老後資産の形成に役立つiDeCoは制度のさらなる普及を図るために、たびたび改正が行われます。今後予定されているiDeCoの拠出限度額見直しもそのひとつであり、iDeCoは改正によって多くの人にメリットがある制度に成長しています。この記事では、iDeCoについて、2024年に予定されている改正に加え、2022年に改正となった内容や加入後の注意点などを紹介します。
2024年12月に予定されているiDeCo拠出限度額の見直し
iDeCo拠出限度額は、2024年12月から公務員や確定給付企業年金(以下「DB等他制度」という。)の加入者を対象に引き上げられる予定です。
DB等他制度の加入者は他の加入者に比べ、iDeCoの拠出限度額が低めに設定されていました。これはiDeCoのほかにもDB等他制度等で支給される制度があるためでした。一方で、DB等他制度等も勤務する企業や公務により人それぞれ支給される額が異なります。そのため、加入者がそれぞれ加入しているDB等他制度ごとの掛金相当額(他制度掛金相当額)を反映することで、公平できめ細やかな制度額にする改正が行われることとなります。今回の拠出限度額見直しは公務員や確定給付企業年金に加入している人たちの資産形成に良い影響をもたらすでしょう。
iDeCoの拠出限度額見直しについて、さらに詳しく紹介します。
改正後の拠出限度額
2024年12月より、確定給付企業年金(DB)を併用する場合、iDeCoの拠出限度額は20,000円/月額に引き上げられます。公務員(年金払い退職給付に加入している方)も対象者に含まれており、現在の限度額12,000円/月額が8,000円/月額の増額となります。
なお、加入資格者ごとに現在の拠出限度額(2022年10月~)を一覧にすると、以下のようになります。
加入資格 | 拠出限度額 |
自営業者(第1号被保険者) | 月額68,000円 |
会社員(第2号被保険者) | 月額12,000~23,000円 |
公務員(第2号被保険者) | 月額12,000円 |
専業主婦・主夫(第3号被保険者) | 月額23,000円 |
出典:iDeCo公式サイト「iDeCo(イデコ)をはじめるまでの5つのステップ」
拠出限度額引き上げにともなう2つの注意点
拠出限度額の見直しに伴い、企業型DCやDB等他制度に加入している人は注意点が2つあります。iDeCoの掛金の拠出限度額が少なくなったり、掛金を拠出できなくなったりする可能性が考えられます。
ここでは、2024年のiDeCo法改正に関係する注意点を2つ見ていきましょう。
限度額を下回る場合もある
本人が加入している企業型DCやDB等他制度の掛金額によって、iDeCoの拠出限度額が20,000円/月額を下回る可能性があります。拠出限度額が、企業型DCの事業主掛金額や他制度の掛金相当額と合算で、月額55,000円までと定められているためです。
企業型DCとDB等他制度に加入している場合、以下のようにiDeCoの掛金額を計算します。
iDeCoの月額掛金=55,000円-(各月の企業型DCの事業主掛金額+他制度掛金相当額)
つまり、iDeCo以外の部分が35,000円を超えると、iDeCoの拠出限度額は少なくなるので注意しましょう。
掛金を拠出できない場合は脱退一時金の受給要件が緩和
iDeCoは、最低掛金が5,000円/月額と定められています。企業型DCの事業主掛金額やDB等他制度の掛金相当額との合算により、iDeCoの最低掛金(5000円/月額)を下回った場合は、iDeCoに掛金を拠出することができません。
この改正により、DB等他制度の掛金相当額の状況で、iDeCoに掛金を拠出できなくなった際は、資産額が一定額(25万円)以下である等の一定の要件を満たすことで脱退一時金を受け取れるようになります。なお、脱退一時金の受給要件は、以下のとおりですが、7つの要件をすべて満たす場合に限られる点に留意が必要です(引き続き、企業や公務に、引き続き従事する場合は、脱退一時金は受け取れず、運用のみ続けることとなります)。
60歳未満であること
企業型DCの加入者でないこと
iDeCoに加入できない者であること
日本国籍を有する海外居住者(20歳以上60歳未満)でないこと
障害給付金の受給権者でないこと
企業型DCの加入者かつiDeCoへの掛金拠出期間が5年以内であること(または資産額が25万円以下であること)
