各種給付金の給付対象となる収入の条件で、「住民税非課税世帯」という言葉を耳にしたことがある人は多いかもしれません。「住民税が非課税=住民税がかからない」とは、どの程度の収入の人が該当するのでしょうか。今回は住民税の仕組みや住民税非課税になる収入、住民税非課税世帯への優遇措置などについて説明します。
そもそも住民税とは?
住民税(市民税・県民税)とは
住民税とは「市町村民税(以下市民税)」と「都道府県民税(以下県民税)」を合わせた税金のことです。
住民税は、個人の所得に応じて課税される「所得割」と、居住する自治体ごとに一律に課税される「均等割」で構成されています。
住民税の所得割はどのように計算する?
住民税の所得割の計算式は以下のとおりです。
(所得金額 ー 所得控除額)× 税率 ー 税額控除額 = 所得割額
所得割の税率は市民税6%、県民税4%の計10%です(政令指定都市の場合は市民税8%、県民税2%)。
収入と所得の意味の違いについて
「会社からの給与収入」や「事業の売上げ」などの収入額が、そのまま所得金額になるわけではありません。以下のように、所得の種類ごとに所得金額を計算します。
勤務先からの給与や賞与(退職金を除く) | 収入金額 ー 給与所得控除 |
事業の売上げなどから生じる所得 | 収入金額 ー 必要経費 |
年金収入 | 公的年金等の収入金額 – 公的年金等控除額 |
表にある給与所得控除は、下記の計算式を用いて算出します。
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
162万5,000円まで | 65万円 |
162万5,001円から180万円まで | 収入金額 × 40% |
180万1円から360万円まで | 収入金額 × 30% + 18万円 |
360万1円から660万円まで | 収入金額 × 20% + 54万円 |
660万1円から1,000万円まで | 収入金額 × 10% + 120万円 |
1,000万1円以上 | 220万円(上限) |
均等割に適用される税額とは?
一律に課税される均等割の税額は以下のとおりです。東日本大震災からの復興を図るため、2023年(令和5年)度までは増額されています。
市民税 | 県民税 | |
2023年(令和5年)度まで | 3,500円 | 1,500円 |
本来の税額 | 3,000円 | 1,000円 |
住民税の申告が必要な場合とは?
住民税は、所得税の税額が税務署から市区町村に送られ、それに基づいて市区町村で税額が計算されます。
したがって、給与所得だけの人や確定申告をした人は住民税の申告は不要です。また、前年の所得がない場合には住民税の申告をする必要はありません。
上記のどれにも当てはまらない場合は、住民税の申告が必要となります。
住民税非課税世帯になる収入等の条件とは?
住民税非課税世帯の定義
住民税非課税とは、上記の所得割も均等割もかからないということです。住民税は個人単位で課せられる税金であるため、住民税非課税世帯とは、世帯全員が所得割・均等割ともに非課税の世帯を意味します。
収入がいくらまでなら住民税が非課税になるのか
以下の条件に該当する人は、所得割も均等割もかかりません(自治体によって例外はあります)。
生活保護法の規定による生活扶助を受けている人
障がい者、未成年、寡婦(夫)のいずれかで、前年の合計所得金額が125万円以下の人
前年中の合計所得金額が市町村等の条例で定める額以下の人
条例で定める合計所得金額の上限に従う
条例で定める額とは、以下のケースが多い傾向にあります。
※正確な計算式は自治体によって異なる場合があるため、お住いの自治体のホームページ等をご確認ください。
同一生計配偶者または扶養親族がいる | 35万円 × (本人 + 同一生計配偶者 + 扶養親族)の人数 + 21万円 |
同一生計配偶者または扶養親族がいない | 35万円 |
同一生計配偶者とは、給与所得者と生計を一にしている配偶者のうち、合計所得金額が38万円 (給与収入103万円)以下の人をいいます。
2021年度より、未婚のシングルマザーも住民税非課税対象
「寡婦(夫と離別・死別した後、未婚の女性)であり、前年の合計所得金額が125万円(給与収入204万円)以下の人」の中には、子どもを育てている女性も含まれます。ただし、同じシングルマザーでも婚姻歴のない女性は、これまで住民税非課税の対象になりませんでした。
しかし、2021年(令和3年)度から未婚のひとり親への住民税非課税制度がスタートします。対象となるのは「児童扶養手当の支給を受けている、婚姻歴のないひとり親」で、事実婚状態の場合は含まれません。所得の要件は上記の寡婦の場合と同様です。
住民税非課税世帯となる収入の例
住民税非課税になる条件:給与所得者の単身世帯の場合
先ほどお示しした表中の「同一生計配偶者または扶養親族がいない」を見ていただくと、所得が35万円以下であれば住民税非課税になることがわかります。
給与所得者の場合、最低でも65万円の給与所得控除が受けられることから、年収100万円以下であれば住民税が非課税となります。
住民税非課税になる条件:給与所得者の夫・専業主婦の妻・子ども1人の世帯の場合
今度は「同一生計配偶者または扶養親族がいる」を参照しましょう。所得が126万円(35万円×3人+21万円)以下であれば住民税非課税になることが分かります。給与所得控除(79.5万円)を含めると、年収は205万円以下です。
住民税非課税になる条件:給与所得者の夫・パートタイマーの妻・子ども2人の世帯の場合
配偶者の所得が35万円以下であれば住民税は非課税になり、扶養親族等の数にも含めることができます。また、夫の所得が住民税非課税限度額以下であれば、共働き世帯でも夫婦ともに住民税が非課税になります。
