企業に就職するときに気になるのが離職率です。会社の居心地が良ければ長く働く人も多く、離職率が低くなることが考えられ、逆に離職率が高い会社は働きにくいなどの問題があると考えられます。本記事では離職率について説明し、離職率の低い業界をランキング形式で紹介します。
そもそも離職率の定義とは?
離職率とは、主に退職により職場を離れる人の割合を意味します。ただし、離職率の計算方法には明確なルールがあるわけではありません。公的な調査における離職率の計算方法と、一般企業での離職率の計算方法には違いがあります。
厚生労働省の離職率計算方法
離職率を算出している公的な調査には、厚生労働省が行っている「雇用動向調査」があります。雇用動向調査における離職率の算出方法は、次のようになっています。
離職率(%)=離職者数/1月1日現在の常用労働者数×100
「離職者」とは?
厚生労働省によると、「常用労働者のうち、調査対象期間中に事業所を退職したり、解雇された者をいい、他企業への出向者・出向復帰者を含み、同一企業内の他事業所への転出者を除く」とされています。
「調査対象期間」とは?
雇用動向調査は毎年上半期と下半期の2回行われています。上半期調査では1~6月の半年間が、下半期調査では1~12月の1年間が調査対象期間となります。
企業の離職率計算方法
企業が自社の採用サイトや求人情報などに離職率を掲載していることがあります。各企業が独自に離職率を計算している場合、だいたい次のような計算式を使っています。
離職率(%)=一定期間の離職者数/起算日における在籍者数
各企業で計算の基準はあいまい
企業が独自に計算する離職率では、「一定期間」「離職者」「起算日」の定義は各企業でバラバラです。たとえば、離職者が多い時期を対象期間に含めず、離職率を低くするといったこともできてしまいます。
離職率が低ければホワイト企業とは限らない
上にも書いたとおり、離職率の数字は企業側でコントロールすることもできます。居心地が良い会社かどうかを判断するためには、企業が独自に出している離職率の数値だけで比較しない方がよいでしょう。
日本の離職率は?
参考までに、日本全体での離職率をみてみましょう。厚生労働省の「2019年(令和元年)雇用動向調査」によると、令和元年の離職率は15.6%となっています。男女別では、男性の離職率が13.4%であるのに対し、女性の離職率は18.2%と高めになっています。
離職率の推移
近年の離職率の推移は下のグラフのとおりです。2019年(令和元年)度は、離職率がやや上がっていることがわかります。
出典:厚生労働省「2019年(令和元年)雇用動向調査結果の概要」
産業別の離職率は?
就職や転職を考えている人は、どんな業界の離職率が高いのかが気になるでしょう。厚生労働省の「雇用動向調査」のデータをもとに、産業別離職率を比較してみます。
2019年(令和元年)の産業別入職率・離職率は次のグラフのとおりです。
出典:厚生労働省「2019年(令和元年)雇用動向調査結果の概要」
グラフを見ると、宿泊業、飲食サービス業の離職率が33.6%と最も高くなっており、複合サービス事業の離職率が7.9%と最も低くなっていることがわかります。
なお、上記は2019年(令和元年)度のデータになりますので、新型コロナウイルスの影響を受ける前の状況になります。
新卒者の離職率は?
