相続手続きは、専門家に代行してもらうのが一般的です。しかし、費用がいくらかかるか気になるのではないでしょうか。相続が発生してから慌てずに済むように、手続きの流れや費用相場を確認しておくことが大切です。今回は、相続に必要な手続きや代行費用の相場について解説します。
遺産相続に必要な手続きとは
親が亡くなって相続が開始されると、さまざまな手続きが発生します。相続手続きは期限が設定されているものもあるため、確実に手続きを進めることが大切です。まずは、相続手続きの一般的な流れを確認していきましょう。
遺言書の有無を確認する
まずは、被相続人(亡くなった人)が遺言書を残していないかを確認しましょう。
遺産分割のやり方には、「指定相続」と「法定相続」の2つがあります。指定相続は、遺言書の内容に沿って相続財産を分割する方法です。法定相続は、民法で定められた「法定相続割合」で相続財産を分割する方法になります。
指定相続は法定相続に優先するため、遺言書がある場合はその内容どおりに遺産分割を行わなくてはなりません。遺言書には、主に「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2種類があります。
公正証書遺言
公証人に作成してもらう遺言書です。公証役場で管理されるため無効になりにくく、紛失の心配がありません。裁判所による検認が不要なので、相続人の負担も軽減されます。公証役場に問い合わせをすれば、遺言書の有無を確認できます。
自筆証書遺言
被相続人が自ら作成する遺言書です。手元にある筆記用具と紙、印鑑で作成でき、費用がかからないのがメリットです。ただし、要件を満たしていないと無効になる可能性があり、裁判所の検認も必要です。
遺言書がどこに保管されているかわからない場合は、銀行の貸金庫や机の引き出しなど、思い当たる場所を探しましょう。
現在は「遺言書保管制度」により、法務局で管理・保管をしてもらうことも可能です。遺言者の死亡が確認できると、相続人に通知される仕組みになっています。遺言書を残している可能性があるなら、法務局にも確認してみるとよいでしょう。
相続人を調査する
遺産を分割するには、誰が相続人なのかを明確にする必要があります。具体的には、自治体の窓口で戸籍謄本などを収集して相続関係を整理します。
必要書類を準備して法務局に依頼すれば、法定相続人を一覧にした「法定相続情報一覧図」を作成してもらうことも可能です。
相続財産を調査する
遺産分割を行うには、被相続人がどんな財産を残しているかを確認しなくてはなりません。相続財産には預貯金や不動産といった資産だけではなく、借金などの負債も含まれます。相続手続きをスムーズに進めるために、すべての相続財産を調査することが大切です。
主な相続財産の種類
相続税の課税対象となる主な財産は、以下のとおりです。
現金
預貯金
有価証券(株、投資信託など)
不動産(土地、家屋など)
生命保険の死亡保険金
死亡退職金
貸付金
宝石
特許権、著作権
原則として、経済的価値のあるものはすべて相続財産となります。
上記のほかに、被相続人の死亡前3年以内に被相続人から受けた贈与財産、相続時精算課税制度の適用を受けて取得した贈与財産も相続税の課税対象に含まれます。
相続放棄・限定承認(3ヵ月以内)
通常の相続(単純承認)では、資産だけでなく負債も含めたすべての財産を受け継ぎます。負債を受け継ぎたくない場合は、相続放棄や限定承認を選択することも可能です。
相続放棄・限定承認をするには、相続開始を知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所に申述しなくてはなりません。
相続放棄とは
相続人としての権利や義務を一切放棄することです。すべての財産を相続しないことになるので、資産より負債のほうが明らかに多い場合に有効な手段といえます。
遺産分割がうまくまとまらない場合や、相続争いに巻き込まれたくない場合も効果的な選択肢です。相続放棄は、ひとりの相続人が単独で申述できます。
限定承認とは
資産額を超えない範囲で負債を受け継ぐことです。
たとえば、相続財産の内訳が資産200万円と負債(借金)300万円だとします。限定承認を選択すると、債権者に200万円を払って資産200万円を受け継ぐことになります。
資産と負債のバランスがわからない場合などは、限定承認を選ぶとよいでしょう。
準確定申告(4ヵ月以内)
納税者が死亡したときに行う確定申告です。
相続人は、被相続人の1月1日から死亡した日までの所得金額と所得税額を計算し、相続開始を知った日から4ヵ月以内に申告・納税をしなくてはなりません。被相続人の所得を確認し、準確定申告が必要かを判断する必要があります。
遺産分割協議を行う
相続財産をどのように分けるかを話し合うことです。相続人や相続財産が確定したら、相続人全員で遺産分割協議を行います。話し合いがまとまり次第、遺産分割協議書を作成します。
