この記事を読んでいる人の中には、以下のような人もいるのではないでしょうか。
子どもがADHDかもしれないと心配している
子どもがADHDと診断され、子どもの将来や自身の教育の仕方に不安がある
今すぐ状況をなんとかしたい、今後の見通しを持ちたいなど、不安な気持ちで生活されていることと思います。この記事を通じて、ADHDを理解したり、不安が解消されたり、子どもと共に一歩踏み出す勇気につながれば幸いです。
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LD(学習障害)の理解と支援、教育
1. ADHD(注意欠如多動症)が疑われるとき
幼児期の行動
幼児期の子どもと一緒に生活しているとき、以下のような行動が気になった経験はありませんか?
そわそわと落ち着きがない
自分の順番を待てない
自分が気になるものの方へしきりに近づいていく
危険をかえりみずに行動する
片付けができない
何かをしている途中で別のことを始める
多くの子どもは年齢を重ねたり園や学校で生活したりすることで、自分のことは自分でできるようになってきたり、集団行動がとれるようになってきたりします。こういった変化を通じて、多くの保護者はわが子の成長を感じているのではないでしょうか。
親の気づきから不安へ
ところが、園や小学校で教育を受けていても、以下のような行動特徴が続く子どももいます。
先生が話している最中でもしゃべる
授業中にじっと座っていられない
道具の片づけができずに部屋や机の周りがぐちゃぐちゃ
宿題を終わらせられない
落とし物や失くし物が多い
先生からの連絡や提出物を忘れる
危険な場所で走ったり高いところに登りたがる
こういった行動を直接見たり、先生から指摘された保護者は、「人に迷惑をかけているのではないか」、「私の育て方が悪いのではないか」、「親として恥ずかしい」、「こんな状態が一生続いたらどうしよう」といった不安を抱きます。
“障害”の捉え方
子どもは園や学校に通って教育を受けており、また、家庭で教育をしているにもかかわらず、周囲の子どもと比べて成長や変化が見えにくい…。
このような場合に、私たち専門家は“発達の障害”を考えます。言い換えると、“ある部分の発達が停滞している”、あるいは、“ある部分の発達が障害されている”と考えます。ここから、医学的な対応や教育上の支援を検討しはじめます。
ここまで示してきた行動特徴があり、学校や家庭での生活に支障がある時に「ADHD」という診断がつくことがあります。医師の診断は“できない子”という烙印を押す行為ではありませんが、ショックを受けて苦しむ保護者も少なくありません。しかし、診断がつくことはネガティブなことだけではありません。医学的な対応が可能になったり教育上のサポートを受けたりするための根拠になるからです。
2. ADHD(注意欠如多動症)の特徴
ADHDは(a)不注意、(b)多動性および衝動性が特徴です。(a)不注意と(b)多動性および衝動性が混合している場合でも、a)不注意が優勢の場合と、(b)多動性および衝動性が優勢の場合に分けられます。
(a) 不注意が優勢な場合
不注意が優勢である子どもには、次のような傾向が見られます。
教室では一見したところ静かに過ごしているが内容を聞き逃していることがよくある
勉強している途中で集中が途切れることがよくある
忘れ物や失くし物がよくある
ケアレスミスが多い
不注意が優勢なADHDの子どもは、教室の中では目立ちにくいタイプなので、困っていることに気づかれないことがあります。
(b) 多動・衝動が優勢な場合
多動性および衝動性が優勢である子どもには、以下の傾向が見られます。
落ち着きなくそわそわとからだを動かしている
授業中に席を離れる
何かに突き動かされているかのように動き続ける
待てずに発言したり行動したりするので他者と衝突する
危険をかえりみずに行動する
その結果、教室でのルールを守れずに、先生や周りの子どもから怒られたり注意されたりすることが増えます。
(c) 不注意と多動性・衝動性が混合している場合
(a)と(b)が混合している子どもは上記の傾向を併せ持つため、勉強への集中、集団活動への参加、物の管理や計画的な行動などの自己管理や、秩序だった行動が苦手です。そのような行動が求められる場では様々なことが困難となり、周囲から注意されることも多くなります。
保護者をはじめとする周囲の人は
「かわいい子どものできているところを見つけて褒めたい」
と心では思っていても、子どもの多動性や衝動性の高さが目立つと、注意する気持ちが強くなりがちです。
(d) 共通して気をつけたい特徴
(a)~(c)のどの場合であっても気をつけなければならないことがあります。それは、子どもの気持ちです。注意されたり怒られたりすることが積み重なると、子どもの気持ちが以下のような言葉でいっぱいになってしまいます。
