医療費控除の申請をするためには、確定申告が必要です。確定申告は税務署などに行かなくても、自宅でスマホから申請できます。スマホでの確定申告は書類作成だけでなく、アプリの設定などが必要です。この記事では、スマホでの医療費控除のやり方、必要な書類や手順について解説します。
医療費控除とは
1年間に支払った医療費が一定額以上になると、所得税の還付を受けられるのが医療費控除です。まずは医療費控除の申請のやり方や対象者、計算方法について解説します。
医療費控除は確定申告で申請する
医療費控除を受けるためには、会社員と個人事業主どちらでも確定申告が必要です。確定申告する年の1月1日から12月31日までの所得と所得税の金額を計算し、書類を作成して提出します。源泉徴収や予定納税で納めた税金などとの過不足を再計算して、清算するやり方です。
確定申告の受付は、該当する年の翌年2月15日から3月15日となります。ただし、医療費控除は5年前までさかのぼっての申告が可能です。確定申告のやり方は、税務署への持参か郵送、あるいはPCやスマホでWebからの申請となります。
会社員と個人事業主の違い
医療費控除は所得から医療費分を差し引いて所得税を再計算するやり方です。所得の種類によって、確定申告のやり方が異なります。一般的に会社員は給与所得、個人事業主は事業所得となることが多いです。それぞれの所得による確定申告のやり方について解説します。
会社員(給与所得)の確定申告
会社員は毎月の給与から所得税が天引きされています。これは1ヶ月の給与所得に対する所得税として、仮の計算をするやり方です。1年間の給与の合計と納めた所得税に過不足がないか、12月末に確認して再計算するのが年末調整のやり方となります。
会社員が医療費控除をする場合は、国税庁の確定申告書等作成コーナーからスマホでの確定申告が可能です。ただし、会社員でも副業で事業所得や不動産所得がある場合、スマホからの確定申告はできません。副業をしていても収入が年間20万円以内であれば雑所得となるため、スマホからの確定申告は可能です。
個人事業主(事業所得)の確定申告
事業所得を得ている個人事業主は、日々の売上や経費の帳簿を作成し、白色申告か青色申告で確定申告します。事業所得では、国税庁の確定申告所等作成コーナーでの確定申告は利用不可です。国税庁の認可を得たアプリやサービスを用いると、スマホから確定申告ができます。
医療費控除の対象となる費用
医療費控除の対象となる費用は、医療行為の対価として支払った金額、医療を受けるために必要な備品の購入費や交通費などです。医療費控除の対象となる費用について確認しておきましょう。
医療費控除の対象となる費用
医師または歯科医師による診療、治療にかかる費用
治療または療養に必要な医薬品の購入にかかる費用
あん摩マッサージ指圧師、きゅう師、はり師、柔道整復師による施術の費用
入院の部屋代や食事代として負担する費用
傷病によりおおむね6ヶ月以上寝たきりとなる場合のおむつ代(医師が発行する「おむつ使用証明書」が必要)
保健師や看護師などに療養上の世話をしてもらうことにかかる費用
妊娠と診断されてからの定期健診や検査の費用
助産師による分べんの介助にかかる費用
松葉つえやコルセットなどの医療用器具の購入代やレンタル料で負担する費用
健康診断や人間ドックの費用(ただし、結果として重大な疾病が発見され、治療を行った場合のみ)
治療のために必要な眼鏡(斜視、白内障、緑内障など)にかかる費用
視力回復レーザー手術(レーシック手術)の費用
年齢や目的から判断して、歯列矯正が必要と認められる場合の費用
海外旅行中に外国の医師にかかったときの治療代(外国通貨で支払った場合は円換算する必要がある)
医療費控除の対象となる交通費
医師などによる治療を受けるために公共交通機関を利用した場合の通院費
病状から判断して緊急な場合、または公共交通機関が利用できない場合のタクシー代(高速道路料金も対象)
傷病を治療できる医療機関が遠方にしかない場合の新幹線代
年齢や症状から1人での通院が困難と判断される場合の患者と付添人の交通費
医療費控除の対象とならない費用
診療や治療などで支払う費用以外に、医師や看護師へ渡す謝礼金
入院の際に本人や家族の都合で利用する個室などの差額ベッド代として負担する費用
入院した場合の身の回り品(寝巻や洗面用具など)を購入した費用
入院中に病院から提供される食事以外で、自身で出前を取ったり外食したりした費用
