高校から大学へ進学するには、それまでとは桁違いのお金がかかります。県外の大学へ行く場合は一人暮らしをすることにもなり、さらに費用は膨らみます。かわいい子どものためとはいえ、大金を出すからには、親の希望に沿った進路選択をしてほしいと思う気持ちになりがちです。ただ、ここは注意が必要です。
子どもの気持ちを置き去りにしたまま、「お金を出すのは親なのだから」と押し切ってしまうと、将来、取り返しのつかない事態にもなりかねません。
まずは、進学にどれくらいお金がかかるのか、そしてその時の親子のコミュニケーションの仕方について考えてみましょう。
高校卒業までにかかるお金
高校を卒業し、大学等に進学する時に「お金がかかる」ことは漠然とはわかっていても、どのタイミングでどれくらいかかるのかを正しく把握していない方もいらっしゃるでしょう。
まず、全国大学生活協同組合連合会による「2023年度保護者に聞く新入生調査」より、受験から入学までにかかる費用を確認しましょう。
《表1》(単位:円)
参考:「2023年度保護者に聞く新入生調査」概要報告|全国大学生活協同組合連合会(全国大学生協連) (univcoop.or.jp)
<図表2・3>をもとに作成
こうしてみてみると、卒業までに100万円以上の金額がかかっていることがわかります。下宿して通学する場合だと200万円を超えてしまいます。
また注意しなければならない費目に「入学した大学への学校納付金」があります。
最近の入試はかならずしも2~3月ではなく、推薦入試や総合型選抜(AO入試)などは高校3年の秋ごろに実施されるところもあり、その場合は合格発表にともない、学校納付金の時期も早まります。
はじめての子どもの場合、「入学するまでに納めればいい」と勘違いをされている保護者もいらっしゃるようで、慌ててお金の準備をすることになり、最悪の場合は納入期限に間に合わず、せっかく合格しているのに入学できないということも実際におきているようです。
そうならない為にも、高校3年生になったら、早めの準備が必要です。
では、つぎに進学後の費用についてみてみましょう。
大学入学後にかかるお金
入学年度に必要な授業料等《表2》(単位:円)
※1 国立大学は文部科学省令第16号「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」の標準額を記載。
※2 公立大学は文部科学省の「2023年度学生納付金調査結果」の大学昼間部99大学の平均値を記載。
なお、公立大学の入学金は県内進学者と県外進学者で異なる場合があるため、「地域内」:県内進学者、「地域外」:県外進学者として分割
※3 私立大学は文部科学省の「令和5年度私立大学入学者に係る初年度学生納付金等平均額(定員1人当たり)の調査結果について」をもとに記載
※ 専門学校(専修学校専門課程)は東京都専門学校各種学校協会の「令和5年度専修学校各種学校調査統計資料<概要版>調査研究事業部「在籍調査等」から調査2 令和5年度 学生・生徒納付金調査」(千円以下四捨五入)をもとに作成。
※ 他にも実習費等の費用が必要となるケースもあります。
※ 表1のところで話した「入学した大学への学校納付金」には、表2に示されている入学料と、授業料のおよそ半分にあたる前期分が含まれます。
学生生活を送るために必要な費用《表3》(単位:円)
※ 各費用は、日本学生支援機構「令和4年度学生生活調査結果」(大学昼間部)Ⅳ.集計表1-1表をもとに作成
参考:令和4年度学生生活調査結果 (jasso.go.jp)
表1から表3までをまとめると、4年生大学へ進学した場合の費用は次のようになります。
◎ 自宅から国立大学へ進学(最安コース) 約578万円
◎ 自宅から私立大学文系へ進学 約704万円
◎ 自宅から私立大学理系へ進学 約821万円
◎ 下宿して国立大学へ進学 約898万円
◎ 下宿して私立大学文系へ進学 約1,023万円
◎ 下宿して私立大学理系へ進学 約1,140万円
データからはじき出した数字ですが、最安コースの自宅から国立大学へ進学した場合でも578万円もかかり、下宿して私立の理系へ進学すると1,100万円を超えるということです。
しかもこれは一人分。子どもが複数人いる場合は、人数分が必要になるというわけです。
子どもの進路選択と親子のコミュニケーション
見てきたように、大学などへ進学するときには大きなお金がかかります。それは使わなければ保護者の老後の資金にもできるお金です。
だからこそお金を出す私たちが納得する進路選択をしてほしいと思うのは当然のことです。
ですが、ここはひとつ立ち止まって考えていただきたいことがあります。
どんなに子どものためと思って保護者の考える進学先を薦めても、選択した進路を進むのは本人です。本人が納得していない進路選択は、後々トラブルを生むことにもなります。
ある高校の先生から聞いた話です。
とても成績優秀な生徒がいて、希望すれば医学部進学も夢ではないという成績だったそうです。その子の保護者は医者になることを希望しており、医学部以外の受験は認めない、という勢いだったそう。ただ、その子は血を見るのが嫌で、本人も「医学部には進学したくない」と言っているし、先生も「私も医学部は違うと思うのですよね」とおっしゃっていました。
仮にこの子が親の意見に逆らえず、医学部に進学し医者になれたとして、本人は幸せな人生を歩めるのかどうか疑問です。最悪の場合、心を病む、ということも可能性としてはあると思います。その時、親はどうやって責任をとるのでしょうか。
それは誰の課題?
