抑えられるでしょう。
こまめな換気や空気清浄を心がける
窓の開け閉めや換気扇などで換気することも有効です。オフィス全体の配置を見直すことで風通しをよくする、脱臭機能がある空気清浄機を活用するなど、環境の見直しを図りましょう。
スメルハラスメントを感じている人からも意見を聞き、状況が改善されたか都度確認しながら進めていくとスムーズになります。
医師への相談も有効
すでに個人でできる対処法を試していて、なかなか思うように改善できず悩んでいる人は、医師へ相談する方法もあります。
形成外科や皮膚科などを受診し、必要に応じて処方された飲み薬や塗り薬で治療します。口臭については、歯医者で相談可能です。
まとめ
においもビジネスマナーの一つであるという考え方は、世の中に広がってきています。スメルハラスメントはデリケートな問題ゆえ、本人はもちろん、周囲の人も想いを抱え込みがちです。そのため、気づかぬうちに状況が悪化してしまうこともあります。
お互いに過ごしやすい環境を作るために、個人や職場で適切な対策を進めていきましょう。
もろふしゆうこ
FP技能士2級、証券外務員会員一種
大手証券会社、銀行の個人営業職を経験した後、26歳で独立系ファイナンシャルプランナーとして独立。個人を対象にした相談業務やセミナー・講演会の講師業、各種メディア出演を通じてライフプランやマネープランに関する情報提供を行ってきた。現在はFPの知識を活かした執筆活動を中心に活動している。