旧姓を使用して活動する人が簡単に身分証明をできるように、2019年(令和元年)12月から、希望すれば運転免許証に旧姓を載せることが可能になりました。
今回は、旧姓を表記できる公的書類にどのようなものがあるかと、旧姓を載せるための手続きについて解説します。
旧姓併記ができる公的書類
旧姓併記とは
旧姓併記は、主に結婚して姓が変わった場合に選択できる制度です。旧姓とは、その人の過去の戸籍上の姓のことで、法的には「旧氏(きゅううじ)」といいます。
旧姓併記のメリット
各種の契約書や銀行口座の名義で旧姓が使われている場合、免許証などに旧姓が表記されていれば現在の姓との紐づけができるため、本人確認が簡単にできるというメリットがあります。
また、就職や転職時などの仕事の場面でも旧姓で本人確認を行うことが可能です。
旧姓併記のデメリット
旧姓を表記することによって結婚していることが明らかになるため、プライバシーを知られたくない場合は不利益になる可能性があります。
また、旧姓で契約したものについて、旧姓のままでよいかは契約の相手によるので、旧姓を載せることが役に立たない場合もあります。
旧姓併記が可能な公的書類
住民票・マイナンバーカードなど
旧姓併記手続きをすることによって、住民票に旧姓を載せることができます。住民票の旧姓併記手続きを行うと、マイナンバーカードや(公的個人認証サービスの)署名用電子証明書、印鑑登録証明書にも旧姓が表記されるようになります。
運転免許証
2019年(令和元年)12月より、運転免許証に旧姓を載せることが可能となっています。
運転免許証には、自動車の運転資格の証明だけではなく、写真入りの身分証明書としての側面もあります。免許証に旧姓が表記されると、結婚などで姓が変わった場合でも旧姓での身分証明に使うことができます。
パスポート
パスポートに旧姓を表記することは、「別名併記」の一種として認められています。ただし、パスポートに表記する氏名は戸籍上の氏名のみです。
また、旧姓などの別名の表記は、申請者の外国での仕事や生活上の便宜を図るためのものであり、誰にでも認められるものではありません。
運転免許証における旧姓併記の手続き方法
事前に市町村にて「住民票の旧姓併記手続き」が必要
運転免許証に旧姓を表記できるのは、後述する住民票の旧姓併記手続きが完了した人です。先に市町村にて手続きを済ませてから、免許証に関する手続きを行うことができます。
免許証の旧姓併記手続きの必要書類
運転免許証
旧姓が表記された住民票もしくはマイナンバーカード
免許証の旧姓併記手続きができる場所
手続きができるのは以下のような場所です。しかし、地域によって取り扱う場所が違うので、各県警のホームページなどで確認してください。
運転免許試験場
免許センター
警察署
免許証の旧姓併記は2つのパターンがある
持っている免許証の裏面に追記する
免許証の裏面に旧姓を記載する場合は、手続きにかかる手数料は無料です。手続きを行うと、免許証の裏面の備考欄に旧姓の入ったフルネームが表記されます。
旧姓を表面に記載したい場合は再交付か更新時に手続きする
免許証の再交付か更新時に手続きを行うと、免許証の表面に旧姓を記載することができます。再交付の手数料は2,250円です。免許更新時に旧姓併記の手続きもする場合は、その他のコストや手間はかかりません。
手続き後は、免許証の表面の氏名欄にかっこ書きで旧姓のフルネームが表記されます。
住民票に旧姓を記載する方法
住民票の旧姓併記手続きの必要書類
本人確認書類
マイナンバーカード(取得している場合)
表記したい旧姓が載っている戸籍謄本
利用可能な本人確認書類
本人確認書類として利用できるものは、以下のとおりです。
マイナンバーカード(個人番号カード)
住民基本台帳カード(顔写真付き)
運転免許証
パスポート
上記のどれも持っていない場合、健康保険証や年金手帳など氏名が載っている書類を2点以上用意する必要があります。
申請に必要な戸籍謄本と入手方法
旧姓として表記したい姓が記されている謄本から、現在の姓が記されている謄本まで、すべての戸籍謄本が必要です。
戸籍謄本の入手方法は下記のとおりです。
本籍地の市町村の窓口にて申請する(郵送も可能)
コンビニで発行する(対応している市町村のみ)
住民票の旧姓併記手続きの申請場所
住民票の旧姓併記手続きは、住所地の市町村役場で申請します。
旧姓併記手続き後の旧姓表記・削除について
住民票等に旧姓を表記しないようにできるかどうか
旧姓併記の手続き後は、住民票等を取得する際に旧姓を載せないようにすることはできません。現在の姓と旧姓の両方が必ず表記されます。
旧姓の削除
旧姓の表記が不要になった場合は、旧姓を削除できます。削除してから再度姓が変わった場合のみ、削除後に新たに生じた旧姓を載せられます。