勤務年数が長くなると、ライフスタイルの変化やスキルアップのために、離職する人も増えてきます。働きやすい会社かどうかを判断するには、新卒で入社した後、早期に離職する人がどれくらいいるのかをチェックすると参考になります。
大卒者の離職率
厚生労働省の発表によると、2017年(平成29年)3月に大学を卒業して就職した人の3年以内の離職率は32.8%となっています。産業別の離職率は、次のグラフのとおりです。
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況)」
高卒者の離職率
2017年(平成29年)3月に高校を卒業して就職した人の3年以内の離職率については、39.5%となっています。高卒者の産業別離職率は次のグラフのとおりです。
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況)」
新卒者の産業別離職率の特徴
新卒者の場合でも宿泊業・飲食サービス業の離職率が高いなど、大まかな傾向は変わりません。目立った違いとしては、新卒者では医療・福祉業界の離職率が高めになっているという点があります。
離職率の低い業界・職種ランキング
ここでは、厚生労働省が発表している産業別離職率のデータにもとづき、離職率の低い業界・職種をランキング形式で紹介します。離職率が低い理由について考えられることを挙げていますので、参考にしていただければ幸いです。
離職率が低い業界1位:複合サービス事業
日本標準産業分類によると、「複合サービス事業」とは「信用事業、保険事業又は共済事業と併せて複数の大分類にわたる各種のサービスを提供する事業所であって、法的に事業の種類や範囲が決められている郵便局、農業協同組合等が分類される」とされています。
離職率が低い理由
複合サービス事業の離職率が低い理由の1つとして、労働時間が短いことが考えられます。厚生労働省が行っている「2020年(令和2年)就労条件総合調査」によると、全業種での1日の所定労働時間の平均は7時間47分ですが、複合サービス事業では平均7時間36分となっています。労働時間が短ければプライベートの時間も確保できるので、当然働きやすいと考えられます。
離職率が低い業界2位:電気・ガス・熱供給・水道業
電気、ガス、水道など我々の生活を支えるインフラ業界も、離職率は低くなっています。特に新卒者の離職率が低いのが特徴です。
離職率が低い理由
インフラ業界は景気に左右されにくい業界です。競合する会社も少なく、各企業でしっかりと利益が確保されており、業績も安定しています。急に給料が下がったりするようなこともありません。大企業が多く、待遇が良いことも離職率が低い理由と言えるでしょう。
離職率が低い業界3位:鉱業・採石業・砂利採取業
鉱業や採石業と言われてもあまりピンとこないかもしれませんが、石油などの資源を扱う業界のことです。この分野では、新卒者の離職率がきわめて低くなっています。
離職率が低い理由
競合する会社が少ない業界であるため、同業他社に転職を考える人は少なくなります。昔からある大企業が多く、従業員が働きやすい環境が整備されていることも考えられるでしょう。
離職率が低い業界第4位:製造業
製造業(メーカー)の離職率も低めです。新卒者の離職率も、大卒者・高卒者とも平均より低くなっています。
離職率が低い理由
車や電化製品のメーカーには大企業が多くなっています。大企業は待遇が良く、離職を考える人が少ない傾向があります。中小企業でも、近年は人材確保のために待遇を改善しているところが多くなっています。
また、メーカーで工場勤務の場合にはシフトが決まっており、残業することもあまりありません。プライベートと両立しやすいことも離職者が少ない理由でしょう。
離職率が低い業界第5位:建設業
建設業の離職率は、大卒の新卒者の離職率も平均以下です。一方で、高卒の新卒者については45.8%と離職率が平均よりも高くなっています。
離職率が低い理由
建設業のうち大手ゼネコンは、給料が高く福利厚生も充実しています。大卒者では大手ゼネコンに就職する人が多いため、離職率が低くなっているものと思われます。
一方、高卒者が就職することが多い中小企業では、労働環境の整備が不十分なことがあり、離職率が高くなっていると考えられます。建設業の場合には、会社の規模によって離職率が変わると言えるでしょう。
離職率の低い業界に共通点はある?