健康診断や人間ドックの費用(結果として重大な疾病が発見されず、治療を行わなかった場合)
近視や遠視などのために購入する眼鏡で視力回復の治療費ではない費用
疾病の予防や健康増進のために用いられるビタミン剤などの医薬品にかかる費用
公共交通機関が利用できる場合のタクシー代
出産のために里帰りするための交通費
自家用車での通院にかかるガソリン代や駐車料金
親族に療養上の世話をしてもらった場合の謝礼
医療費控除の計算のやり方
医療費控除の金額は、申告する本人と生計を同じにする配偶者や親族のために支払った医療費の合計です。申告する年の医療費の総額から保険などで受け取った金額を差し引いて、10万円を超えた分が医療費控除となります。
所得の合計が200万円以下の場合は、総所得の5%を超えた金額が医療費控除の対象です。医療費控除は最大で200万円までとなります。保険などで受け取った金額とは、高額療養費制度による払い戻しや出産育児一時金、生命保険などの保険金です。
医療費控除の計算のやり方 |
医療費控除の金額=(1年間に支払った医療費の総額-保険などで受け取った金額)-10万円 |
医療費控除の金額=(1年間に支払った医療費の総額-保険などで受け取った金額)-所得の合計が200万円以下の場合は総所得の5% |
医療費控除の金額がゼロやマイナスになる場合と、所得税が発生しない人は確定申告をしても還付が受けられません。自身の年収や医療費などから計算して、医療費控除の金額を確認してみてください。
医療費控除に必要な書類
医療費控除を受けるための確定申告には、さまざまな書類が必要です。ここからは、必要な書類や準備のやり方について解説します。
確定申告書
医療費控除の申請のためにスマホから確定申告する場合、確定申告書を準備する必要はありません。国税庁の確定申告書等作成コーナーでは、案内にしたがって入力していくだけです。確定申告書は、2022年(令和4年)分から1つに統一されました。それ以前は確定申告書AとBで別の様式だったため、書面で作成する場合は間違えないよう注意が必要です。
医療費の領収書やレシート
医療費の合計額を計算するために必要なため、領収書やレシートは紛失しないように保存しておきましょう。もし紛失した場合、医療機関によっては再発行できない可能性があります。
領収書やレシートは確定申告書に添付したり送付したりする必要はありませんが、申告から5年間は保存する必要があります。会社員で普段から領収書やレシートを受け取ったり保存したりする習慣がない人は、特に気をつけておきましょう。
健康保険組合の医療費通知
医療費通知は加入者が支払った医療費を知らせる明細書で、医療費控除の申請に利用できます。医療費通知に記載されるのは、診療を受けた人、区分、医療機関名、医療費の総額、国などからの助成、加入者の支払い額です。医療費通知をもとに医療費控除の明細書を作成します。医療費控除の明細書は確定申告と一緒に提出する書面です。スマホからの申請では、書面としての医療費控除の明細書を作成する必要はありません。
また、医療費通知では領収書やレシートで記録している金額と相違ないか確認できます。医療費通知の発送時期や記載される期間は健康保険組合によって異なるため、自身の書面を確認しておきましょう。
源泉徴収票
会社員は毎月の給与明細と、年末調整後に源泉徴収票を受け取ります。源泉徴収票は1年間の総所得や社会保険料、所得税などが記載されている書類です。確定申告書への添付や提出は不要ですが、スマホから申請する際に金額を確認するために利用できます。スマホからの申請では、源泉徴収票をカメラで撮影して取り込む機能が利用できて便利です。
還付金の振込先口座の情報
確定申告をして所得税が還付される場合、そのお金を受け取る必要があります。還付金を受け取るやり方は、預貯金口座への振り込み、ゆうちょ銀行または郵便局へ出向くなどです。
預貯金口座を利用したい場合、還付金を振り込む口座の情報を準備しておきましょう。還付金の受け取りで利用できるのは、銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合及び漁業協同組合の預金口座です。また、ゆうちょ銀行の口座も利用できます。
スマホでの医療費控除申請の準備
スマホで医療費控除を申請するためのアプリやブラウザの設定について解説します。
マイナンバーカード方式
