住宅ローンを組む際は頭金を入れずに契約することもできます。本記事では、頭金なしの住宅ローン契約について知っておきたいメリット・デメリットについて解説します。
住宅ローンの組み方・ポイント
住宅購入は多くの資金がかかることから、住宅ローンを組んで購入することがほとんどです。まずは、住宅ローンの組み方やポイントについて解説します。
金利を比較する
住宅ローンの金利タイプは、「全期間固定金利型」「変動金利型」「固定期間選択型」の3つがあります。それぞれの違いについて、説明します。
全期間固定金利型
借入時の金利が返済期間が終了するまでの全期間で変わらないものが全期間固定金利型になります。低金利の時に「全期間固定金利型」を選択しておくと、将来、金利が上がっても低い金利のままとなるので、返済額が安定するというメリットがあります。他方、他の金利タイプと比べて、金利の水準が高く設定される傾向にあります。全期間固定金利型の代表例は、フラット35になります。
変動金利型
半年ごとに金利が変化するものです。当初は固定金利よりも低い金利水準で設定されますが、将来的に金利が上昇すれば、返済額も増加します。なお、急激に返済額が増加することを防ぐため、返済額は5年毎に見直され、見直し前の1.25倍を上限とするという規定が設けられています。なお、金利が大幅に上昇した場合、つまり、本来、返済すべき金額が見直し前の1.25倍を上回る場合、上回った部分は未払い利息として、最終的に支払いが必要になります。
固定金利期間選択型
変動金利型のうち、当初一定期間は金利が固定されているものです。固定期間が終了すると、変動金利型に自動的に移行しますが、再度、固定金利期間選択型を選択することも可能です。また、固定期間終了後に金利が上昇すれば、返済額が増加します。
返済期間や返済金額は無理のないように
国土交通省住宅局「令和2年度住宅市場動向調査報告書」によると、住宅ローンの返済期間は戸建て分譲住宅、分譲マンションいずれも35年以上と回答した人が7割を超えています。より長い返済期間にすると、その分毎月の返済金額が抑えられます。まとまった資金があるときには繰り上げ返済もできますので、まずは返済計画や返済金額に無理がないようにしましょう。
頭金の平均値は購入資金の30%前後
前述した国土交通省の調査によると、住宅ローンを組む際に入れる頭金の平均値は購入資金のうち25%~35%程度です。頭金を多く入れると、その分あとの返済がラクになります。また、頭金を入れることで、金融機関からの融資金額を少なくできます。
現在は頭金なしでも住宅ローン契約が可能
以前は住宅ローン契約時に、どの金融機関でも必ず購入金額の20%程度の頭金が必要でした。現在(2021年12月現在)は頭金なしでも契約できることが多いです。
頭金なしの住宅ローンのメリット
手元に資金を残せるメリット
頭金相当額の大きな資金が減らないため、住宅費用以外の出費に回せるという点が最大のメリットです。新居購入に際し、家具や家電を買い替えたいと思う人も多いでしょう。頭金に大きな資金を入れてしまうと、その分ほかの出費にまわせる金額が不足する恐れがあります。頭金を入れない住宅ローンであれば、ほかの出費に対応できる資金を手元に残せます。
住宅ローン控除の効果が大きいというメリットも
頭金なしの住宅ローンでは借入金額が大きいため、住宅ローン控除の効果が高いです。住宅ローン控除では、年末時点の住宅ローン残高の1%を最大10年控除されます。2022年度(令和4年度)からは、年末時点の残高の0.7%を13年に渡って控除します。頭金なしだと借入金額が大きいため、年末時点でのローン残高が頭金ありの場合と比べて多いことになるのです。よって、頭金なしの方が控除の効果が大きくなります。
頭金なしの住宅ローン・デメリット
ここからは、頭金なしの住宅ローンのデメリットについてポイントに絞って解説します。
売却時に返済できないことがある
頭金を入れずにローンを組んで急病やリストラなどでローンが支払えなくなり、家を売却する場合にもデメリットが生じます。金融機関に残りのローン残高を支払うために家を売却しますが、売却金額だけでは返済できない可能性があります。家の売却価格が住宅ローンの残債を下回るためです。この場合、自身で残りの足りない分の支払いが必要です。頭金を入れていない分借入総額が大きいため、このようなリスクが生じるのです。
金利上昇時のリスクが高い
当初変動金利でローン契約をしてその後の金利が上昇した場合、住宅ローン返済額が増えるリスクがあります。変動金利は5年ごとに金利が変動する仕組みです。したがって、金利が切り替わる時期に当初の住宅ローン契約時よりも上昇していると、返済計画に無理が生じるリスクがあるでしょう。
住宅ローン契約の際は、契約当初の金利や契約者の年収を基に返済計画を立てます。頭金なしの住宅ローンは借入金額が大きいため、どうしても金利変動(上昇)による影響を受けやすいというリスクが生じます。よって、頭金なしで変動金利の場合は、必ずしも当初と同じ返済計画のようにはいかないこともあり得るのです。
総返済額が高くなる
頭金を入れずにフルローンで契約すると、その分毎月の返済額が高くなったり返済期間が長くなったりします。借入金額に対して金利が発生するため、頭金ありのローンよりも総返済額が高額になるのです。少しでも頭金を入れて借入金額を少なくすることで、総返済額を減らせます。住宅購入時に頭金に充当できるまとまった資金がない場合は、繰り上げ返済で総返済額を少しでも減らすという方法があります。しかし繰り上げ返済は金融機関によっては手数料がかかるため、住宅ローン契約時に少しでも頭金を充当する方が合理的といえるでしょう。
シミュレーションを活用しよう
住宅ローン契約を検討する際には、必ず住宅ローンシミュレーションを活用しましょう。西日本シティ銀行の「建築名人」では、返済希望額と借入予定額の2つのシミュレーションが可能です。返済希望額シミュレーションでは、毎月返済できる金額から借入総額を算出します。
借入予定額シミュレーションでは、借入金額を想定し毎月の返済額を算出します。頭金の有無の比較をしたい場合は、借入予定額シミュレーションの活用がおすすめです。頭金として準備している金額を差し引いた借入予定額の結果と、頭金なしで住宅の購入価格すべてを借り入れ予定とした場合の結果を比較してみましょう。たとえ少額の頭金であっても、最終的には大きな差になることがわかります。
まとめ
住宅の購入を意識し始めたら、まずは頭金に少しでも充当できるように資金をためましょう。数十万円でも頭金に入れることで、想定されるリスクを軽減できます。住宅ローンシミュレーションも活用し、無理のない返済計画を立てましょう。
大野翠
芙蓉宅建FPオフィス代表、FP技能士センター正会員
金融業界歴10年目、お金と不動産の専門家。生命保険、損害保険、各種金融商品の販売を一切行わない「完全独立系FP」として、プロの立場から公平かつ根拠のしっかりしたコンサルティングを開催している。