「それは誰の課題なのか?」という考え方があります。
そのことの結果が誰にかえってくるのか、誰がそのことの責任をとらないといけないのかを考え、それは自分の課題なのか、相手の課題なのかを考えて行動を起こします。
自分の課題ならば自分が積極的に考え、選択決断をする。
相手の課題であれば、話を聴く(相談にはのる)ことはするけれど、「こうしなさい」とは決して言わないことが大事です。
進路選択の場面においてはお金の問題は保護者の課題、進路選択は子どもの課題です。
保護者はご自身のこれから先のライフプランと資金計画をしっかりしたうえで、その子に対していくらまでなら出せるのか予算を考えて子どもに伝える。けれど「お金を出すのは私たちなんだから、私たちが良いという進路しか認めません」というのは間違っているということです。
子どもも納得しているのであれば問題ありませんが、子どもは違うところを希望しているのに、保護者がそれを頭ごなしに否定しては、それがいくら子どもを思ってのことだとしてもNGな行動です。
進学した後で「親のいうことを聞いてこの大学を選んだけれど、やっぱりやめておけばよかった。あ~もう、勉強する気にもなれない」と言われた時、親はお手上げになります。
また、その時に不満がでなくても、大人になり仕事を始めてからいろいろと思い悩む人の話を聞いたこともあります。「本当は、違う道に進みたかった…」と。
子どもの課題に対する保護者の向き合い方とは?
それでは、どうしても子どもと進路選択で意見が違う場合、保護者はどうすればよいかというと、子どもとしっかりコミュニケーションをとることです。
まずは、子どもの気持ちをしっかりと聴く。
それから親としての気持ちを伝える。
そのうえで再度、話し合う。
その過程で、なぜ子どもにその進路を選んでほしいと思っているのかを突き詰めていくと、親の見栄やエゴなど子どものためではなく、自分が安心・満足したいためだったことに気づくかもしれません。
逆に丁寧に話し合うことで、子どもが気づかなかったリスクなどに気づくことができて、本人の意志で保護者が納得する進路選択に近づくこともあるかもしれません。
子どもにかける教育費は何と交換するのか
お金には「価値との交換手段」という役割があります。
けれど、子どもにかける教育費は親が支払いはするものの自分の価値観に沿ったものとの交換にならないことがあるのは、これまで述べてきたとおりです。
では、何と交換するのか、とある時じっくりと考えてみました。
そこで思い当たったことは、「子どもの自立」との交換ではないかということです。
その子によって、かかるお金は大きく違いますが、その子が心身ともに成長し、いろいろな経験を通して、将来自立して生きていくときに必要なあれこれを身につけ、自信をもって自立していくために必要なことにお金をかけるのだと思いました。そこには無駄になったお金もあるかもしれませんが、それもこれも、わが子が自立に向かうためには必要だったのだと納得するしかないのだと思います。
失敗する経験も含め、子どもが納得して進路選択をし、その後の様々な選択も自分の課題として考え、決断していくならば、その子は自分の人生の主人公として生き生きと生きていくのだと私は思います。
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鶴田 明子
AFP(日本FP協会認定)、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、子育てインストラクター、メンタルケア・スペシャリスト
「お金の話もできる子育ての専門家」として活動中。子育てに必要なのは『愛と技術(コミュニケーションスキル)とエネルギー(お金)』をモットーに経験に基づいた話を得意としている。一般社団法人「日本ライフプラン研究所」とNPO法人「ペアレント・スキルアップ福岡」の2ヶ所で理事を務める。 著書:お金と上手につきあう子になる育て方(自由国民社)