福岡への移住にまつわる暮らしや仕事のサポート等を行う「福岡移住計画」を運営するSmart Design Associationのメンバーである鎌苅さん。福岡市西区にある海辺のワークスペース「SALT」の運営や、不動産活用の企画プロデュース、不動産物件の紹介等に取り組まれています。昨年9月より同年12月末まで育休を取得し、子育てに奮闘。事前に育児について勉強していたという鎌苅さんですが、いざ始まって知った現実やご自身の成長を語っていただきました。
◾️Profile
鎌苅 竜也(かまかり たつや)さん
Smart Design Association/ディレクター
福岡移住計画/チームコアメンバー(不動産担当)
1985年6月6日生まれ。大阪府出身。2009年より大阪・東京にて不動産デベロッパーとして開発や運営に取り組み、2014年に結婚。2016年4月に福岡に移住し、福岡移住計画を主催するSmart Design Association に入社。企業や自治体が保有する不動産の有効活用や移住者向け不動産仲介を務める。現在、0歳5か月の男の子の子育て中。
人が楽しく生きる姿を子どもに見せたい
―2016年に東京から福岡に移住されたんですね。移住を決めた理由はなんですか。
不動産デベロッパーとして都市の開発に携わっていましたが、一方で世の中は地方の過疎化や少子高齢化に伴い、地方創生・地域活性化が求められている状況に違和感がありました。
前職のような比較的大きな会社だと難しいですが、少数精鋭であれば、知見を活かして地方の不動産をもっと面白くできるんじゃないかと思いました。
それから、もともと人が多い場所が苦手というのもありますが、東京で高い家賃や住宅ローンを払って生活するより、どこか自分たちが心地よく暮らせる自然豊かな場所で生活したいと考えていたことも移住を決めた理由の1つです。もともと、夫婦ともに、ずっと東京に住み続けるという感覚はなくて、近い将来どこかに移り住もうと考えていて、それが福岡でした。
―育児も移住の理由のひとつですか?
はい、育児が最大の理由かもしれないですね。
自分たちの仕事や暮らしに対する考えを押し殺して東京で生活することもできましたが、そういう大人の姿を子どもにはあまり見せたくないと思ったんです。もちろん、親が子どものために、自らの意志に反してでも歯を食いしばって耐えないといけない場面もあるのかもしれないとは思います。ただ、自分の幼少期の経験でいうと、親への感謝とともに、大人って大変そうだなって感じた記憶があって。その経験から、大人が自分たちの意思をもって楽しみながら生きている様子を見せることは、将来ある子どもにも重要だと考えています。
あと、親はよく、自分がやってないことややれなかったことを、子どもへ託したりすると思うんです。僕も将来、子どもに対して「自分のやりたいことをやりなさい」なんて言うと思うんですが、まず自分たちができていないと説得力がないじゃないですか。そういうこともあり、自分たちが望む暮らしをしている姿を子どもに見せたいと思い、移住を決めました。
交代で育休を取得
―育児生活が始まってどうでしたか?
昨年の9月から12月の4か月間、僕が育休を取りました。その間、妻は通常通り仕事をしていて、今年の1月から妻が育休に入りました。もともと妻は4月から育休を取る予定だったんですが、当初の予定より早く育休に入りました。
早い子だと6か月ぐらいから親を認識しはじめると聞いたんです。妻は、僕がずっと育休に入っていると、僕だけを親として認識するかもしれないと、心配になったようで(笑)。
―仕事復帰してから、育児とのバランスはどうですか?
ありがたいことに、僕の仕事は出勤時間や場所も割と自由で、社内のメンバーも家庭環境を理解してくれているので、育児を優先させてもらいながら、仕事しています。とは言え、平日の育児は妻が中心になっているので、休みの日は、ガッツリ育児です。
相手の立場になって考えてみる
―家事や育児は夫婦でどのように分担されていますか?
どっちが何をするかは特に決めていません。担当を決めると役割が決まってしまって、相手を助けようとしないと思うんです。夫婦はチームのようなものだと思うので、相手が大変そうだったら手伝うようにしています。特に朝は家事も育児もやることが多いので、9時頃までは妻と2人で家事と育児をしています。
―育児をすることでの夫婦間の変化はありましたか?
より2人で協力しあうようになりました。もともと会話はしていますが、これやってあれやってと言わなくても、相手のことを慮って行動することができるようになったと思います。テレビもつけないので、夜は、子どもが19時ぐらいに寝ると、育児や仕事のことなどをよく話すようになりました。2人の時間が長くなったことで、より良い関係を築けているんじゃないかと思っています。
―パパになってご自身が変わったと思うのはどんなときですか?
育休中、寝ているのか起きているのか分からないような日が続いていた、ある夜中のミルクを飲ませたあと、子どもがいつまでたっても泣き止まず、だけど妻は寝ていて、思わず声をあげそうになることがあったんです。
僕は朝から晩までこんなに家事に育児にやっているのに!まさにそんな想いが爆発しそうになりました。ただ、少し冷静になると、妻は妻で朝早くから仕事にでて、日中はほぼ休む間もなく働き、クタクタになって帰ってきているから、自分の感覚を押し付けるのも違うと感じたんです。
この後くらいから、自分が疑う余地なく正しいと思うような尺度や感覚でさえ、そのまま相手に押し付けることは、意図せずとも相手を傷つけることにも繋がると感じ、妻にかける言葉も慎重に選ぶようになりました。言葉一つで印象って変わるじゃないですか。強く言われているなとか、寄り添ってくれているなとか。妻の立場になって考えてみると、妻が育児をして自分が仕事をするときも、良い関係性でありたいという思いから、気をつけるようになりました。
―子どもがいてよかったと思う瞬間はどんな時ですか?
