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LD(学習障害)の理解と支援、教育

LDの理解と支援と教育

 子どもが学校での勉強につまずいている時、親あるいは担任の先生としては何とかしてあげたいという気持ちになるのではないでしょうか?では、どのように教えたらできるようになるのか。これが最大の問題のように思われると思います。この記事では、LD(学習障害)がある子どもの特徴と、教育をする上での考え方についてお伝えしたいと思います。この情報をきっかけにLD(学習障害)の理解を深め、支援や教育がより良くなっていくことを願っています。

1. LD(学習障害)が疑われるとき

LD(学習障害)を疑うきっかけ①│学習の停滞

 LDを疑うきっかけの多くは、学校での学習でつまずくことです。例えば以下のようなことがあります。

・文字の書き間違いが多い

・枠の中におさめて書くことが難しい

・学習した漢字がほとんど定着しない

・音読が難しい

・文章の内容を理解が難しい

・算数の学習内容の理解が難しい

上記のような、学校の先生が気づいた”特定領域の学習が困難”という様子がLDの特徴です。上にあげた特徴のいくつが当てはまったらLDという判断をするものではありません。“特定領域”ということですから、一つでも当てはまっていればLDの可能性があります。

LD(学習障害)を疑うきっかけ①│学習の停滞│熊本大学准教授・本吉先生が解説

LD(学習障害)を疑うきっかけ②│適切な理解がないこと、学習が停滞する苦しみ

もしもLDの症状のことを知らなければ、多くの人は以下のようなことを考えます。

・先生の教え方が悪い

・親が家庭学習をちゃんとさせていない

・本人の努力不足が原因

・知的障害があるのではないか

・高校や大学に進学できず、就職もできないのではないか

このような誤解が原因で、苦しまなくてもいい人が必要以上に苦しんでしまう場合があります。言われた通りにやっても成果が出ない、成果が出たと思ったときには周りの子どもたちは先に進んでいて、次から次へと課題が積みあがっていく…。この苦しみから解放されるためには、正しい理解とサポートが欠かせません。

2. LD(学習障害)とは?

 LD(学習障害)とは?熊本大学准教授・本吉先生が解説

①LD(学習障害)は気づかれにくい障害

ここからは、LDの特徴をお話していきます。

LDは知的障害と異なり、全般的な知的発達の遅れはありません。知的発達の遅れがないということは簡潔に言えば以下の通りです。つまり、会話ができたり、運動ができたり、他の子どもたちと明らかな違いは見えにくいです。しかしながら、以下の“学習に関わる力のいずれか”に著しい困難が生じます。

・聞くこと

・話すこと

・読むこと

・書くこと

・計算すること

・推論すること

幼児期では個人差として“様子を見ていきましょう”とされていたことが、学校生活の中でその困難が徐々に明らかになっていきます。ただし、困難の状況が見えていても問題意識を強く感じない先生もおられますので、親の方から学校へ相談することも必要です。

①LD(学習障害)は気づかれにくい障害│熊本大学准教授・本吉先生が解説

②LD(学習障害)の原因と子どもの気持ち

 「LDの原因は、中枢神経系に何らかの機能障害があること」だと推定されています。視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの他の障害や、子育ての環境や学習を怠けていることが直接的な原因となるものではありません。過去を振り返って親の育て方や子どもの努力を責めるのではなく、特徴を理解して適切な学習方法を見つけていく方へ踏み出していくことが大切です。

LDの子どもの中には、学年が上がるにつれて以下のような無力感が強くなっていく場合があります。

・がんばってもどうせできない

・成果がでないなら、やってもやらなくても一緒

・一生懸命にやっても、みんなよりできないのはカッコ悪いから最初からやらない

・できないことを見られるのが恥ずかしいから、やる気がないフリをしよう

・自分は将来、人の役には立てない

・勉強ができないから自分は愛されない

このような本人の自己認識は、人から認めてもらえない経験の積み重ねが原因です。実際は読むことの困難、書くことの困難、計算することの困難など一部分の困難であって、できることは数えきれないほどたくさんあります。子どもの認識ですから“もう何もかも全部ダメ!”と感じていることが多くあります。周囲の大人も同じように“もう全部だめだ”なんて思って日頃接していませんか。大人の子どもを見る目が、子どもにも影響します。

LDの原因とは?LDの子どもの気持ちは?熊本大学准教授・本吉先生が解説

3. LD(学習障害)のタイプ・特徴

LDのタイプ

LDは大きく3つのタイプに分けることができます。

(a)書字表出障害(ディスグラフィア)

(b)読字障害(ディスレクシア)

(c)算数障害(ディスカリキュリア)

(a)書字表出障害と(b)読字障害が一緒になって発現する場合もあります。それぞれどの様な、特徴があるのか紹介していきます。

タイプ(a):書字表出障害(ディスグラフィア)の特徴とは?

