つみたてNISAは積立投資の運用益が非課税になる制度です。国民の資産形成促進が目的の制度であるため、初心者でも取り組みやすい仕組みになっています。この記事ではつみたてNISAでの投資を検討している人のために、一般NISAとの主な違いや、つみたてNISAのメリット・デメリット、つみたてNISAを始める手順について解説します。
つみたてNISAの仕組みについて解説
つみたてNISAはNISA(少額投資非課税制度)の一種で、積立投資によって得られた利益に税金がかからない制度です。
一般的に投資のリスクを減らすには、「長期」「積立」「分散」の3つの手法を組み合わせることが有効とされています。つみたてNISAは制度の中にこれらの手法が組み込まれ、初心者が投資を始めやすいように配慮された仕組みです。
つみたてNISAと一般NISAの比較
一般NISAはNISA制度が始まったときに作られ、つみたてNISAとは異なる特徴があります。両者の概要は以下の通りです。
| つみたてNISA | 一般NISA |
利用できる人 | 口座開設する年の1月1日時点で20歳以上の日本国内居住者 | |
非課税対象 | 投資信託への投資から得られる売却益または分配金 | 株式・投資信託等への投資から得られる売却益・配当金・分配金 |
非課税投資枠 | 毎年40万円(20年間で最大800万円) | 毎年120万円(5年間で最大600万円) |
非課税期間 | 最長20年間 | 最長5年間 |
投資可能期間 | 2018年(平成30年)~2037年(令和19年) | 2014年(平成26年)~2023年(令和5年) |
投資対象商品 | 金融庁の基準を満たした長期の積立・分散投資に適した一定の公募株式投資信託・ETF 金融庁の基準とは、「販売手数料は0円」「毎月分配型でない」など | 上場株式(ETF、REIT含む) 公募株式投資信託等 |
投資方法 | 積立のみ | 一括投資、積立ともに可 |
ロールオーバー | 不可 | 可能 |
中長期の将来に備えられるつみたてNISA
つみたてNISAは年間の非課税投資枠が40万円(1ヵ月3万3,333円)と、一般NISAに比べて80万円も少ないです。しかし非課税期間は20年間と長期で設けられています。そのため、まとまったお金がなくても少額からコツコツ積み立てることで、将来に向けての資産形成が無理なくできる仕組みです。
多彩なニーズに応えられる一般NISA
一般NISAは投資信託だけでなく、株式への直接投資もできます。また、購入できる投資信託の種類もつみたてNISAより多く、投資対象の選択肢が豊富です。投資方法も積立だけでなく一括購入が可能で、両者の併用もできます。そのため、投資の初心者から経験者、まとまった資金のない人から余裕資金のある人まで、さまざまなニーズに応えられる仕組みです。
また、一般NISAで運用商品の買い付けができるのは5年間ですが、非課税投資期間終了後にも投資元本と含み益全額を繰り越すことができます(ロールオーバー)。
資産運用初心者にも始めやすい
つみたてNISAは投資の普及が目的の制度であるため、初心者にも取り組みやすいといわれています。それには主に3つの理由があります。
投資対象がプロに「おまかせ」できる投資信託
1つめの理由は、投資対象が投資信託であることです。投資信託は、投資家から集めたお金を運用のプロが株式や債券で投資する金融商品です。プロが投資する銘柄を選んで、買い付けや売却をしてくれます。運用のプロにおまかせできるのは、初心者にとって心強いポイントです。
積立投資なら買い付けのタイミングを気にしなくていい
2つめの理由は、積立投資であることです。積立投資は一括投資と違い、買い付けのタイミングを考える必要がありません。
一括投資のタイミングの判断は、初心者には難しいことです。しかし、つみたてNISAなら設定をすることで毎月自動的に買い付けてくれます。そのため手間もかからず、タイミングに悩むこともありません。
投資対象が金融庁によって絞り込まれている