夫婦2人で喜びを共有できるようになったことです。仕事で嬉しかったことを妻に話しても、僕のこととしては喜んでくれますが、2人で同じ感覚で喜べているかと言えば、そこまでではないかなと。
日々、子どもがちょっと笑うようになった、声を発するようになった、手を握るようになったとか、1つのことに対して2人で一緒に感動し、喜べているので、それは本当に良かったと思います。
あと、コロナで頻繁には実現していないですが、僕と妻それぞれの両親が来てくれて、子どもに会って嬉しそうにしている姿を見たときは、良かったなと思いましたね。
―お子さんにはどのように育ってほしいですか?
子どもがどんな風に育つかは、大人が強要することではないかなと。息子が生まれてきた経緯もあって、生きていてくれるだけでも十分と夫婦ともに思っています。
楽しいことも辛いこともいろいろあると思うけど、そのたびに立ち止まってもいいから生き続けてほしい、それで十分な気がしています。
まあ、僕たちのような大人の姿を見ながら、自分のしたいことを見つけてくれたら、より嬉しいですけどね。
いろんな大人に触れて子は育つ
―子育てで大事にしていることはありますか?
まだできていないですが、子どもにはこれからいろんな大人に会って欲しいです。コロナの状況次第ですが、僕たちのオフィス「SALT」にも連れて来て、いろんな人に可愛がってもらいたいですね。
「自分の子どもは自分で育てなければならない」という世の中の空気感と、地域コミュニティの希薄化が育児の悪循環を招いていると思っているんです。完璧な親なんていないワケだし、さまざまな人に手助けしてもらうことで、子どもも多様な感性に触れ、より成長していくんじゃないかと考えています。
とは言え、頼ることができる家族や友達、仲間が近くにいない方も増えているようで、リアルなコミュニティも重要だと感じています。
やってみて初めて分かりましたが、育児って親だけで出来るような簡単なものじゃないですね。
教科書通りの育児なんてない
―事前に育児について勉強されていましたか?
オムツの替え方とかミルクの飲ませ方とか、いろいろ勉強する機会はいただいていたんですが、いくら準備していても実際に育児が始まったらバタバタしてしまって。本や講習で "ミルクは3時間おき"なんて習ってたもんだから、ミルクとミルクの間は2時間くらい休めるのかと思っていたんですが、現実は休める時間なんて全くなく(笑)。初めて1人で丸一日育児したときに、座学で勉強したことと現実とのギャップを実感しました。
―現実は、勉強した通りにはいかなかったんですね。
はい、正直甘く見ていました。心の準備はしていたつもりですが、大柄で体力もある自分でも体がボロボロになったので、自分より小さな方、特に小柄な女性は体力的にもキツいだろうと思います。たとえ旦那さんがいたとしても、2人だけでも育児は無理なんじゃないかと。もっと、社会に迷惑かけながら生きていかないと潰れてしまいますよね。
―子育てに必要なものはどのように準備しましたか?
事前の情報収集で、必要なものは大体分かっていたので、ネットでベビーベットなど買い揃えたり、レンタルも利用しました。運営しているワークスペースにも同世代の方が多く在籍していただいているので、そこの仲間からベビー用品を譲っていただいたりもしています。
育休取得よりも大事なこと
―子育てに奮闘しているパパにメッセージをお願いします。
男性の育休取得促進の動きが進んできていますが、十分に育休を取得できない方、組織内の制度が整っていない方もたくさんいらっしゃいますよね。
僕はたまたま4か月取得できましたが、育休期間が長ければ良いのかというと、僕は必ずしもそうは思わないです。
育休かどうかに関わらず、家に帰ってきたら育児を頑張ってくれているパートナーを気にかけたり、短い時間でも家事をしたり、仕事の都合ですれ違うのであれば、LINEやちょっとした置き手紙でのやりとりなど、それぞれの環境に合わせた方法で育児に携わることができれば良いんじゃないでしょうか。
大切なのは、あなたがパートナーに思いやりの心をもってほんの少し行動すること。それだけで、パートナーもあなたに優しくなれると思います。
僕が甘くみていたように、育児はそんなに楽なものじゃないですよね。さらに、「育児って結構楽しいですよ」とか「楽しくやっていこう」なんてよく言われていますが、僕自身は育休期間を楽しめたかというと、そんな余裕はなかったですね。奮闘中の方であればあるほど楽しめない人も多いかと思いますが、あなただけじゃないので安心して、お互い育児頑張りましょう!
取材後記
夫婦でよく会話し、お互いを思いやる育児をされている鎌苅さん夫婦。育児の厳しさを日々実感されていますが、2人だけで頑張り過ぎず、周囲に手助けを求めることが、親子どちらにも良い影響を与えてくれるのではないかとお考えでした。これから鎌苅さんのシェアオフィスの仲間を始め、たくさんの大人の姿に刺激を受けながら、子どもがどのように成長していくのか楽しみですね。
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- 子育て 結婚
長澤 由紀
フリーライター・エディター
福岡県久留米市出身。明善高校、福岡女子大学卒業後、株式会社アヴァンティで2年間雑誌・Web媒体の編集に携わる。その後、ライター・エディターとして独立。K-POP鑑賞と韓国旅行が好きな"韓国オタク"。