インタビュー 出産・子育て

私の保育論│原中央保育園・有松徹園長

原中央保育園の園長に聞く保育論

感じた違和感から園長に。元小学校教諭の新たなチャレンジ

福岡市内にはおよそ270の保育園があります。そんな数ある保育園の中でも元小学校の先生が園長を務めるという珍しい保育園があります。そこは福岡市早良区荒江にある「原中央保育園」。今回はその「原中央保育園」の園長である有松徹園長の転身ストーリーを伺いながら保育に対する姿勢をご紹介します。

子どもの主体性を大切にする保育 福岡市にある「原中央保育園」の様子

子どもの主体性を大切にする保育

「他の子ができていて、自分の子どもができないと保護者の方は焦るのですが、子どもの臨界期は一人一人違うのが当然です。焦らず、子ども達の主体性、人権を尊重して保育するのが私たちの理念です」と語るのは「原中央保育園」有松徹園長。

2018年4月に設立した「原中央保育園」は0歳から5歳まで、定員80名、職員、スタッフは31名という中小規模の保育園です。訪問した午前中にはまだ園内のグラウンドで園児たちが砂遊びやおままごとなど思い思いに遊んでいました。

子どもの主体性を大切にする保育を実践する原中央保育園

――小学校の教員から保育園の園長に転身というのはすごく珍しいことのようですが、どのようなきっかけだったのですか?

小学校教員の時に体験した教育方針の矛盾

つらい思いもありましたが、まあ、楽しく順風満帆に福岡市内で9年間、教員としていて過ごしていたんです。ですが公立学校のシステムに疑問を感じてですね。例えば、同じ学年の二人の教員の指導が、真逆だとしても、そのギャップが調整されずに1年が終わるケースがあったんです。よく言えば教員個人の裁量に任される、しかしそれぞれが違う方を向いて教育をしていては、子ども、保護者そして教職員も戸惑うことになり、組織としてまとまりがなくなると僕は痛感したんですね。

――その時に総合的に指導管理する仕事をしたいと考えたのですね。

教員のままでは、1年間で1クラスの35人しか児童の教育に関われない。もっと多くの子どもたちの教育に関われる職に就きたいという思いが芽生えたんです。公立学校の体制に疑問を感じていた時に、両親が運営している保育園という、「道」の替え場所があったのは幸運だったと思います。2008年に現在母が運営する社会福祉法人誠和会「まごころ保育園」に入り、今は父が運営する社会福祉法人大井会の3つの保育園の一つ「原中央保育園」の園長職を勤めています。

――保育園での教育スタートはいかがでしたか?

「まごころ保育園」に入った頃は、保育園は、小学校の縮小版だと捉えていて、園児にいろんなことをさせようと意気込んでいたりもして、それによって子どもたちの思いを見逃していることに後で気づき反省したり…。気のかけ方、手のかけ方が全然違う世界に来たな、と感じました。

――それから8年後に原中央保育園を作られた理由は?

お飾りだった経営理念

大井会の「大井保育園」はもともと市が運営していたものを、元教員の父が民間の保育園として引き継いだ保育園です。市営から譲り受けた当時はそのまま運営を進めていたので、保育理念も引き継いだまま。当然かもしれませんが、その理念を職員も私も理解できていなくて、お飾りにすぎない状況だったんです。ですが全員のベクトルを一緒にするために、私たちが理解して共有できるものを作らないとと、議論して出来たのが「あなたの幸せ=私の幸せ」という経営理念なんです。

お飾りだった経営理念を変えた

名刺にも書いています。
この理念を成就していくには施設が一つだけではやれることが限られてくるという思いがあってですね。できるだけ幸せの輪に、利用者だけでなく職員も地域も業者の方も加えていきたいと思い「空港前保育園」と「原中央保育園」をつくったんです。保育理念は「幸せと自己肯定感に満ちた子どもの育成」を掲げています。「大井保育園」単体だけで幸せにできる人って限られていくと思うんですよ。施設を増やすことで関わる人も増やしていきたいなって思ってですね。

微笑む原中央保育園の園長

――園児は1日をどのように過ごすのですか?

7時開園。0~2歳児、3~5歳児とクラスによってスケジュールの時間は少しズレがあるんですが、朝から各クラスに分かれて、外で遊ぶ子もいれば部屋でじっくり遊ぶ子がいたいり、公園で散歩する子もいたり等の時間ですね。その後給食があって、お昼寝、おやつのあとに遊び時間 遊びながら順次降園という感じです。18時までが通常福岡市から指示されている預かり時間なんですけど、その後の時間はそれぞれの園の裁量で延長保育というのがあります。うちは20時までの保育です。

園児は1日をどのように過ごすのですか?

