ダニエルさんも、妻の真理さんも母国語は英語で、今年4歳になるエミリちゃんを含む家族3人の会話は99%英語。家で日本語を話すのは、月1回くらいだそうです。その中でエミリちゃんだけは、「なんしようっとー?」といった博多弁も得意なのだとか。さまざまな言語?が飛び交うヨーダー家の日常には、夫と妻、親と子の対話の習慣が根付き、ステキな夫婦関係、親娘関係、愛情関係が醸成されていました。子どもを育てるという新しい目的ができたことで、今まで以上に夫婦仲も良くなったというダニエルさん。育児の楽しさ、深さ、そして時にしんどさ⁉を存分に語っていただきました。
■プロフィール
Daniel Yoder (ダニエル・ヨーダー)さん
Friendly Pixel 共同創業者
1983年生まれ。アメリカ国籍。幼い頃、日本で暮らし、妻の真理さんとは幼なじみ。真理さんはアメリカ人(父)と日本人(母)のハーフ。ダニエルさん一家がアメリカへ帰国した後も家族ぐるみの交流が続き、21歳の時に真理さんと結婚。結婚後、6年ほどのヨーロッパでの生活を挟んで2009年、妻の両親が住む福岡へ。2015年、エミリちゃん誕生。
2019年8月、アメリカ在住の弟とともにITソーシャルゲーミング会社「Friendly Pixel」を設立。2020年9月中旬、新しいソーシャルゲーム・プラットフォーム「Tobu」を公開予定。
国境を越え、時空を超えた幼なじみ婚
― ご夫婦の出会いはダニエルさん5歳、妻の真理さん6歳の時とか。国境を越え、時空を超えて結ばれたのですね。
ダニエル: 僕は小さい頃、日本で暮らしていて、妻は1歳年上の幼なじみです。僕の一家はその後、アメリカに戻りましたが、後に妻がアメリカに遊びに来たのが、結婚まで進展したきっかけです。
― その時、ダニエルさん21歳。早い結婚ですね。
ダニエル: 今なら、ちょっと結婚するには早すぎる年齢だってわかるけど、21歳の時はそんなことはあまり考えないから(笑)。でも、ケンカも時々はするけど、仲はいい方だと思うよ。
― ダニエルさんはアメリカ国籍、真理さんは日本国籍ですが、結婚生活の拠点を福岡に置くことになったのはなぜですか?
ダニエル: 結婚後は、ヨーロッパで6年間生活し、それからアメリカに少しいて、2009年に日本へ来て現在に至っています。日本に来た一番の理由は、海外生活が長くなっていた妻がホームシック気味になっていたから。僕ももともと日本が好き、中でも福岡が好きだから、反対する理由はなかったんです。
― 将来的にも福岡に住む計画ですか?
ダニエル: はい、ずっと住みます。永遠に福岡かな(笑)。福岡は山や海、空港など何でも生活圏から近いことが魅力っていわれるけど、僕はそれ以上に、福岡のエネギッシュ(エネルギッシュ??)なところが好きなんです。そんなに大きな町ではないけど、未来へのエネルギーを感じます。これは他の都市には感じないものです。
産声を聞いた瞬間に出た涙の味
― 子どもが欲しいと思ったのも、永住の地に住んだことが大きいのでしょうか?
ダニエル: いえ、それより二人の年齢的なものですね。若い時は「子どもを授かったらうれしいな」くらいだったけど、年齢が上がるにつれて、「あれ、なぜ子どもができないの?」と考え始めたんです。
― 妊活を意識されたんですね。
ダニエル: そうです。結構、いろいろなことにトライしました。結局は福岡のスペシャリストのドクターにお世話になって、妻が35歳の時に無事出産できました。
― 出産には立ち会いましたか?
ダニエル: はい。でも、待っている時間が長くて23時間以上! 難産で、妻の方がもちろん大変なんだけど、僕も緊張状態マックスでした。妊活生活自体が、不安と期待が交錯する毎日で結構ストレスフルでしたし、やっと迎えた出産の瞬間も23時間待ちというのはきついです。それと……赤ちゃんがすぐに泣かなかったんです。
― 産声を聞いた時はどんな気持ちでしたか?
ダニエル: 泣いたつもりはなかったけど、自然と涙が出てきました。緊張が一気にほどけたせいだと思いますが、自分でも説明できない涙でした。
― 性別が分かったときはどう思いましたか?
ダニエル: 僕たち二人とも女の子が欲しかったから、性別が分かった時はうれしかったですね。
何でもフィフティーフィフティーが、ヨーダー家の「当たり前」
― エミリちゃんはもう4歳ですが、育児生活の走り出しはどのようでしたか?
ダニエル: 僕は、昨年8月に会社を立ち上げるまで、マーケティングのスタートアップ企業に勤務しており、病院などメディカルな分野の英語教室の先生をしていた妻も育休後すぐに職場復帰しました。
共働きですし、最初から家事も育児もほぼフィフティーフィフティーですね。
― ダニエルさん、何だか自信ありげですね?
