【福岡のFPさんコラム】|お小遣いで身につく金融リテラシー

FPになり、子どもへの金銭教育を一つの柱として仕事をしてきました。親子のコミュニケーションについても学んだ視点から、「心を育てる金銭教育」というタイトルでの講演も行っています。
最近「金融リテラシー※1」という言葉もネット上で見かけるようになりました。
今回は、お小遣いを使って子どもに金融リテラシ-を身につける方法を考えてみましょう。
今回は、子どもの年齢と成長に合わせた「できること」を考慮しつつ、渡し方を
① そのつど
② 一週間単位
③一か月単位
④年単位
でご紹介します。
また、任せるものを成長とともに増やしていくことで、大人になった時にしっかりと金融リテラシーが身についていることを目指します。
最後に定額制と報酬制についても考察してみます。
※1 経済的に自立し、より良い生活を送るために必要なお金に関する知識や判断力のこと(政府広報オンラインによる)
1. そのつど渡し『初めの一歩』
①そのつど渡し
4~5歳になると買い物に行った時に「あれ買って」「これ買って」が始まります。その時はいよいよ、本格的な金銭教育の始まりです。その子にあった金額を渡し、自分で考えて買うという経験をさせてみましょう。
最初は一緒に買い物に行ったとき、その日の予算を決め、その範囲内で買う経験をさせるといいですね。つまり「そのつど渡し」です。
ただし「そのつど渡し」は幼い時だけに限ります。なぜならそれは、お金を使い切る経験になるからです。大人になって最もやってはいけないことは、もらった給料をその月に使い切ってしまうことですよね。ある程度慣れてきたら、週・月に1回など任せていくやり方に変えていくことが大事です。
② お金について
また、お金の役割や扱い方についても教えていきたいですね。
何か欲しいものがあった時に、私たちはお金を支払ってそれを手に入れます。それは「物を買う」ということです。そして物を買う時、相手の人と客である私たちは対等であることも教えたいですね。お店の人から「ありがとうございました」と言われれば、こちらも「ありがとうございます」を言うことが大切。そして買ったものをお店の人が丁寧にあつかってくれることと同じくらい、お金を丁寧にお渡しすることも教えましょう。最近はキャッシュレスが増えていますが、機会を見つけて教えていくことはできると思います。
小さい子どもにはこれらのことを言葉で説明するというよりは、保護者がその姿を見せてあげるといいでしょう。子どもは親の「言うこと」よりも「すること」で学んでいます。
2. 一週間単位のお小遣い『幼児期』
①慣れてきたら一週間単位に挑戦
少し大きくなり慣れてきたら、一週間単位で考えさせましょう。たとえば週に4日お買い物に行き、そのたびに100円ずつお菓子などを買っているのであれば、400円を一週間の予算として子どものサイフに入れ、お買い物に一緒に行ったときに欲しいものを買うようにします。高いものを買ってしまうとお金は減って、次からはあまり買えなくなります。その時に子どもは学ぶのです。
お金には限りがあるということを。使ったらなくなるということを。
② 大人と一緒
また、子どもが追加のお金を要求してきた時には怒らずに伝えましょう。「一週間に使えるお金は決まっていたでしょう?だから次の一週間がくるまでがまんしようね」と。子どもが悲しんでいる時は「残念だったね」と気持ちを受け止めるだけで十分。「どうしたら良かったのか一緒に考えてみようね」と優しく言うのもいいでしょう。
さらに、子どもの理解できる範囲で、大人になった時のことも少し話して聞かせるチャンスかもしれません。
つまり、お父さんやお母さんが働いてもらえるお金『給料』には限りがあり、月に一回しかお金がもらえないこと。使いすぎてなくなってしまったら次のお給料日まで待たないといけないこと。だからあなたのお小遣いも使えるお金が決まっていて、なくなったら次の時まで待たなくてはいけないということ。その子にわかる言葉で優しく説明しましょう。必要なら何度でも同じ話を伝えましょう。
3. 一か月単位のお小遣い『小学生』

①一か月単位のお小遣い
小学生くらいになれば、一か月単位でお小遣いを渡しても大丈夫になってきます。
また、算数も習い始めるこのタイミングでお小遣い制を始めるのもいいと思います。
一か月単位で渡すことで、計画的に使うということが身につきます。
②文房具はお小遣いで!