3〜5歳が遊ぶのは同じ部屋

ここが3、4、5歳児の部屋です。一人っ子が多い時代、年齢の違う子と接する環境を作っています。同じ年齢の子でも成長の差はさまざまです。年齢差のある子たちと接することで、自分と成長の近い子と遊んだり、また、成長が違う子と遊ぶことでコミュニケーションの幅が広がったりします。遊ぶ相手は自分で決めることができるのです。

「いただきます」を一斉にしない。給食は自分のタイミングで。

4、5歳は食べたいタイミングに食堂に行って各自給食を食べるんです。だからみんな一斉に「いただきます」をしないんですよ。

いただきますと食事を楽しむ原中央保育園の園児たち

ある時、他の保育園と一緒に給食をする機会があったんです。運ばれて来た給食を食べようと個々で「いただきます」をしようとしたうちの園児が、他の園の園児が目の前にあるのに「いただいきます」をしないのに気づいて、隣の同じ園の子に「ここはまっとった方がいいとかいな?」「ここは一緒にいただきますってするっちゃない?」って話してたそうです。うちの園と他の園での違いを理解できる、そのことを相談するという「判断力」「コミニュケーション能力」、一緒に「いただきます」をするという「柔軟性」はしっかり成長していると実感しました。

一緒に「いただきます」をするという「柔軟性」はしっかり成長している

ランチルームの重要な役割

原中央保育園にはランチルームがあります。通常、保育園には独立した食堂を持っているところは少なく、保育室での食事が終わったらテーブルを片付けて、お布団をしいてお昼寝をするんです。となると食べるのが遅い子の横で先生が掃除を始めないといけないとか、遅い子は向こうで食べなさいっと言うことになる、すると食べるのが遅い子が引け目に感じ、「遅く食べる」ことだけで劣等感を持ってしまう可能性をつくるんです。

味覚発達と好き嫌いは違う

また食べれないものがある場合、個人の味覚の発達というものを本来とらえるべきところなんですね。この子はまだ味の奥深さに気づけてないという発達段階なのでわからないだけであって、嫌いだって言うのとは違うんですよ。それに気づけていない教育者は意外に多く、無理やり食べさせることによって、その食材が嫌いになったり、食事自体が嫌いになったりするのです。

可視化で明確、保育方針

保育業界ではよく「個に応じた、個に応じた」という言葉を耳にするんですが保育の内容を見てみたら、みんな一緒くたに扱っているという場面が非常に多いと感じているんです。個を無視した行動なんですよね。そういったものに「みんなで気づこうね」って園で作ったのがこれなんです。

可視化で明確、保育方針

食事や排泄、睡眠などの時への子どもの接し方に細い決まりを作って可視化して、それを機会を見つけては職員と読み合わせをしています。ここが一番難しいけれど大切なところだって思いで、職員とともに考えて「保育園で子どもを大切に扱う、主体性、人権を重視するということは、こういうことですよね」と確認して、マイナーチェンジもしています。

――このような指針チェックリストは他の保育園でもあるのですか?

扱っているところは少ないと思います。これも私が学校に勤めてる時に感じてたんです。多分これを示してなかったら、園児を注意するとか認めるというのは主観になって人によって変わっちゃうんですよね。それより、子どもも職員も戸惑います。子どもの関わりへの共通認識を深める園が増えるといいなって思っています。

原中央保育園の園長の姿

――保護者、パパ、ママに伝えたいことはありますか?

送り迎えの時間を活用ください。

保護者の多くの方が時間に追われていらっしゃるように思いますが、その合間で、送り迎えは大切なコミュニケーションの時間ですので、気になることなどありましたら、なんでも相談ください。一番情報交換が多いのが0歳なんですが、食のお悩みが多く、例えば「すぐ吐き出してしまうのですが保育園ではどうですか?」「食材の大きさはどのくらいに切ってますか?」などのご相談があれば翌日に職員が食べた大きさを具体的に伝えたり、日々フィートバックしています。

保護者ご自身の自己実現も大切にしてください。

時代は変わり、保護者も女性も仕事を継続することで自己実現をすることは大事なことだと思います。それを応援していく、保護者が笑顔になれば子どもも笑顔になるというのが私たちの方針なんです。だから子どもだけでも保護者だけでもダメで、子どもが保育園に行きたがる、お母さんと離れるのは寂しいけど、行ったら楽しくなる、そうしたら保護者も安心して預けられて仕事に打ち込められる。それを見ながら私たちも幸せな気持ちになれるんです。そんな幸せのスパイラルを作っていきたいですね。

――今後はどうのように進んでいきたいとお考えですか?

今は原中央保育園の園長ですが、大井会の管理者として3つの保育園の将来を考えていく段階に来ています。これからは今の理念をさらに浸透するよう、「子どもの主体性と人権を尊重した子どもへの関わり方」を大事にして、園長だけの支持ではなく、それぞれの園でみんなが意見を言い合える環境づくりや、全ての園の中で子どもたち、保護者の方々、職員、そして、関わる業者の方や地域住民が安心して過ごせる法人体制にしていきたいと思っています。

原中央保育園のホームページはこちら

PR ご来店はネット予約がオススメ!
PR

" インタビュー"の記事をもっと見る

" 出産・子育て"の記事をもっと見る