ダニエル: 僕は兄弟姉妹が10人いて、上から3番目。弟妹のおむつ替えなどは手伝っていたので、赤ちゃんのお世話は慣れているんです。
それに子どもが生まれる前から、僕たち夫婦はフィフティーフィフティーのバランスでやってきました。その点は夫婦というより、ルームメイトの関係?そんなこと言ったら彼女に怒られるかもしれないけど(笑)。
― 最初からおむつ替えができる男性なんて、希少です。
ダニエル: 妻の評価はわかりませんよ(笑)。育児はやはり大変ですから。僕の睡眠時間もグンと減りました。妻の親が近くにいるため、かなり助けられたのも事実です
― どんなふうに家事、育児を分担しているのですか?
ダニエル: 朝、保育園に連れて行くのは妻。僕は時差の関係で、朝にアメリカの弟とやり取りするので忙しいからです。僕の出番は夕方以降ですね。妻が帰宅する夜7時から8時くらいまでに、「子どもを保育園に迎えに行く」、「ご飯を作る」「子どもに食べさせたり、シャワーを浴びさせたり」といった作業を完了します。
― どんな献立ですか?
ダニエル: 料理はあまり上手じゃないんです。作るのはパスタ、カレーとか、和食だったら、手巻き寿司とか。エミリはちゃんと食べてくれるけど、妻は美味しくないという時もあります(笑)。
― 子どもができてから、夫婦の関係は何か変わりましたか?
ダニエル: 夫婦二人だけの時より仲良しになりました。エミリのために頑張るという同じ目標をめざしているから。
― パートナー以上の「同志」ですね。そんなふうに夫婦関係を成長させる秘訣ってありますか?
ダニエル: やっぱり、いろいろなことを話し合うことだと思います。育児方針についてもしっかり話し合いました。男女フィフティーフィフティーという考え方は、娘にも伝えたいことです。
保育園に通い始めて2歳くらいから、「女の子はピンクが好き、男の子はブルーが好き」といった性別による概念が彼女の考え方や行動に影響を与え始めました。それ以来、僕とエミリは、「女の子が青を好きになってもいいし、サッカーをしたって大丈夫」といったことを何度も話題にするようになりました。だいぶんわかってくれていると思うけど、エミリはピンクとダンスが好き。この2点だけはついに譲歩させられましたね(笑)
ヨーダー家の育児観
「親として与えたいのは、自信です」
― 家事、育児にまつわる作業だけでなく、内面的な育児にも時間を割いているんですね。
ダニエル: 親としてエミリに与えたいのは、自信です。娘もいつか性別が壁となって立ちはだかるような経験をするはずです。でも、自信があるとパワフルになって、きっと壁を乗り越えられると思うから。
― そうした育児ポリシーを持つようになったきっかけはあるのですか?
ダニエル: 僕はいろいろな国で働いてきましたが、振り返ると、「これはエミリにやってほしい」ということや、「これはやってほしくない」ということをたくさん見聞きしてきました。エミリがいなかったら、あまり意識しなかったかもしれないけど、子どもを持ってから積極的に考えるようになりました。
― 今、育児に関して課題として感じていることはありますか?
ダニエル: エミリは日本人として暮らしていますが、金髪でブルーアイなんです。みんなに可愛いと言われるし、親切にしてもらえることが多く、結果としてポジティブな面を生んでいるのは確かです。でも、一方でエミリが外見のことを意識し過ぎるようになったら、人と人との内面での結び付きが逆に難しくなってしまうことがネックになると感じています。今のエミリにとって、それが一番大きな挑戦かな。―人として、本当に大事なことを考える人間になってほしいということですね。
そのために、エミリと一緒の時には、いつもちゃんと向き合いたいと思っています。忙しくても自分の手を止めて対応する、疲れていてもそばにいるといったことは、心がけていることです。
実際は、子育てしていると、睡眠時間が毎日違うなどパターンがないから大変。たまに僕がそばにいなくて、娘が寝る時間までソファでスマホやアイパッドを扱っていることがあるんだけど、それはもったいない時間だなって後悔します。子どもはあっという間に大きくなるから、貴重な育児時間を大切にしたいですね。あと1年もすれば、育児の結果が出ているかも。またインタビューしてください(笑)
取材後記
性役割に縛られない夫婦関係だけでなく、育児においても、「女らしさ」「男らしさ」という概念が忍び込まないように細やかに配慮するヨーダー家の姿は、新しい時代の家族像を見せてくれている気がします。また、「子どもに与えたいのは、自信」というダニエルさんの言葉は親としての深い愛情を感じさせるものでした。エミリちゃんが、自信というパワーを身に着け、どんな人生を切り拓くのか見てみたい思いがします。
インタビュアープロフィール
吉田 真理子
コピーライター
宮崎市出身。福岡高校、福岡教育大学卒業後、印刷会社に新卒入社。同社出版企画室で書籍・雑誌の校正業務に携わる。その後、出版社への転職を経て、コピーライター・編集ライターとして独立。現在に至る。趣味は、文章の間違い探しとダンス。
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