離職率の低い業界には共通した特徴があります。離職率を下げている理由としてどんなことがあるのかを改めて整理してみます。
給料が高水準
一生懸命働いても労働に見合った給料がもらえないなら、会社を辞めたくなっても仕方がないでしょう。高い給料を払ってくれる会社なら、この会社でずっと働きたいと思う人が多いはずです。離職率が低いのは、給与水準が高い業界と言えます。
福利厚生が充実
会社は単に給料が高ければよいというものではありません。たとえば、給料が高くても休みがとれない会社で働きたいと思う人は少ないはずです。離職率が低い業界は、休暇や手当の制度が設けられているなど、福利厚生が充実しています。
産休・育休が取りやすい
女性は出産を機に会社を辞める人が多くなります。そのため産休・育休が取りやすい業界は、女性の離職率は低いと言えます。
景気に左右されにくい
会社の業績が悪化すれば、給料を減らされたり、リストラされたりする可能性があります。また、会社には倒産のリスクもあります。景気が悪くなっても業績悪化や倒産の心配がない会社で働きたいと思う人は多いでしょう。このことから、景気に左右されにくい業界は離職率が低くなっています。
就職する前に知っておきたい離職率の低い会社の探し方
離職率の低い会社に就職したいけれど、どのようにして見分けたらよいのかがわからないという人も多いでしょう。離職率の低い会社の探し方について説明します。
就職四季報で調べる
離職率について調べる方法として、就職四季報を利用する方法があります。就職四季報は、就職活動する上で知っておきたい企業の情報がまとめられている書籍です。新卒3年後離職率も掲載されていますので、各企業の離職率を比較することができます。
就活エージェントを利用する
就職活動をする際には、就活エージェントに登録してサポートを受ける方法があります。就活エージェントでは、個人では入手するのが難しい企業の情報も教えてもらえます。離職率に関する情報も得られますので、離職率の低い会社を選んで応募することができます。
企業の口コミ情報をチェックする
インターネットでは、企業の口コミ情報も得られます。インターネット上には、一般の人が投稿した企業の口コミ情報を集めたサイトなどもあります。会社説明会ではその企業の良いところしかわかりませんが、口コミ情報ではマイナス面もわかります。離職率が高い会社かどうかもわかることがあります。
離職率の低い業界で働くメリット・デメリット
就職・転職するときには、離職率の低い業界を選びたいという人が多いでしょう。離職率の低い業界で働くメリットについて改めて整理し、デメリットがないかについても考えてみます。
離職率の低い業界で働くメリット
離職率の低い会社に就職すると、次のようなメリットがあります。
労働環境が良く仕事がしやすい
離職率が低い会社では、働きやすい環境が整っています。残業も少なく、激務になることもないでしょう。
長く働けば給料も上がる
離職率の低い会社なら、転職を考えることも少ないでしょう。会社では入社後年数が経過すると昇給していくのが一般的ですから、同じ会社で働き続けていれば、着実に給料を増やせることになります。
ブラック企業が少ない
離職率が高い業界には、サービス残業やパワハラ、法律違反などを行っているブラック企業が多いことが考えられます。ブラック企業を選んでしまわないよう、最初から離職率の低い業界を選んでおくと安心です。
離職率の低い業界で働くデメリット
離職率の低い業界にデメリットがあるとすると、次のようなことが考えられます。
転職しにくい
離職率が低いとは、つまり会社に入社した後に中途退職する人が少ないということです。そのため転職したいと思っても、辞めづらい雰囲気を感じるかもしれません。退職者の前例がなければ、辞めるときに引き継ぎの仕方がわかりにくいこともあるでしょう。
会社の常識が自分の常識になってしまう
ずっと1つの会社にいると、その会社の価値観に染まってしまうことがあります。同じ会社の人とばかり付き合っていれば、他の会社の人と話が合わないといったことになる可能性があります。
まとめ
離職率が低い業界とは、給料が高くて福利厚生も充実しているなど、働きやすい環境が整っているところです。会社の離職率を知ることで、その会社が働きやすく、長く続けられるところかどうかがわかります。業界別の離職率の傾向も把握しておくと、会社選びの際に役に立ちます。
- 離職率
森本由紀
AFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、行政書士、夫婦カウンセラー
大学卒業後、複数の法律事務所に勤務。30代で結婚、出産した後、5年間の専業主婦経験を経て仕事復帰。現在はAFP、行政書士、夫婦カウンセラーとして活動中。夫婦問題に悩む幅広い世代の男女にカウンセリングを行っており、離婚を考える人には手続きのサポート、生活設計や子育てについてのアドバイス、自分らしい生き方を見つけるコーチングを行っている。