相続人全員の合意を得られない場合は無効です。遺産分割協議がまとまらないと、家庭裁判所で調停・審判の手続きを行うことになります。
相続財産の名義変更を行う
遺産分割協議の内容をもとに、相続財産の名義変更を行います。不動産を相続する場合は、所有権を相続人に移転する相続登記が必要です。預貯金や有価証券については、口座の名義変更や解約・払い戻しをします。
相続税の申告を行う(必要な場合)
相続税は、個人が相続により取得した財産に対して課される税金です。相続財産の規模によっては、相続税がかかる可能性があります。
相続税の申告が必要な場合は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月目の日までに相続税の申告書を提出し、納税をしなくてはなりません。
相続税の申告が必要な人
相続財産から葬式費用などを差し引いた金額が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告が必要です。相続税の基礎控除額は、以下の算式で計算します。
3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
たとえば、法定相続人が配偶者と子2人の場合、基礎控除額は4,800万円(3,000万円+(600万円×3人))です。このケースでは、遺産総額が4,800万円を超えると相続税の申告が必要です。
相続手続きは誰に依頼すればよいのか
相続手続きの代行を検討するのであれば、依頼先ごとの特徴を知っておくことが大切です。ここでは、各専門家の業務範囲と強みを紹介します。
銀行・信託銀行
銀行や信託銀行などの金融機関でも、相続手続きの代行サービスを提供しています。各種専門家と連携することで、相続手続き全般に対応できるのが強みです。
相続で必要な口座の名義変更、解約手続きなどを代行してもらえます。不動産の相続登記や相続税申告など専門家しか対応できない業務は、金融機関が提携している専門家を紹介してもらえます。
相続手続きについて何から手をつけるのかわからない場合は、銀行・信託銀行へ相談するとよいでしょう。
弁護士
紛争を解決する専門家です。相続手続きでは、代理人として他の相続人と交渉や裁判所の調停に対応してくれます。遺言書の作成や相続放棄・限定承認を検討するときも、弁護士ならトラブルを回避できるような提案が期待できます。
遺産分割協議でもめる可能性があるなど、相続トラブルに備えたい場合は弁護士に相談するとよいでしょう。
司法書士
代理人として、法務局や裁判所に提出する書類を作成するのが主な仕事です。相続手続きでは、不動産の相続登記(名義変更)が代表的です。相続財産に不動産が含まれる場合は、司法書士に相談しましょう。
相続放棄や遺産分割調停などで裁判所に提出する書類の作成、申請の代行を依頼することも可能です。
税理士
税金の専門家です。「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」の3つは、税理士の独占業務とされています。
税務代理:納税者に代わって税金の申告を行う
税務書類の作成:納税者に代わって申告書を作成する
税務相談:納税者からの相談に応じる
相続税の申告や準確定申告が必要な場合は、税理士に相談しましょう。申告期限に遅れると本来の税金とは別に加算税や延滞税がかかるので、税理士に代行してもらうと安心です。
行政書士
官公署へ提出する書類や事実証明・権利義務に関する書類の作成、その申請手続きの代行が主な仕事です。相続手続きでは、遺言書や相続関係図、遺産分割協議書などの作成に対応しています。
相続トラブルがなく、相続関連の書類作成を依頼したいときは行政書士に相談するとよいでしょう。
主な相続手続きの代行にかかる費用の相場
相続手続きを一括で任せる場合の費用相場は、以下のとおりです。
遺産総額2,000万円未満:10~30万円
遺産総額5,000万円未満:30~50万円
遺産総額1億円未満:50~100万円
あくまでも目安であり、相続人や名義変更の数、相続税申告の有無などによって料金は変わります。複数の業者に見積もりを依頼し、料金やサービス内容を事前に確認したうえで依頼することが大切です。
主な相続手続きごとの代行費用の相場についても確認していきましょう。
遺言書の作成
遺言書作成の代行費用の相場は5~30万円です。弁護士や司法書士、行政書士が対応しています。士業によって差があり、弁護士は料金が高い傾向にあります。遺産総額によって費用が変わることも多いので、料金体系をよく確認しましょう。
公正証書遺言を作成する場合は、公証人に対する手数料などの実費が別途加算されます。
相続関係図の作成