私は、お小遣いで文房具を買わせることをお勧めしています。
講演会などでこの話をすると驚かれる方も多くいらっしゃいますが、大人になった時のお金の使い方はどうかということを考えてみてください。
私たちは給料をもらったらまず何をするかというと、必ず支払わなければならないものから支払っています。住居費、光熱費、教育費、携帯代、交通費、食費などです。万が一に備えるための保険料の支払いや将来のための貯蓄もしなければなりません。つまり生活するのに『必要なもの』に支払いをして、次に『備えること』に支払い、その残りを自分が『欲しいもの』に使うのです。
子どもに教えるのは大人になった時に考えていかなければならない、これらの視点だと思います。
そのためにお小遣いから文房具を買うという提案をしています。子どもにとって文房具は「欲しいもの」ではなく「必要なもの」です。だからこそあえてお小遣いから文房具を買うことが大事になります。
子どもによって理解力は違いますが、その子にあったペースで繰り返して教えていくことで、わかるようになります。
③ 任せるものを徐々に増やす
お金の扱いに慣れてきたら、任せるものを増やしていきましょう。
本人名義の交通系ICカードを作り、お出かけの時にはそれにチャージをさせ、本人に管理を任せるのもお勧めです。移動するのにお金がかかることがわかります。お小遣いの額も増やした上で、チャージをさせましょう。交通機関を利用して移動するとあっという間に残高がなくなることを経験します。
お出かけした時、急に欲しくなった飲み物なども任せていると、出かける時に飲み物を持参するようになったりします。
お友だちとのお出かけや、誕生日プレゼント、地域のお祭りなどのイベント参加時のものも、お小遣いの中から出してもらいます。そのためには日ごろのお小遣いを多めに渡し、どんな時にそれを使うのかを何度も話し合っておくことが肝心です。
これらのことはわが子で実践して、効果を実感してきました。「そのつど渡し」では見られないわが子の行動の変化に何度も驚かされました。
たとえば地域のお祭りの時。多くの子どもはその日に渡されたお小遣いを持って参加しています。すると子どもは「このお金をどうやって使い切るか」という行動になります。けれどわが子は限られたお金の中で「ほんとうに私が使いたいものはどれなのか」という優先順位を考えた行動をとります。お友だちが買っているからではなく、おサイフの中身と相談して考える姿には、グッとくるものがありました。がまんする姿に思わず追加でお金を渡したくなったりもしましたが、そこは保護者のがまんのしどころ。家に帰って「お友だちが買っていたのに買わずにがまんしていたね。お母さん、気がついたよ」と伝えた時の嬉しそうな、そして自慢気なわが子の顔は忘れられません。
でも、大人になった時にとても大事なことというのはお分かりいただけるでしょう。
④ お小遣い帳
もう一つ大切なことは、お小遣い帳をつけることです。ただし、これは叱る道具にならないように注意が必要。「お小遣い帳の残高とおサイフの中身が合わないと、翌月のお小遣いは0円です」という保護者の方もいらっしゃいますが、その人は毎月、家計簿の残高とおサイフの中身が合っているのですか?と聞きたくなります。
お小遣い帳は自分の行動の振り返りのため、次により良い選択ができるようになるためのものです。
自分の買い方のくせに気づいたり、衝動買いをすることのデメリットに気づいたり、きっと子どもたちは学ぶことが多いと思います。
また、残高が合わない時はどうすれば良かったのかを話し合うチャンスです。レシートをもらうことだったり、帰ったらすぐに記帳することだったり、大人になっても大事な習慣。親子でしっかり話し合うことで、今後の使い方にも良い影響がでるでしょう。
4.年単位のお小遣い『中学生以降』

① 年間予算
お金の扱いに慣れてきたら、任せるものをさらに増やしてみましょう。
この頃わが子でやっていたのは、被服費の年間予算を決めて任せること。10歳を過ぎるころからブランド物に興味を持ち始め、私との価値観が合わなくなり、もめることが増えたタイミングで提案をしました。
年間予算を5万円とし、その範囲内で身につけるものすべてを買ってもらうことにしました。最初に提案したのは小学5年生のお正月。わが子はとてもビックリし、大喜びでした。けれど私は知っていました。育ち盛りの子どもの被服費は年間ではそれくらいかかるということを。靴も下着も帽子も何もかもだから。
お金を渡したのではなく、私が家計簿の中で管理をします。買い物をする時には残高を確認して出かけます。そしてその範囲内で自由に買ってもらいます。やがて本人は買い物に慎重になり、メリハリをつけて買うようになりました。