書くことに困難のある状態です。文字を書き写すこと、書くための細かい動作をすることが難しく、知的発達に比べて書くことに関する成績が極端に低くなります。学校生活では、テストで答えはわかっているのに、書くことに時間がかかりすぎて本来持っている力が表現できない・評価されない状況が生じます。

タイプ(b):読字障害(ディスレクシア)の特徴とは?

文字を認識し学ぶことの困難さがある状態です。文字を音読したり、読んで内容を理解したりすることが難しくなります。ぎこちない読み方、文字や行をとばすといった特徴があります。音読に精いっぱいで内容が頭に入ってこないということもあります。

学校では国語以外にも読むことがたくさんあります。例えば算数の文章問題などです。他の教科で学習が遅れる場合が多くありますので、どのように伝えると本人がわかりやすいのかを早めに判断することが大切です。

中には、聞いて記憶できる子が音で覚えて、あたかも音読しているかのように見えることもあります。これは“ごまかしている”と捉えるのではなく、子どもに合っている伝え方・学び方を判断する上での大きなヒントになります。

タイプ(c):算数障害(ディスカリキュリア)の特徴とは?

数字を扱う上で困難がある状態です。私たちは何気なく、具体的なモノを個数、長さ、重さなど様々な側面からとらえて、数字と単位で表現します。8個とか6gとか7cmなどという具合です。また、算数の計算では数の関係を考えながら足し算とか引き算とか掛け算とか割り算とか、いわゆる“式”を立てます。こういった頭の中での作業に困難が生じます。学校では算数の学習成績が極端に低くなります。

算数ではひっ算をよく使いますが、ひっ算では計算間違いをしないために位を整えて書くことも大切です。書字表出障害が算数の計算間違いにつながることもあります。

4. LD(学習障害)の子どもを理解し、サポートするために知っておきたいこと

(4)LDの子どもを理解してサポートするために知っておきたいこと

①LD(学習障害)の子どもをサポートするための心構え

LDの子どもの多くは学習意欲が低下しています。理由は以下のことがあげられます。

・頭ではわかっているのに表現できない

・聞いたら理解できるのに見ていることが頭に入らない

・問題を解く上での学習のコツに自分では気づけない

・努力の成果がなかなか得られない

加えて、周りの人が自分のことを認めてくれないと感じたり、努力しているのに𠮟責したり、バカにしてくることがあったりすると、子どものパーソナリティ(人格)の発達に重大な影響を与えます。

サポートする上で重要なことは、まずは本人の困っている気持ちと、その背景にある原因に理解を示すことです。特に、子どもですから自分自身で解決策を導き出すことはとても難しいです。特別支援教育に詳しい学校の先生と相談して、子どもの特徴を正しく把握して、子どもに合った方法を見つけていく、“子どもと一緒に成長していく”という心構えをもつことが大切です。

②LD(学習障害)の子どもの特性を理解するために

 子どもの特徴を正しく把握するためには、過去の出来事(エピソード)の振り返りと観察をします。ポイントは以下の通りです。

・いつ(〇歳の時に、〇年生の時に、国語の時間に、お友達と遊んでいる時に…)

・どこで(家庭で、幼稚園や保育園で、学校で…)

・どんなことが起きたか(漢字を全然覚えていない…)

・どのように対応したか(〇回繰り返し練習させた…)

・その結果どうなったか(その時は書けたけど次の時は忘れていた…)

上記のポイントを踏まえて過去を振り返ったり、現在進行形で観察したりしていきます。子どもの行動の中に困難のサインがあります。一方で、支援のヒントになるエピソードも見つかるかもしれません。専門家はエピソードを聞きながら解決策を探っていきます。もしかしたら“なんであの時に気づいてあげられなかったのか”と悔やむ気持ちが出てくるかもしれませんが、これからより良くしていくという前向きな気持ちでいてください。

③学校の先生との連携

LDの子どもの困難は学校生活の中に多くあります。また、家庭では宿題をするときにその困難に向き合うことになります。家庭や学校での様子を、担任の先生と相談・共有できる関係性をつくることが大切です。その中で、子どものために家でできる支援と学校でできる支援を整理・計画するとより効果的な指導・支援が期待できると思います。“先生は〇〇してくれない”という気持ちをもつこともあるかもしれませんが、みんなで成長していくという気持ちで取り組んでください。

④LDの問題とはいつまで向き合っていくのか?