企業型DCまたはiDeCoの資格を最後に喪失してから2年以内であること
出典:厚生労働省「企業型DCの事業主掛金とiDeCoの掛金の拠出限度額」
iDeCoの2022年(令和4年)の制度改正ポイント
2022年(令和4年)も、iDeCoが大きく変わった年です。ここからは、2022年(令和4年)に法改正された4つのポイントを紹介します。
1.受給開始の上限年齢を引き上げ
もともとiDeCoの受給開始年齢は、60~70歳までの間で選ぶ必要がありました。
2022年(令和4年)4月からは年齢上限が引き上げられ、60~75歳までの間で受給開始できるようになっています。
受給開始年齢が拡大したことで、老後に受け取る公的年金との調整がしやすくなりました。例えば公的年金を繰り下げ受給し、繋ぎの期間にiDeCoを受け取る選択肢も考えられるでしょう。
2.加入年齢などの要件を緩和
iDeCoの加入要件が緩和され、より多くの人に加入資格が与えられるようになりました。2022年(令和4年)5月からiDeCoに加入可能になったのは、以下のような人達です。
60歳以上65歳未満の第2号被保険者(会社員・公務員など)
60歳以上65歳未満の国民年金任意加入者
国民年金に任意加入している海外居住者
法改正前は50代で加入すると、60歳で受給を開始することができず(60歳から受給を開始するには最低10年の加入者期間が必要)、かつ60歳以降は積立を行えないという弊害が生じていました。しかしこの法改正により、50代からでも第2号被保険者であれば65歳まで積立が可能となり、ラストスパートで老後資金を積み立てやすくなりました。
加入できる年齢の引き上げは、老後資金の積み増しに役立つでしょう。
3.脱退一時金の受給要件の見直し
iDeCoは、原則として中途引き出しができません。例外的に中途引き出しが認められていたのは、国民年金保険料の免除者のみでした。
2022年(令和4年)5月からは脱退一時金の受給要件が見直されました。公的年金の基準に準拠する方法での見直しで、外国国籍の方などは、以前よりも脱退一時金を受け取れやすくなっています。なお先に記載した脱退一時金の7つの要件をすべて満たす必要がありますので、iDeCoは原則、解約して現金を受け取る(脱退一時金を受給する)ことができない制度と捉えてください。
4.企業型DCとの併用要件の緩和
企業型DCとの併用要件が緩和され、iDeCoに加入できる人が増えました。企業型DCの会社掛金に上乗せするマッチング拠出、またはiDeCoのどちらかを選び併用できます。
併用する場合は、合算の掛金限度額が決められているので以下を参考にしてください。
マッチング拠出 | iDeCo |
下記のいずれも満たす額 ・会社掛金の額以下 ・会社掛金とマッチング拠出掛け金の合算が55,000円(27,500円)以下 | 下記のいずれも満たす額 ・iDeCo掛金20,000円(12,000円)以下 ・会社掛金とiDeCo掛金の合算が55,000円(27,500円)以下 |
※( )内の金額は確定給付型を実施している場合
出典:iDeCo公式サイト「法改正でますます拡充2022年からiDeCoはどう変わる?」
公務員は加入すべき?iDeCoがおすすめの理由
公務員として働いており、iDeCoに加入すべきか迷っている人もいるでしょう。
結論として、老後資金を形成したいなら公務員もiDeCoへ加入するのがおすすめです。ここからは、iDeCoをおすすめする理由を2つ紹介します。
公務員の退職金は減額傾向のため
公務員の退職金は、昔と比べて減額傾向にあります。
「地方公務員給与の実態」をもとに定年退職金(※)を見てみると、以下のようになりました。
2005年(平成17年):16,051,000円
2022年(令和4年) :11,073,000円
出典:地方公務員給与の実態(※全地方公共団体の全職員、長期勤続後の「定年退職・その他」の1人当たり平均手当額)
「公務員は安泰」と昔から言われていましたが、現在はそうとも言い切れません。そのため、老後の蓄えは公務員であっても自主的に行う必要があるでしょう。
iDeCoへ加入するメリット
公務員だけでなく、多くの人にとってiDeCoはおすすめの資産形成方法です。iDeCoは他の金融商品にはない税制優遇などがあり、お得に資産運用できます。