3つめの理由は、つみたてNISAの投資対象が金融庁によって厳選された投資信託・ETFであることです。日本で販売されている投資信託は6,000本以上あり、初心者がその中から自分に合った商品を選ぶのは難しいでしょう。2020年(令和2年)12月23日現在、つみたてNISAで買い付けできる投資信託・ETFは193本です。いずれもコストが安く、長期・積立・分散に適した商品なので、初心者にも選びやすくなっています。ただし、元本割れする可能性もあることは理解しておいてください。
つみたてNISAのメリット・デメリット
つみたてNISAには多くのメリットがありますが、注意すべき点もあります。ここからは、メリット・デメリットについて確認していきましょう。
つみたてNISAのメリット
最初に主なメリットを解説します。
運用益が非課税
つみたてNISAで運用して得られた売却益や分配金は、非課税です。
通常の金融商品の取引で生じた運用益には、20.315%の税金(所得税・住民税・復興特別所得税)がかかります。投資信託を売却して10万円の利益が出た場合、通常なら約2万円の税金が差し引かれます。しかし、つみたてNISAであれば全額を受け取れます。
少額からの投資ができる
つみたてNISAの投資方法は積立のみのため、まとまった資金がない人でも少額から投資が行えます。最低の積立金額は金融機関によって異なりますが、多くの金融機関では数千円から1万円程度の積立金額を設定できます。
そのため、投資リスクが怖いと感じる人は最低金額から始めて、慣れたら徐々に増やしていくことも可能です。
いつでも換金できる
つみたてNISAでは、積み立てた資産をいつでも都合のいいときに換金できます。
積み立てた資産はなるべく取り崩さないほうがいいのですが、突然お金が必要になることもあるでしょう。そのような場合、つみたてNISAなら必要に応じて換金できるため安心です。
複利効果で資産の成長が期待できる
出典:筆者作成
つみたてNISAで長期の積立を続けると、複利効果が期待できます。複利とは最初の元本に対してだけ利息が付く単利に対し、利息を元本に組み入れて運用する方法です。上記の表は、元本100万円を年利5%で20年間運用した場合の単利と複利を比較したものです。最初の数年では両者の差はわずかですが、時間が経つと徐々に差が大きくなるのがわかります。
投資信託の分配金が利益から生じたものである場合、受け取ってしまうと複利効果が得られないことになります。つみたてNISAでは毎月分配型ではない投資信託を投資対象にしており、長期での効率的な運用が見込めます。
つみたてNISAのデメリット
メリットの多いつみたてNISAですが、注意すべきデメリットもあります。
元本保証ではない
投資信託やETFには値動きがあり、場合によっては損失を被る可能性があります。つみたてNISAの投資対象は、金融庁が厳選した商品であるとはいえ、元本が保証されているわけではありません。リスクを軽減する仕組みが備わった投資であることを、理解しておいてください。
非課税投資枠の再利用ができない
つみたてNISAを換金した後の非課税投資枠は、再利用できません。先述のとおり、つみたてNISAは中途換金が可能です。しかし一度換金した場合、その分の非課税枠を利用しての買い付けはできません。
非課税投資枠の繰越ができない
つみたてNISAの1年分の非課税投資枠40万円を使い切らなかった場合、翌年以降に繰り越すことはできません。たとえば、毎月の積立額が1万円の場合、年間12万円の積立となり28万円分の非課税枠が残ります。この場合、使い残した非課税投資枠が翌年には消滅します。
損益通算と損失の繰越控除ができない
つみたてNISAでは、損益通算と損失の繰越控除ができません。損益通算とは、投資の利益と損失を相殺することです。特定口座などの課税口座では、損益通算により課税所得の圧縮ができます。たとえば、A銀行では50万円の運用益が、B証券会社では30万円の運用損が出たとします。損益通算では運用益の50万円から運用損の30万円を差し引き、課税所得を20万円にできます。さらに、損益通算で控除しきれなかった損失は、最長3年間繰り越して控除が可能です。
しかし、つみたてNISAでは損益通算も損失の繰越控除も認められていません。
つみたてNISAに向いている人って?