相続関係図の作成は、5万円程度が相場です。相続関係図は被相続人と相続人との関係を図式化したもので、相続人調査で必要になります。弁護士や司法書士、行政書士が対応しており、戸籍や住民票の収集も料金に含まれるのが一般的です。
戸籍・住民票の収集
戸籍・住民票の収集は、2~5万円程度が相場です。相続手続きでは、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本や住民票が必要です。被相続人が転籍を繰り返していたり、複数の相続人が離れて住んでいたりすると、戸籍や住民票をそろえるのに苦労するかもしれません。
戸籍・住民票の収集を代行してもらえば、相続手続きの必要書類を準備する時間と手間が省けます。
遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書の作成は弁護士や司法書士、行政書士が対応しており、5~20万円程度が相場です。遺産総額によって料金が変動することもあります。また、司法書士や行政書士に比べると、弁護士は費用が高い傾向にあります。
遺産分割協議でもめる可能性がある場合は弁護士に依頼するなど、状況に応じて判断するとよいでしょう。
相続登記(不動産の名義変更)
不動産の相続登記は司法書士が対応しており、代行費用の相場は3~10万円程度です。通常は、登録免許税や登記事項証明書の手数料などの実費が別途かかります。相続登記の登録免許税額は、不動産価額(固定資産税評価額)の0.4%です。
相続登記をしておかないと、相続した不動産の売却などができません。相続登記に期限はありませんが、相続したタイミングで手続きを済ませておくとよいでしょう。
預金や株式の名義変更
預金や株式の名義変更の代行費用相場は、5~10万円程度です。各金融機関で手続きはできますが、被相続人や相続人全員の戸籍謄本などの必要書類をそろえるのに手間や時間がかかります。弁護士や司法書士、行政書士に代行を依頼することが可能です。料金は金融機関の数によって変わります。
自動車やバイクの名義変更
自動車やバイクの名義変更は行政書士が対応しており、代行費用相場は3万円程度です。名義変更をしておかないと、将来売却や廃車にする際に手続きができません。万が一事故を起こしてしまうと、手続きが面倒になる可能性もあるので注意が必要です。
相続税の申告
相続税申告の費用相場は、遺産総額の0.5~1.0%程度です。遺産総額が2,000万円なら10~20万円、5,000万円なら25~50万円程度が目安となります。税理士によって専門分野が異なるため、相続税に強い税理士に依頼することが大切です。
相続登記などの手続きを自分でやることは可能?
相続手続きは自分でできる
相続手続きを自分でやれば、代行にかかる費用を節約できます。しかし、相続手続きは専門知識と経験が必要で、中には期限を設けられているものもあります。誤りがあって手続きをやり直すことになると、かえって時間と費用がかかるため、専門家に任せるのが安心です。
相続手続きを自分でやるリスク
相続手続きを自分で行うと、以下のようなデメリットやリスクがあります。
戸籍の取得について
相続手続きでは、被相続人の出生から死亡までの戸籍を取得して相続人を確定させなくてはなりません。しかし、専門知識がなければ、戸籍謄本の記載内容を読み解くのは困難です。
戸籍の取り漏れによって後から相続人が判明するようなことがあれば、相続手続きがストップしてしまいます。
相続財産の調査について
財産調査を行うと、相続財産に含めるべき資産を見逃してしまうリスクがあります。遺産分割後に預貯金や借金があると判明して遺産分割協議をやり直すことになれば、大変な労力とコストがかかります。相続トラブルに発展する恐れもあるので、要注意です。
相続登記について
相続登記では、登記申請書を作成して申請手続きを行います。平日の昼間に法務局へ足を運んで相談や手続きをする必要があるので、仕事をしながらでは時間を確保できないかもしれません。法務局で相談しても、専門知識がなければ理解するのは難しいでしょう。
まとめ
相続手続きの代行費用は、遺産総額や手続きの内容で大きく変わってきます。また、専門家ごとに業務範囲が異なるため、状況に応じて依頼先を検討しなくてはなりません。何から手をつけたらよいかわからない場合は、相続手続きを一括して任せられる銀行に相談してみてはいかがでしょうか。
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大西勝士
AFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
会計事務所、一般企業の経理職、学習塾経営などを経て、2017年10月より金融ライターとして活動。10年以上の投資経験とFP資格を活かし、複数の金融メディアで執筆中。