ここでは、iDeCoの加入者全員が受けられるメリットを見ていきましょう。
運用益が非課税になる
通常、資産運用で得た利益には20.315%(復興特別所得税含む)の税金が課せられます。課税されると、手元に残る利益が少なくなります。
しかし、iDeCoは運用益が非課税でかつ原則60歳以降まで引き出せないため、非課税運用で得た収益等を、そのまま再投資に回せる(これを複利運用といいます)仕組みが長期的にわたり継続されるという点で大きなメリットがあります。長期投資が前提のiDeCoだからこそ、複利効果も絶大です。
掛金が全額所得控除になる
iDeCoで拠出した掛金は全額が所得控除の対象となるため、所得税や住民税の負担軽減につながります。
例えば毎月12,000円をiDeCoに拠出した場合、年間掛金144,000円の全額が所得控除の対象となります。税のメリットを受けながら将来にむけ効率的に資産形成ができる手段としてiDeCoはおすすめの方法です。
受取時も控除対象になる
運用中だけでなく、老後にiDeCoの給付金を受け取る際も控除対象となります。
iDeCoの受け取り方は主に2種類あり、どちらを選択するかによって控除の種類が変わります。
分割した額を定期的に受け取るのが年金受け取り、まとまった金額を一括で受け取るのが一時金受け取りです。なお、年金と一時金を併用して受け取ることも選べます。
年金として受け取る場合:公的年金等控除
一時金として受け取る場合:退職所得控除
併用した場合:年金部分は公的年金等控除、一時金部分は退職所得控除
iDeCoの加入後に気を付けること
iDeCoに加入した後は、控除手続きや移換手続きが必要になることがあります。頻繁に行う手続きではありませんが、覚えておきましょう。
控除を受けるために年末調整または確定申告の手続きをする
iDeCoはただ加入・運用しているだけでは所得控除を受けられません。控除を受けるには、年末調整や確定申告の手続きが必要です。
10~11月頃に、掛金の払込証明書(小規模企業共済等掛金払込証明書)が国民年金基金連合会から送付されてきます。掛金の払込証明書をもとに、必要事項を年末調整の書類に記入しましょう。
転職・退職の際は移換手続きをする
転職・退職をする場合は、iDeCoの手続きを忘れないよう注意しましょう。
退職や転職する場合は次の自分自身の状況によって手続き方法は細かく分かれ、拠出限度額の変更や手続きすべき書類等が異なります。次の点をチェックし、状況に合わせて必ず6か月以内に手続きしてください。iDeCoを申込している金融機関のコールセンター等に手続きを確認する方法もあります。
国民年金の何号被保険者になるか
企業型DCはあるか
DB等他制度の加入状況は変わるか
なお、会社員に限らず公務員から公務員へ職場が変わる場合でも、手続きは必要です。iDeCoの手続きは基本的に金融機関を通して行うため、詳しくは問い合わせてみましょう。またiDeCoの実施主体である国民年金基金連合会のホームページ等でも詳細を確認することができます。
まとめ
iDeCoの拠出限度額見直しは2024年に予定されており、確定給付企業年金(DB)を併用する場合は20,000円/月額へと増額されます。iDeCoの拠出限度額が12,000円/月額と低めだった公務員や確定給付企業年金の加入者も、2024年12月以降はより多くの掛金を拠出できるようになります。社会変化により退職金や年金が減る可能性はあるため、早めにiDeCoを始めるのがおすすめです。
西日本シティ銀行では、個人型確定拠出年金プラン「恋するiDeCo」を提供しています。豊富な商品ラインナップがあるため、投資スタイルに合わせた運用が可能です。ぜひiDeCoへの加入を検討してみてください。
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*投資信託のご留意事項について
商号等:株式会社西日本シティ銀行 登録金融機関 福岡財務支局長(登金)第6号
加入協会:日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会
澤田 真里奈
2級FP技能士
地方銀行へ入社し、貯金・ローンなど金融商品の販売に従事。 その後、不動産業界へ転職して社会保険や労務管理を担当しながらFP資格を取得。自身の経験から“お金を無駄にしないための”アドバイスをおこなう。