ある時わが子はブーツを買うことであれこれ悩んでいるようでした。予算を聞くと2万円超えのもの。ネットで調べ、直接お店に行き履き心地を確かめ、買っていました。
もし、被服費を予算制にしておらず、私に「買って」と言われていたとしたら、絶対に買わなかったでしょう。私には、ブーツを2万円で買うという価値観はないからです。
けれど任せていたからこそ、わが子はそれを手に入れることができました。
選び抜いたブーツを履いた時、とても嬉しそうだったことを鮮明に覚えています。そしてそのブーツは帰宅すると玄関には置かれず、自室にもってあがっていました。
5.定額制と報酬制
① 目的によって考えましょう
ここまで、子どもの年齢に合わせたお小遣いの渡し方についてお話ししてきましたが、お小遣いの渡し方には大きく2つあります。定額制と報酬制です。定額制は一定のルールのもとに決められた額を渡すやり方。報酬制はお手伝いなどをしたことに対する報酬として支払うやり方です。
家のお手伝いに対してお小遣いを渡すことに抵抗を示す保護者もいらっしゃいます。そもそも家事を担っている保護者はお金をもらってしているわけではないし、子どもには家のお手伝いをお金のためにしてほしくないからと。
一方で、働いてお金を得ることを教えない定額制のお小遣い制度は子どもをダメな大人にしてしまう、という主張もあります。
これはどちらが良いとか悪いとかいう話ではないと私は思います。
大人になった時にどんなお金の使い方をして欲しいのか、どんな失敗をしてほしくないのか、どんなことを身につけて欲しいのかを考えて、家庭ごとに一番合ったやり方を見つけていくことが大事だと思います。
お仕事の対価としてお小遣いを渡すのであれば、きちんと家族に役に立つことでその子に合った手伝いをさせるのがいいでしょう。
わが家でも定額制のお小遣いにプラスして報酬制のお小遣いを渡していた時期がありました。小学生の頃のお風呂掃除です。
わが家は当時、義両親も合わせて7人で暮らしていて、一つしかないお風呂は、全員が入るとかなり汚れてしまっていました。その掃除を娘にお願いしました。ただし、仕事なのだから、仕上がりが悪かったらやり直しもしてもらいます。また、わが子の取りかかりが遅くて、義母が先に掃除をしてしまった時などは、翌月のお小遣いを渡す時にその分は減額する、というルールでした。彼女も納得していたので、夕方になると忘れないように取りかかる姿がありました。
保護者としてはお小遣いも渡すのだからやって当たり前と思いがちですが、大事なことは「ありがとう。あなたが掃除してくれるので助かるよ。」という感謝の一言。大人になっても同じですよね。
② 成績に対するごほうび
これもよく聞く話。
私は反対派。
理由もあります。
子どもをしつける時に「ほうびと罰」でしつけないことは大事です。
なぜなら、ほうびも罰も子どもを外からコントロールすることだからです。
大人であれば、ほうびや罰が与えられなくても自分で考えて正しい選択・行動ができなければなりません。そのためには自分自身の価値基準や判断力を持っていることが大事になりますが、ほうびや罰を使って子育てをしていては、その力が育ちません。
また、こんな話を聞いたことがあります。
大人は仕事をしてお金をもらいます。子どもは勉強するのが仕事だから成績が良かったらお金を渡しているのですと。
けれど大人がする仕事は他者のためのもの。子どもの勉強は自分のためにすること。自分のためにすることでお金をもらうのは違っていると私は思うのです。
6.まとめ

金融リテラシーを身につけるためのお小遣い制度について考えてきました。
今回、私が書いたことはあくまでも一つの考え方であり、これが正解というわけではありません。
これをきっかけに家族でお金の話をする習慣がつけば何よりです。
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鶴田 明子
AFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、子育てインストラクター、メンタルケア・スペシャリスト
「お金の話もできる子育ての専門家」として活動中。子育てに必要なのは『愛と技術(コミュニケーションスキル)とエネルギー(お金)』をモットーに経験に基づいた話を得意としている。一般社団法人「日本ライフプラン研究所」とNPO法人「ペアレント・スキルアップ福岡」の2ヶ所で理事を務める。著書:お金と上手につきあう子になる育て方(自由国民社)