どうせ自分はだめなんだ
どうせ失敗する
頑張ってもムダなんだ
自分の周りはみんな敵だ
学校や人間関係、大人であれば、いわゆる“社会”を避けるようになる状態です。この状態を避けるために大切なのは、正しく理解して教育・支援することです。
3. ADHD(注意欠如多動症)の子どもを理解してサポートするために知っておきたいこと
ADHDの子どもへの最も危険な対応
ADHDのことを理解していない人が陥りやすい対応は以下の通りです。
「根性がない」、「良くしようとしない」、「やる気がない」と言って怒ったり叱り続けたりする。
「そんなことだとだめだよ」と不安にするようなことを言い続ける。
厳しい対応が必要だと考えて心理的・身体的な罰を与える。
このように、具体的な改善策を示すことなく、恐怖や不安で子どもの行動を改めさせようとすることは危険です。子どもに持続的に恐怖や不安を与え続ける大人のかかわりは、虐待につながります。保護者に適切なかかわり方を知る機会がなければ、これらの行動がエスカレートして悲劇的な事件になることもあります。
子どもと一緒に成長する
親子あるいは先生も子どもも努力しているのに成果が出にくいという時には、子どもに合った別の方法を考えていくことが大切です。“考えていく”というのは子どもと一緒に考えていくという意味です。
「自分で考えなさい!」
と子どもに言うということではなく、子どもの気持ちに寄り添いながら
「あれはどうかな?これはどうかな?」
とやってみて、成果を一緒に確かめて、一緒に歩んでいく、そうやって大人と子どもが一緒に成長していくことが望ましいです。
4. ADHDの子どもへの具体的なサポート
生活や学習の環境を整える
ADHDの子どもは環境の影響を強く受けます。興味のある物を見たり聞いたりすると、すぐにそのことに気持ちが突き動かされます。集中して学習するためには気になるものを極力減らすことが大切です。例えば以下のような方法が挙げられます。
前方の席にして他の子どもの様子が見えにくいようにする
棚にはカーテンなどをかけて中が見えないようにする
教室の掲示物などを減らす
イヤーマフやノイズキャンセリング機能の付いたイヤホンを使う
また、忘れ物や失くし物といった不注意の特徴については以下のような方法が挙げられます。
見逃さない場所にリストを書いて貼っておく
場所を決めて片付ける習慣を作る
わたされた大事な紙は決められたファイルに入れる習慣をつくる
チェックリストを作ってうっかりとした間違いを避けるようにする
これらの方法がどのくらいで効果が出るのか、絶対的な効果が見込めるかは個々によりますが、これらはスタートとして取り組んでみる価値があります。学校の先生と相談して、効果を確認しながらちょうど良いものをみつけていってください。自分に合っているかどうかは子どもにも判断させることをおすすめします。将来、自分に合った環境やサポートを獲得していくために欠かせない経験になります。
得意なことを発揮できる場を大事にする
落ち着きがなかったり、不注意であったりするからといって、得意なことがないというわけではありません。得意な教科があったり、からだを動かすのが好きだったり、絵を描くのが好きだったり、人に親切な一面があったり、ADHDという特徴以外にその子のキラリと光るところが必ずあります。「〇〇ができないから好きなことはさせない」というのではなく、“障害”として難しいことと本人が夢中になって取り組むことは分けて考えて、生きがいを持てるようにしてください。好きなことをきっかけに大きな目標を見つけることができたら、苦手なことへの向き合い方もきっと変わってくると思います。
自己対処の仕方を学ぶ
学校教育の中には自立活動という授業があります。特別支援教育に関わったことがない人にとっては馴染みのない授業名だと思いますが、特別支援学校や小学校や中学校の特別支援学級に在籍している子ども、通常の学級に在籍しながら通級による指導を受けている子どもが受けられる授業です。障害による学習上または生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養います。ADHDの子どもの場合には、どのような環境であれば学習に集中できるのかを体験しながら理解したり、忘れ物や失くし物をしないための工夫を学んだり、授業中に落ち着いて過ごすことがどうしても難しい場合に先生にどのように伝えたらいいのかを学んだりするチャンスになります。並行して家庭でも取り組み、親子で達成感をもつことができればより高い効果が期待できます。
必要に応じて薬物療法を検討する