マイナンバーカード方式は、マイナンバーカードとマイナンバーカード読み取り機能付きのスマホで申請するやり方です。マイナンバーカード読み取り機能がスマホについていない場合、専用のICカードリーダーを使ってログインできます。確定申告のやり方では、マイナンバーカード方式が簡単で便利です。
マイナンバーカードの発行には1ヶ月程度かかるため、未発行の場合は余裕をもって手続きしておきましょう。
ID・パスワード方式
ID・パスワード方式は、利用者識別番号と暗証番号でログインするやり方です。このやり方ではメッセージボックスが利用できないため、確定申告の処理状況や過去の申告履歴などが確認できません。
IDとパスワードの発行は、税務署に出向いて窓口で本人確認して設定してください。その後、ID・パスワード方式の届出完了通知という書類をもらいます。本人確認には運転免許証などが必要なため、持参しましょう。
スマホアプリのダウンロードとブラウザの設定のやり方
スマホで確定申告をするためには、マイナポータルというアプリが必要です。事前にアプリをダウンロードし、利用者登録をしておきます。スマホでの医療費控除の申請に対応しているブラウザは、Safariのみです。AndroidとiPhoneのどちらのスマホでもSafariが利用できます。Chromeなどの他のブラウザは利用できないため、スマホの設定でSafariをデフォルトに指定しておきましょう。
確定申告のやり方
スマホでの確定申告は、国税庁が提供する確定申告書等作成コーナーを利用します。このコーナーでは医療費控除だけでなく、住宅ローン控除や寄付金控除(ふるさと納税)などの手続きができます。マイナンバーカード方式とID・パスワード方式のどちらにするかを決めて必要な書類を準備したうえで、作業を開始しましょう。
スマホでの医療費控除申請のやり方と手順
スマホの設定やアプリのインストール、必要書類が準備できたら申請を行いましょう。ここからは、スマホでの医療費控除申請のやり方と手順について解説します。
【手順1】国税庁の専用サイトにアクセス
国税庁の確定申告書等作成コーナーにアクセスして、作成開始ボタンをタップします。作成のステップについての説明画面が表示されるので、一連の流れについて確認しておきましょう。
次のページへ進み、作成する申告書等の選択画面でチェックするのは所得税です。申請する年を選択して、提出するやり方をマイナンバーカード方式とID・パスワード方式から選びます。マイナポータルとの連携を選択しておくようにしましょう。
【手順2】申告内容に関する質問に回答する
マイナポータルと連携できたら、申告内容に関する質問の画面に進みます。申告する収入として選ぶのは、給与です。勤務先での年末調整が済んでいるかの確認なども必要なため、事前に準備しておきましょう。
申告書を提出するやり方はe‐Taxを選択します。マイナンバーカード方式の場合、マイナンバーカードをスマホで読み取ってログインしましょう。ID・パスワード方式のログインで必要なのが、利用者識別番号とパスワードです。
【手順3】所得を入力する
収入・所得金額の入力画面で、源泉徴収票に記載されている金額を入力します。スマホで撮影した源泉徴収票を自動で取り込む機能を使うと、直接入力する手間がなくなり便利です。入力された金額が源泉徴収票と相違ないか確認しておきましょう。
【手順4】控除の入力
支出に関する控除の入力画面で、医療費控除の金額を入力します。控除にはいくつか種類があるため、他の控除と間違えないように注意しましょう。
入力するのは、医療を受けた人の名前、病院・薬局などの名称、医療費の区分、支払った医療費と保険などで受け取った金額です。
【手順5】本人情報や振込先口座を入力
控除の入力後に計算結果が表示され、還付される金額が表示されます。次へ進むと本人情報の入力画面へ移動するので、各項目を記入しましょう。
【手順6】申告データの送信と保存
ここまでの入力項目に全て記入できたら、作成した確定申告書のデータを送信します。送信結果の確認画面で内容を確認し、確定申告書は保存するか印刷しておきましょう。
まとめ
スマホでの医療費控除申請は事前に書類を準備したり、アプリを設定したりする必要があります。申請の作業をスムーズに進めるためには、事前の準備が大切です。スマホで医療費控除申請するやり方と手順の参考にしてみてください。
岩崎 祐二
FP技能士2級、AFP(日本FP協会)
ライフとキャリアを総合した視点で、人生設計をマンツーマンでサポート。日々の家計管理から、数十年先に向けた資産設計まで実行支援しています。