現在のところ、LDは完治することを期待するのではなく、対応方法を身に着けて生活や学習に困らないようにすることをめざします。将来、職業生活を含めた社会生活に活きる力を育んでいくことがねらいです。自分のことを理解し、対処していくために必要な力を身に着ける学習は小学校の段階からスタートすることができます。

⑤通級指導教室と自立活動

 LDの子どもの多くは、通常の学級に在籍しながら通級指導教室に通います。通級指導教室では、自分に合った学習の仕方を学んだり、自分に合った環境を選んだりつくったりできるようになることをめざした自立活動に取り組みます。自立活動とは障害による学習上または生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度、及び習慣を養うことが目的です。現在の困りごとへの対応や、将来のために必要な力をつけられるように、学校と家庭が連携しながら取り組んでいくことが大切です。

LDの支援のための通級指導教室と自立活動

⑥LDの子は日々の学習はどうなるの?

 従来は、読み・書き・計算は筆記による表現が必須でしたが、少しずつ状況が変わってきています。その要因は次の通りです。

・タブレット端末や小型パソコンなどのサポートツールが入手しやすくなった。

・学校で育む力について、社会の認識が徐々に変わりつつある。

・LDの子どもの学習支援に使えるアプリケーションが増えてきた。

これらの社会的な変化によって次のような学習上の支援が可能になっています。

・書くことに困難がある場合はフリック入力やキーボード入力で置き換える。

・読むことに困難がある場合は読み上げによるサポートをする。

・計算に困難がある場合はプレゼンテーションソフトを使ってイメージしやすくする。

 学校現場ではまだまだ少数事例ではありますが、サポートを受けながら学習を進めている子どもはいます。熊本市はいち早く1人1台端末が実現した地域ですが、その利点を生かした支援が徐々に全国でも増えています。GIGAスクール構想によって1人1台端末環境が実現します。LDの子どもへの支援も急加速することでしょう。

 ここで、入力の仕方やアプリの使い方について子どもはわかるの?と疑問に思われた方もいるかと思いますが、そこで出てくるのが先ほどの自立活動です。通常の時間割の中では特別な使い方は学べませんので、自立活動の時間に学べるようになることが予想されます。

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⑦子どもの気持ちを支えていくために大切なこと

最後に、子どもの心の安定に必要なことについてお伝えします。周囲の人の日頃の声掛けや、友達の存在、好きなことや得意なことの存在は欠かせません。これらに加えて、将来の心理的な自立を考えると次のようなことが大切です。

・年齢や発達の状況に合わせて、原因の理解や、得意なことと苦手なことを整理する。

・学習の進み具合や将来の進路について学校の先生と相談する習慣をもつ。

・スクールカウンセラーの先生(非常勤で学校にいる公認心理師や臨床心理士)と話して自己理解・自己肯定感(自分を前向きにとらえる気持ち)を高める。

・LDのことを受け容れながら、できることを認めて後押ししてくれるよう家族に協力を得る。

・自分にあるLDの特徴を説明してサポートをお願いするコミュニケーション力を身につける

 読み・書き・計算のサポートと、心理的なサポートの両面を大切にしていきましょう。

LDの子どもの心の安定を図るには

5. LD(学習障害)の子どもが周囲の人から理解とサポートを得る方法

①まずは専門家に相談を

現在では学習障害への認識が徐々に広がっていますので、医療機関で診断を受けると子どもに合った環境での学習・生活に一歩近づくことができます。

LDの心配があれば、まずは学校の担任の先生、特別支援教育コーディネーターの先生(学校に必ずいます)に相談して、学校での様子を確認しましょう。

教育委員会には専門家がいる教育相談室がありますので、お住いの地域の教育相談室に相談することもできます。“〇〇市 教育相談室”のような検索の仕方ですぐに見つけられます。

医療機関を探す場合にはお住いの地域の児童精神科を探してください。予約で数カ月待つ可能性もありますので、不登校や家庭内暴力などの深刻な状況になる前に、少しでも心のゆとりがあるうちに予約を取ることをおすすめします。

②苦手なことは専門家、得意なことは家族と一緒に

 丸投げするわけではありませんが、苦手なことはプロフェッショナルにお願いして、家庭では子どもの得意なことやできることを一緒に楽しむことをおすすめします。好きなことや得意なことが人のために役に立つようになると、LDがあるという重荷は少しずつ軽くなるでしょう。好きなことや得意なことも、苦手なこともどちらも成長・変化していきます。焦りはプレッシャーになりますので、少しずつの変化を楽しむ心構えでいきましょう。