環境調整薬物療法によって学習や生活がしやすくなることがあります。対応の基本は環境を整えたり、自己対処の仕方を学んだりすることです。しかし、それらの取り組みが難しいほど症状が強い場合には、薬物療法と並行することが効果的です。薬物療法は医師との相談が必須です。予約で待つ期間があったとしても、児童精神科の先生とつながって薬物療法の相談をしてください。薬物療法を開始したら、副作用も含めて子どもの変化は主治医の先生と共有してください。薬物療法の効果が出てきたら、子どもを褒めるチャンスが増えます。環境調整や自己対処の成果を共有して、親子で成長していきましょう。
5. ADHDの子どもについて深く知るためにできること
インターネットでの情報をきっかけに、本を読んだり、映像を見たり、人に話を聞いたりしながら、自分の子どものことを少しずつ理解していかれると思います。ADHDという診断があっても、子どもはそれぞれの個性があります。学ぶ環境、育っていく環境も異なります。最終的には、原則をおさえながらオーダーメイドの環境を作っていくことになります。そのためにも、是非、専門家とつながってください。児童精神科の医師、発達支援に詳しい公認心理師などの心理専門家、特別支援教育を専門とする大学教員、特別支援教育に詳しい学校の先生などが考えられます。居住地域の”都道府県名“と“児童精神科”で検索したり、各自治体にある教育相談室や学校の特別支援教育コーディネーターの先生(各学校に必ずいます)に尋ねたりすることからスタートしてみてください。
ADHDの特徴が整理できると、わが子らしさが見えてくると思います。ひとりで抱え込まずに、信頼できる専門家と、子どもに合った教育環境や支援の仕方を見つけてください。
ADHDの理解を深めるためのおすすめ書籍
ADHD本│入門編
・発達って、障害ってなんだろう?(発達と障害を考える本12)、日原信彦(監修)、ミネルヴァ書房
・もっと知りたい!ADHD(注意欠陥多動性障害)のおともだち(新しい-発達と障害を考える本4)、内山登紀夫(監修)、伊藤久美(編集)、ミネルヴァ書房
・なにがちがうの?ADHD(注意欠陥多動性障害)の子の見え方・感じ方(新しい-発達と障害を考える本8)、内山登紀夫(監修)、高山恵子(編集)、ミネルヴァ書房
・ADHDのすべてがわかる本(健康ライブラリーイラスト版)、市川宏伸、講談社
・最新図解 ADHDの子どもたちをサポートする本(発達障害を考える心をつなぐ)、ナツメ社、榊原洋一
・リエゾン-子どものこころ診療所、竹村優作(原著)、ヨンチャン(著)、MORNING KC
ADHD本│実践編
・発達障害がある子どもの進路選択ハンドブック(健康ライブラリーイラスト版)、月森久江(監修)、講談社
・読んで学べるADHDのペアレントトレーニング-むずかしい子にやさしい子育て、シンシア・ウィッタム(著)、上林靖子・中田洋二郎・藤井和子・井澗知美・北道子(翻訳)、明石書店
・ADHDのすべて、ラッセル A.バークレー(著)、海輪由香子(訳)、山田寛(監修)、VOICE
・発達の気になる子の「困った」を「できる」に変えるABAトレーニング(発達障害を考える心をつなぐ)、小笠原恵・加藤慎吾(著)、ナツメ社
・LD・ADHD等関連用語集、一般社団法人日本LD学会(編)、日本文化科学社
ADHD本│上級編│【参考】専門家のための本
※専門書ですので、ADHDに限らず、幅広く説明されています。
・DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル、American Psychiatric Association、日本精神神経学会(日本語版用語監修)、高橋三郎・大野裕(監訳)、医学書院
・今日の精神疾患治療指針 第2版、樋口輝彦・市川宏伸・神庭重信・朝田隆・中込和幸(編集)、医学書院
・発達障害児者支援とアセスメントのガイドライン、辻井正次(監修)、明翫光宜(編集代表)、金子書房
・特別支援教育-特別なニーズをもつ子どもたちのために、ウィリアム L. ヒューワード(著)、中野良顯・小野次朗・榊原洋一(翻訳)、明石書店
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LD(学習障害)の理解と支援、教育
- 子育て
本吉 大介
熊本大学大学院 教育学研究科 准教授
熊本大学では特別支援教育に携わる教員の養成を担当。並行して、障害のある当事者、保護者・家族、学校の先生のサポートに取り組んでいる。 資格:公認心理師(第20834号)、臨床心理士(第22215号)、心理リハビリテイションスーパーヴァイザー(第440号)、心理劇臨床技能士(第48号)│■ Researchmap:https://researchmap.jp/mtys