競馬で高額の払戻しを受けるとうれしい反面、税金のことが心配になるかもしれません。競馬の払戻金は課税対象ですが、確定申告が不要な人もいます。今回は、競馬の払戻金にかかる税金の計算式や、申告が必要なケースなどについて解説します。
競馬と税金の基本
最初に、競馬の予想が的中し、払戻しを受けた場合にかかる税金について解説します。
競馬の利益は一時所得として課税される
競馬の払戻金は一時所得に該当し、所得税と住民税の課税対象です。一時所得には競馬や競輪の払戻金の他、海外の宝くじの当選金や生命保険の一時金(保険金や解約返戻金など)があります。
出典元:国税庁「競馬の馬券の払戻金に係る課税について」
一時所得の計算式
一時所得の金額は、以下の計算式で求めます。
一時所得の金額 = (総収入金額 - 収入を得るために支出した金額 - 特別控除額(最高50万円)) × 1/2
出典元:国税庁「一時所得」
総収入金額は、1年分の競馬の払戻金額の合計や他の一時所得を合算した金額です。収入を得るために支出した金額とは、競馬の場合は当たり馬券の購入代金のみが該当します。一時所得は営利目的でない所得のため、外れ馬券の購入費や交通費などは経費として認められません。
特別控除額50万円を差し引けるため、競馬の払戻金以外の一時所得がなくて払戻金が50万円以下の場合、税金はかからないことになります。
競馬の利益にかかる税金の計算方法
競馬の利益にはいくらの税金がかかるでしょうか。1年間の競馬の払戻金が100万円、当たり馬券の購入費用が10万円の場合の一時所得の課税所得金額を試算してみます。課税所得とは、所得税を計算するもとになる金額です。
(100万円 - 10万円 - 50万円) × 1/2 = 20万円
一時所得は給与所得や雑所得などの他の所得と合算し、税率が決まる総合課税の対象となります。そのため、収入の多い人と少ない人では、競馬の払戻金にかかる税額が異なるわけです。
所得税額の計算
たとえば、給与所得が400万円、所得控除の合計が48万円の場合、課税総所得金額(課税対象となる所得の総額)は、以下のように算出します。
400万円 + 20万円 - 48万円 = 372万円
この場合、所得税の税率は20%、控除額は42万7,500円であり、所得税額は31万6,500円(372万円×20%-42万7,500円)となります。
外れ馬券の購入費用を経費として控除できるか
外れ馬券を経費に計上できない場合、払戻金にかかる税金が高くなってしまいます。しかし、条件を満たすと外れ馬券を経費にできるケースがあります。
外れ馬券を経費にするなら雑所得として扱う
外れ馬券の経費算入が認められるのは、競馬の払戻金が雑所得に該当するケースです。通常、一般的な競馬ファンが得た競馬の払戻金は、一時所得となります。しかし、馬券購入を営利目的の事業として行う場合、雑所得として外れ馬券の経費算入が認められます。
出典元:国税庁「競馬の馬券の払戻金に係る課税について」
競馬の利益を雑所得として申告する条件
競馬の払戻金の所得区分(一時所得か雑所得か)の判断には、馬券購入の期間、回数、頻度、利益発生の規模などを総合的に考慮します。雑所得として認められるためには、馬券の購入が営利目的の継続的行為に該当する必要があります。
具体的には、ソフトウェアを利用して自動的に全レースの馬券を購入するようなケースです。ただし、このような例はレアケースであり、ほとんどの人は一時所得扱いとなるでしょう。
外れ馬券を経費にできる場合とできない場合の所得額の差
競馬の払戻金を雑所得として扱う場合、外れ馬券だけでなく交通費や通信費なども経費計上が認められます。業務にかかる雑所得の計算式は、以下のとおりです。
雑所得の金額 = 総収入金額 - 必要経費
出典元:国税庁「雑所得」
競馬の払戻金を一時所得として扱う場合
たとえば、1年間の馬券購入費が1,600万円かかり、払戻しが2,000万円、馬券購入費のうち当たり馬券分が100万円だったとします(交通費などその他経費100万円)。このケースが一時所得の対象だった場合の払戻金の課税所得金額は、以下のとおりです。
(2,000万円 - 100万円 - 50万円) × 1/2 = 925万円
競馬の払戻金を雑所得として扱う場合
一方、雑所得として扱う場合の課税所得金額は、以下のとおりです。
2,000万円 - 1,600万円- 100万円 =300万円
雑所得の場合、外れ馬券の購入費も経費計上できる分、所得金額が抑えられるとわかります。一時所得も雑所得も総合課税の対象のため、他の所得と合算して所得税や住民税を計算します。
外れ馬券を経費と認めた判例
競馬の払戻金が雑所得となり、外れ馬券の経費算入が認められる例は多くありません。しかし、裁判によって雑所得であると認められた事例もあります。