マイナンバーカードの旧姓表記
上述のとおり、住民票への旧姓併記の手続きを行うと、マイナンバーカードにも旧姓が載るようになります。手続きの時点でマイナンバーカードを取得しているか否かによって、表記方法が異なります。
すでにマイナンバーカードを取得している場合 | 追記欄に旧姓が追記される 追記欄に余白がない場合は再発行が必要 |
住民票の旧姓併記手続き後に作成する場合 | 表面に旧姓が表記される (例)山田[佐藤] 花子 |
パスポートの別名併記の手続き方法
パスポートの別名併記の対象になる人
冒頭で述べたとおり、パスポートの別名併記には条件があります。別名併記の対象になる人は以下のとおりです。
国際結婚や二重国籍などにより、外国の氏名を持つ人
ミドルネーム等がある人
海外で旧姓を使用する人
別名併記の手続きの必要書類
戸籍謄本または抄本
別名の使用実績を示すつづりの確認ができる書類
「別名の使用実績を示すつづりの確認ができる書類」(旧姓併記の場合)とは
別名の使用実績を示すつづりの確認ができる書類とは、海外における旧姓での活動や実績が確認できる書面(外国で出版された著書・論文、関係者とのメールの写し等)のことです。
別名併記の申請窓口
パスポートの別名併記は、住所のある各都道府県のパスポート申請窓口で申請します。
別名併記の注意事項
日本の別名併記は姓の欄にかっこ書きで表記されます。これは他国にない例外的なやり方で、パスポートのICチップには記録されません。そのため、出入国時や各種手続きにおいて渡航先の担当者が把握していない可能性があり、説明を求められるケースがあります。
入籍後の名前変更・旧姓併記の手続きの流れ
旧姓併記は、主に結婚して姓が変わった場合に選択できる制度です。ここでは入籍後の旧姓併記や、主な書類の氏名変更に関する手続きの流れをまとめます。
特にマイナンバーカードや運転免許証などは、旧姓併記の手続きの前に名前変更を行わなければなりません。それぞれの手続きと順番について確認しておきましょう。
姓が変わった後に必要な手続きと、効率よく進められる順番は以下のとおりです。
(1)役所の住所変更
結婚して住所が変わる場合に必要
入籍後、別の市町村へ引っ越す場合は転入届を、同一市町村内の移動の場合は転居届を役所に提出します。
(2)マイナンバーカードの氏名変更
マイナンバーカードを取得していて氏名が変わった場合、必ず氏名の変更手続きが必要です。転入届または転居届の提出と並行して手続きをしましょう。
旧姓併記を希望する場合は、上述した「住民票の旧姓併記手続き」も併せて行います。
(3)運転免許証の氏名変更手続き
運転免許証の氏名変更には住民票が必要です。また、旧姓を載せるには、住民票への併記の手続きを済ませておかなければなりません。そのため、運転免許証の氏名変更は、役所の手続きが完了した後に行いましょう。
運転免許証の氏名変更の際に、旧姓併記の手続きも並行して行うことができます。
(4)銀行口座・クレジットカードの名義変更
銀行口座とクレジットカードの名義変更には、本人確認書類が必要となることが一般的です。そのため、運転免許証の氏名変更手続き後に行うとスムーズでしょう。
クレジットカード会社に登録している引き落とし口座の情報と銀行口座の名義が違っていると、引き落としができなくなることも考えられます。生活に支障がないよう、それぞれ漏れなく手続きをしておきましょう。
(5)保険・携帯電話・光熱費などの名義変更
保険料や携帯電話代、水道光熱費などの名義変更には、引き落とし口座やクレジットカードの情報が求められます。そのため、銀行口座やクレジットカードの名義変更が済んでから手続きをしましょう。
(6)パスポートの氏名変更
パスポートの氏名変更をする場合、渡航時にパスポートの氏名と航空券の氏名が同じなら問題はありません。よって、入籍後に渡航の予定がないのであれば、特に急ぐ必要はありません。
まとめ
旧姓併記ができる公的書類や、旧姓併記の手続き方法を紹介しました。運転免許証に旧姓を併記するには、事前に住民票への旧姓表記の手続きが必要になります。また、住民票の手続きには旧姓が表記されている戸籍謄本が必要など、それぞれ事前の準備が大切です。旧姓併記の流れを確認し、スムーズに手続きを進めましょう。
- 手続き
松田 聡子
群馬FP事務所代表、CFP®、証券外務員二種、DCアドバイザー
国内生保に法人コンサルティング営業を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在は法人向けには確定拠出年金の導入コンサル、個人向けにはiDeCoやNISAでの資産運用や確定拠出年金を有効活用したライフプランニング、リタイアメントプランニングを行っている。