この例で考えると、妻の年収が100万円以下の場合は扶養親族等の数が3人です。この場合、妻の住民税はかかりません。
さらに夫も住民税非課税となる条件は、所得が161万円(35万円×4人+21万円)以下であり、給与所得控除(94.5万円)を含む年収は255万円以下です。つまり、夫婦の年収合計が355万円以下であれば住民税非課税世帯となります。
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住民税非課税世帯のメリット(優遇措置)
住民税非課税世帯は、収入が少なく家計に余裕がないとみなされます。そのため、非課税者はさまざまな優遇が受けられるようになっています。
優遇措置の例1:0歳から2歳児の保育料が無料になる
2019年(令和1年)10月から、幼稚園、保育所、認定こども園などを利用する3歳から5歳までの全ての子どもたちの利用料が無償化されました。さらに住民税非課税世帯に限り、0歳から2歳児の保育料も無料になります。
対象となる施設は、保育園、幼稚園、認定こども園だけでなく、認可外保育施設、一時預かり、病児保育、「ファミリー・サポート・センター」なども含まれます。
優遇措置の例2:高等学校等奨学給付金が受けられる
高校の授業料については、国の「高等学校等就学支援金」や都道府県独自の補助により、家庭の経済的負担が軽減されています(保護者の所得制限があります)。
しかし、高等学校では授業料以外にも修学旅行費、教材費、学用品費、部活動費などの学校教育費が少なからずかかります。
生活保護世帯と住民税非課税世帯に対し、授業料以外の学校教育費を支援する国の制度として、返済不要の「高等学校等奨学給付金」があります。
「高等学校等奨学給付金」の給付金額
給付される金額は以下のとおりです。
世帯状況 | 給付額(年額) | |
国公立 | 私立 | |
生活保護世帯(全日制等・通信制) | 3万2,300円 | 5万2,600円 |
住民税非課税世帯(全日制等) | 8万4,000円 | 10万3,500円 |
住民税非課税世帯(全日制等) | 12万9,700円 | 13万8,000円 |
住民税非課税世帯(通信制・専攻科) | 3万6,500円 | 3万8,100円 |
優遇措置の例3:大学の入学金・授業料の減免、給付型奨学金が受けられる
国は2020年(令和2年)4月から低所得世帯の子どもの進学を支援するため、「(1)授業料・入学金の減免、(2)返還する必要のない給付型奨学金の拡充」を柱とした「高等教育修学支援新制度」を実施しています。
支援の対象となるのは「住民税非課税世帯」及び「それに準ずる世帯」の学生となっています。
授業料・入学金の減免の上限
授業料・入学金の減免の上限(年額・住民税非課税世帯)は以下のとおりです。
学校の種別 | 国公立 | 私立 | ||
入学金 | 授業料 | 入学金 | 授業料 | |
大学 | 約28万円 | 約54万円 | 約26万円 | 約70万円 |
短期大学 | 約17万円 | 約39万円 | 約25万円 | 約62万円 |
高等専門学校 | 約8万円 | 約23万円 | 約13万円 | 約70万円 |
専門学校 | 約7万円 | 約17万円 | 約16万円 | 約59万円 |
出典:文部科学省「高等教育の修学支援新制度」
給付型奨学金の給付額
給付型奨学金の給付額(年額・住民税非課税世帯)は以下のとおりです。
自宅生 | 自宅外生 | |
国公立 大学・短期大学・専門学校 | 約35万円 | 約80万円 |
国公立 高等専門学校 | 約21万円 | 約41万円 |
私立 大学・短期大学・専門学校 | 約46万円 | 約91万円 |
私立 高等専門学校 | 約32万円 | 約52万円 |
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その他の優遇措置
住民税非課税世帯への優遇措置は、上記以外に以下のようなものがあります。
国民健康保険料の軽減
予防接種・検診費用が無料
高額療養費制度の自己負担限度額の軽減
NHK受信料の免除
その他各種給付金・補助金の受給
住民税非課税世帯のデメリット(注意点)
世帯分離を行うと、税額が増える可能性がある
世帯分離とは?
上述したとおり、住民税非課税世帯にはさまざまな優遇制度があります。その優遇措置を受けるためには、世帯全員の住民税が非課税でなければいけません。
住民税非課税世帯を人為的に作るために、「世帯分離」を行うケースがあります。世帯分離とは、住民税が課税される家族を世帯から外し、1つの世帯を2つ以上に分けることです。
非課税前より税額が増える可能性がある
この「世帯分離」は生計が別々になることを意味するため、配偶者控除や扶養控除の要件を満たさなくなる可能性があります。結果として、住民税非課税になる前より税額が増えることも考えられます。
住民税非課税世帯の条件:まとめ
住民税が非課税になる収入は家族構成などによって変わります。また、優遇措置は国だけでなく、都道府県などの地方自治体独自のものもあります。コロナ禍によって拡充された制度もあるため、急な収入減少などにより家計が苦しくなった場合は、住民税非課税に該当するかどうかを確認してみてはいかがでしょうか。
- 税金
松田聡子
群馬FP事務所代表、CFP®、証券外務員二種、DCアドバイザー
国内生保で法人コンサルティング営業を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在は法人向けには確定拠出年金の導入コンサル、個人向けにはiDeCoやNISAでの資産運用や確定拠出年金を有効活用したライフプランニング、リタイアメントプランニングを行っている。