「あの時期は、この子のLDのことしか見えてなかったな」と思える日がきっとくるはずです。子どもの良いところ、できること探しを楽しんでください。

LD(学習障害)の理解を深めるためのおすすめ書籍

LD本│入門編

・発達って、障害ってなんだろう?(発達と障害を考える本12)、日原信彦(監修)、ミネルヴァ書房

・もっとしりたい!LD学習障害のおともだち(新しい-発達と障害を考える本3)、内山登紀夫(監修)、神奈川LD協会(編)、ミネルヴァ書房

・なにがちがうの?LD学習障害の子の見え方・感じ方(新しい-発達と障害を考える本7)、内山登紀夫(監修)、杉本陽子(編)、ミネルヴァ書房

・LDの子の読み書き支援がわかる本(健康ライブラリーイラスト版)、小池敏英(監修)、講談社

・文字の読めないパイロットー識字障害(ディスレクシア)の僕がドローンと出会って飛び立つまで、髙梨智樹、イースト・プレス

LD本│実践編

・発達障害のある子の学びを深める教材・教具・ICTの教室活用アイデア(特別支援教育サポートBOOKs)、金森克浩・梅田真理・坂井聡・冨永大悟(著)、明治図書

・特別支援教育はじめのいっぽ!ー個別の支援が今すぐ始められる、小林倫代・杉本陽子(著)、Gakken

・特別支援教育はじめのいっぽ!算数のじかんー通常学級でみんなといっしょに学べる、井上賞子・杉本陽子(著)、小林倫代(監修)、Gakken

・特別支援教育はじめのいっぽ!国語のじかんー通常学級でみんなといっしょに学べる、井上賞子・杉本陽子(著)、小林倫代(監修)、Gakken

・特別支援教育はじめのいっぽ!漢字の時間80字ー個に応じた「漢字の学びの基礎」が身に付く、小林倫代・杉本陽子(著)、Gakken

・特別支援教育をサポートする読み・書き・計算指導事例集、梅田真理(監修)、ナツメ社

・読み書きが苦手な子どもへの<基礎>トレーニングワークー通常の学級でやさしい学び支援1巻、竹田契一(監修)、村井敏宏・中尾和人(著)、明治図書

・読み書きが苦手な子どもへの<つまずき>支援ワークー通常の学級でのやさしい学び支援2巻、竹田契一(監修)、村井敏宏(著)、明治図書

・読み書きが苦手な子どもへの<漢字>支援ワーク1~3年編ー通常の学級でのやさしい学び支援3巻、竹田契一(監修)、村井敏宏(著)、明治図書

・読み書きが苦手な子どもへの<漢字>支援ワーク4~6年編―通常の学級でのやさしい学び支援4巻、竹田契一(監修)、村井敏宏(著)、明治図書

・<特別支援教育>学びと育ちのサポートワーク1文字への準備チャレンジ編、加藤博之(著)、明治図書

・<特別支援教育>学びと育ちのサポートワーク2かずへの準備チャレンジ編、加藤博之(著)、明治図書

・<特別支援教育>学びと育ちのサポートワーク3国語「書く力、考える力」の基礎力アップ編、加藤博之(著)、明治図書

・<特別支援教育>学びと育ちのサポートワーク4算数「操作して、解く力」の基礎力アップ編、加藤博之(著)、明治図書

・発達障害がある子どもの進路選択ハンドブック(健康ライブラリーイラスト版)、月森久江(監修)、講談社

・発達障害の子どもの視知覚認知問題への対処法-親と専門家のためのガイド、リサ・A・カーツ(著)、川端秀仁(監訳)、泉流星(訳)、中村尚広(協力)、東京書籍

・LD・ADHD等関連用語集、一般社団法人日本LD学会(編)、日本文化科学社

LD本│上級編【参考】専門家のための本
※専門書ですので、LDに限らず、幅広く説明されています。

・DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル、American Psychiatric Association、日本精神神経学会(日本語版用語監修)、高橋三郎・大野裕(監訳)、医学書院

・今日の精神疾患治療指針 第2版、樋口輝彦・市川宏伸・神庭重信・朝田隆・中込和幸(編集)、医学書院

・発達障害児者支援とアセスメントのガイドライン、辻井正次(監修)、明翫光宜(編集代表)、金子書房

・特別支援教育-特別なニーズをもつ子どもたちのために、ウィリアム L. ヒューワード(著)、中野良顯・小野次朗・榊原洋一(翻訳)、明石書店

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