2015年(平成27年)3月10日最高裁判例
その1つは2015年(平成27年)3月10日の最高裁判決で、市販の競馬予想ソフトに改良を加え、JRA全競馬場のほぼ全レースの馬券を購入していた人に対しての判決です。判決ではこの人の行為が「営利を目的とする継続的行為」とされ、外れ馬券の購入費用やソフトウェアの利用料などが経費として認められました。
出典元:最高裁判所「裁判例結果詳細」
2017年(平成29年)12月15日最高裁判例
最高裁2017年(平成29年)12月15日には、6年間継続して年間数億円から数十億円の馬券を購入し、いずれの年も回収率100%を超えていた人にも同様の判決が下されました。継続性と営利目的が明確であるとされ、競馬の払戻金が雑所得と認められたのです。
出典元:最高裁判所「裁判例結果詳細」
競馬の利益と確定申告
競馬の予想で払戻しを受けた場合、基本的には確定申告が必要です。ここからは、競馬で得た利益の確定申告について解説します。
確定申告が必要なケース
払戻金が一時所得でも雑所得でも、確定申告は必要です。個人事業主のように毎年確定申告をしている人は、競馬の払戻金も申告します。給与所得者の場合、給与所得と退職所得を除いた所得の合計が20万円以下であれば、確定申告は必要ありません。
給与所得者で確定申告が必要なケース
給与所得者で確定申告が必要になるのは、以下のようなケースです。
給与所得者で競馬の利益の確定申告が必要な一例
1年間の競馬の払戻金が80万円
当たり馬券の購入費用が8万円
この場合、一時所得は22万円(80万円-8万円-50万円)となり、20万円を超えるため、確定申告が必要です(一時所得金額の判定では、2分の1を乗じる前の金額を用います)。
このケースで、当たり馬券の購入費が10万円であれば、一時所得は20万円(80万円-10万円-50万円)となり、確定申告は不要となります。
ただし、確定申告をしない場合、住民税の申告は必要です。
確定申告しないとどうなる?
競馬の払戻金の申告や納税の義務のある人が申告しない場合、追徴課税の対象となります。追徴課税には、以下のような種類があります。
追徴課税の種類
延滞税:法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて課される、利息に相当する税金
無申告加算税:期限までに必要な申告をしなかった場合に課せられる税金
重加算税:隠蔽などの不正行為により税金を支払わない場合に課される税金
出典元:国税庁「延滞税について」「加算税制度(国税通則法)の改正のあらまし」
高額の払戻金が発覚するケース
払戻金の申告をしなくても、税務署にわからないのではないかと考える人もいるかもしれません。以下のようなケースでは、発覚する可能性が高いと考えられます。
払戻金の無申告が発覚するケース
PAT(インターネット上の馬券購入サービス)を利用して馬券を購入した場合
高額の払戻金が銀行口座に入金された場合
当たり馬券をSNSなどで発信した場合
払戻金の申告をせずに税務署から指摘を受けた場合、追徴課税を受けることになります。ルールに則り、適正に申告しましょう。
競馬の利益を確定申告する方法
競馬の払戻金の確定申告が必要な場合の、申告の流れを解説します。
ステップ1.払戻しを受けたときに内容を記録する
競馬で払戻しを受けた際に、以下の内容を控えておきます。
払戻しを受けたときに記録する内容
開催日・開催場・レース
払戻金額
馬券の購入費用全体と当たり馬券の購入金額
ステップ2.払戻金の所得金額を計算する
払戻金の所得区分に応じた所得金額を計算します。
ステップ3.確定申告書を作成する
所得の計算の結果、申告の必要がある人は確定申告書を作成します。国税庁の確定申告書等作成コーナーを利用すると、計算ミスもなく簡単に作成できます。
まとめ
競馬の払戻金は基本的には一時所得に該当し、所得の計算に外れ馬券の購入費用は含めません。高額の払戻しがあった人は正しく計算しましょう。課税対象の人が申告しない場合、追徴課税の対象となります。確定申告がいつからいつまでかを確認し、期限までに申告しましょう。
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松田聡子
群馬FP事務所代表、CFP®、証券外務員二種、DCアドバイザー
国内生保で法人コンサルティング営業を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在は法人向けには確定拠出年金の導入コンサル、個人向けにはiDeCoやNISAでの資産運用や確定拠出年金を有効活用したライフプランニング、リタイアメントプランニングを行っている。