以上のことを踏まえ、つみたてNISAはどのような人に適しているか解説します。ただし、つみたてNISAに向いていない人はあまりいないので、以下に当てはまらない人でも活用を検討してみてください。
まとまったお金はないが資産運用がしたい人
積立投資は、まとまったお金がなくても始められます。そのため、学生でも就職したばかりの社会人でも、積立投資で資産作りができます。つみたてNISAは積立投資を税制メリットで後押しする制度です。積立投資を始めるなら、まずはつみたてNISAの非課税投資枠を活用しましょう。
必要に応じて、換金したい人
つみたてNISAは好きなときに換金できて使途を問われないため、ライフイベントごとに必要資金を使いたい人に適しています。つみたてNISAで準備するのに適している資金には、教育資金や老後資金があります。また、ライフイベントは人それぞれで、中には起業などで資金が必要になることもあるかもしれません。そのような場合に積み立てた資金を充てたい人には、自由に換金できるつみたてNISAが役立ちます。
50歳以降の人
50歳以降の人が老後資金を準備する場合、つみたてNISAは使いやすい制度です。一般的に老後資金の準備にはiDeCoが有利です。しかし、iDeCoは60歳までしか掛金の拠出ができないため、50歳以降の人では短期間しか積立ができません。しかし、現在では定年延長などで60歳以降も働く人が多く、働いている間は老後資金の準備をしたいと考える人は少なくないでしょう。そのような人も、年齢の上限がないつみたてNISAを活用すれば、老後資金を効率的に準備できます。
老後資金を作りたい自営業者
国民年金の上乗せ制度がない自営業者の老後資金準備にも、つみたてNISAはマッチする制度です。自営業者は公的年金だけで老後の生活費を賄うことが難しいため、自助努力が必要です。そのための手段としては、まずiDeCoが考えられます。iDeCoには優れた税制メリットがあるので、掛金の拠出ができる60歳まではiDeCoを中心に老後資金準備をするとよいでしょう。しかし自営業者には定年がなく、60歳以降も事業を続けることは少なくありません。そこで、60歳以降の老後資金準備につみたてNISAを活用し、ゆとりのある老後を目指すのも一つの方法です。
つみたてNISAの口座開設をしよう
最後に、つみたてNISAの口座を開設して投資信託の買い付けをするまでの手順を解説します。
金融機関を選ぶ
つみたてNISAを始める際には、口座を開設する金融機関を選ぶことから始めます。金融機関を選ぶときは、主に次のようなポイントから決めましょう。
購入する投資信託のラインナップが自分の希望に合っているか
わからないことや困ったことがあった場合に対応できる、顧客へのサポート体制が整っているか
つみたてNISAの口座は1人につき1口座です。なお、金融機関は1年単位で変更できます。
つみたてNISAの口座を開設する
金融機関に課税口座を持っていない人がつみたてNISAの口座を開設する場合、同時に課税口座も開設してください。課税口座には「特定口座(源泉徴収あり)」「特定口座(源泉徴収なし)」「一般口座」の3種類があります。このうち、初心者は自分で確定申告をしなくてよい「特定口座(源泉徴収あり)」を選ぶといいでしょう。
積立金額と買い付ける商品を決める
つみたてNISAの口座が開設できたら、毎月の積立金額と購入する商品を決めます。積立金額は金融機関ごとの最低投資金額から非課税投資額の上限(1ヵ月3万3,333円)の間で設定します。
買い付ける投資信託は金融庁によって選ばれた商品の範囲で金融機関が取り扱うため、さらにラインナップが絞り込まれます。従って、初心者でも商品選びはそれほど難しくありません。商品は、1種類だけでも複数種類の組み合わせでも購入できます。
積立の設定が済むと自動的に買い付けが始まるので、時々運用状況を確認する程度で特にすることはありません。
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まとめ
つみたてNISAは積立投資の運用益を非課税にして、国民の資産形成を支援する制度です。初心者でも毎月コツコツ積立を続けることで、長期的にはまとまった資産を作れるでしょう。つみたてNISAを始めるにあたっては、制度の内容をよく理解し自分に合った金融機関や商品を選んでいきましょう。
- つみたてNISA
松田聡子
群馬FP事務所代表、CFP®、証券外務員二種、DCアドバイザー
国内生保で法人コンサルティング営業を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在は法人向けには確定拠出年金の導入コンサル、個人向けにはiDeCoやNISAでの資産運用や確定拠出年金を有効活用したライフプランニング、リタイアメントプランニングを行っている。