住宅ローンで支払う金利を減らし、総返済額を抑えたいと考える人は多いのではないでしょうか。繰り上げ返済はローンの見直し方法の1つで、上手に活用すれば金利の負担を減らせます。この記事では、繰り上げ返済の仕組みと効果的に活用する方法について解説します。
繰り上げ返済の仕組みとは
最初に、繰り上げ返済の基本的な仕組みについて説明します。
繰り上げ返済とは?
ローンの借入残高の一部または全額を前倒しで返済することを、繰り上げ返済といいます。通常の返済では元本と利息を合わせて支払いますが、繰り上げ返済では返済額全額が元本の返済に充てられます。借入元本が少なくなると、元本にかかる利息も減少する仕組みです。
住宅ローンの繰り上げ返済には「期間短縮型」「返済額軽減型」の2つのタイプがあります。なお、1つのタイプのみを取り扱う金融機関もあるため、注意が必要です。
期間短縮型
毎月の返済額を変えずに返済期間を短くする繰り上げ返済を、期間短縮型といいます。
期間短縮型が適している人
比較的家計に余裕があり、定年までのできるだけ早い時期にローンを完済したい人には期間短縮型が適しています。また、総返済額を効率的に減らしたい人にもおすすめです。
返済額軽減型
残りの返済期間を変えずに毎月の返済額を少なくする繰り上げ返済を、返済額軽減型といいます。
返済額軽減型が適している人
ローンの返済額を下げて毎月の家計にゆとりを持たせたい人は、返済額軽減型が適しています。子どもの教育費がかさんで家計が赤字になりそうな場合などは、返済額軽減型で繰り上げ返済をするのも選択肢の1つです。
支払額が少なくなる可能性あり?繰り上げ返済の3つのポイント
繰り上げ返済でローンの金利負担を効果的に減らすコツがあります。ここからは、知っておきたい3つのポイントを紹介します。
返済額軽減型より期間短縮型のほうが利息を減らす効果あり
期間短縮型の繰り上げ返済は、返済額軽減型に比べて利息軽減効果が高い方法です。
支払う利息額の違い
以下のような条件で当初借入と繰り上げ返済をした場合に、軽減できる利息額を試算します。
当初借入元金 2,500万円
当初借入期間 35年
返済方法 元利均等返済
借入金利 1.0%
毎月の返済額 7万571円(ボーナス返済なし)
ローンの10年目に200万円の繰り上げ返済をした場合、以下のようになります。
| 期間短縮型 | 返済額軽減型 |
繰り上げ返済後の毎月返済額 | 7万571円 | 6万3,011円 |
残存返済期間 | 22年1カ月 | 25年0カ月 |
利息軽減額 | 52万8,590円 | 26万314円 |
どちらの方法でも利息は減りますが、期間短縮型のほうが約27万円も多く減らせます。また、返済期間も約3年短縮できます。
借入残高が大きいほど効果あり
繰り上げ返済は、借入の残高が大きいほど利息を軽減する効果が高くなります。
10年ごと20年後の支払う利息額の違い
借入残高はローンの返済が進むと減っていきます。そこで、先ほどと同じ当初借り入れのローンを、期間短縮型で10年後と20年後に200万円の繰り上げ返済した場合を比較してみましょう。
| 10年後 | 20年後 |
繰り上げ返済時の借入残高 | 1,872万5,532円 | 1,179万1,465円 |
繰り上げ返済後の借入残高 | 1,667万565円 | 973万720円 |
残存返済期間 | 22年1カ月 | 12年4カ月 |
利息軽減額 | 52万8,590円 | 29万1,268円 |
ローン残高の多い、早い時期の繰り上げ返済は利息を減らすのに効果的です。10年後の繰り上げ返済は、20年後より約24万円も多く利息が減らせます。
金利が高いほど効果あり
繰り上げ返済は、金利が高いほど利息を軽減する効果が高くなります。複数の住宅ローンを組んだ場合の繰上げ返済は、金利が高いローンを優先するほうが有利です。
金利による支払う利息額の違い
先ほどと同じ当初借り入れのローンの金利を変えて、期間短縮型で10年後に200万円の繰り上げ返済した場合を比較します。比較する金利は1.0%と1.5%です。
金利 | 1.0% | 1.5% |
繰り上げ返済時の借入残高 | 1,872万5,532円 | 1,913万9,525円 |
繰り上げ返済後の借入残高 | 1,667万565円 | 1,708万6,903円 |
残存返済期間 | 22年1カ月 | 21年11カ月 |
利息軽減額 | 52万8,590円 | 84万565円 |
金利1.5%のローンの繰り上げ返済は、1.0%のローンに比べて約31万円も多く利息が減らせます。
繰り上げ返済のタイミングはいつがいい?
ここでは、繰り上げ返済を行うタイミングについて解説します。
なるべく早い時期に
同じタイプで同額を繰り上げ返済する場合、タイミングが早いほど支払う利息が少なくすみます。100万円が貯まるまで待つより、1万円ずつでもこまめに返済していくほうが効果的です。
住宅ローン控除の終了を待つべきか?
繰り上げ返済で問題となるのが、住宅ローン控除との兼ね合いです。住宅ローン控除では、最大で年末のローン残高の1%が税額から差し引かれます。そのため、ローン残高が多いほど減税額が大きくなります。繰り上げ返済でローン残高が減ると、住宅ローン控除の減税額も減少するという問題が生じるのです。
その場合、住宅ローン控除による減税と繰り上げ返済による利息の軽減を比較して、メリットのあるほうを優先します。その上で繰り上げ返済のタイミングを決めるようにしましょう。
どちらが有利かは住宅ローンの金利による
住宅ローン控除と繰り上げ返済のどちらを優先するかの判断は、住宅ローンの金利を基準にします。金利が1%以上の場合は、繰り上げ返済と住宅ローン控除を同時進行で実行しましょう。
一方、ローンの金利が1%未満で繰り上げ返済をすると、住宅ローン控除のメリットがなくなり損をすることもあります。このケースでは、住宅ローン控除期間終了後にまとめて繰り上げ返済をするようにしましょう。
住宅ローン控除の打ち切りに注意
住宅ローン控除は、ローンの返済期間が10年以上ないと受けられません。繰り上げ返済の結果、住宅ローンの残存期間が10年未満になると、住宅ローン控除を打ち切られてしまいます。住宅ローン控除を受けられる期間が残っている場合、ローンの残存期間が10年を切らないように繰り上げ返済の金額を調整しましょう。
年末よりも年明けに行う
住宅ローン控除の金額が年末の住宅ローン残高で決まるため、年明けに繰り上げ返済を行う方が有利です。年末に繰り上げ返済をして住宅ローン残高を減らすと、住宅ローン控除の減税額も減少します。冬のボーナスで繰り上げ返済をする場合などは、年が明けてから実行するようにしましょう。
繰り上げ返済をするうえで気をつけるべき注意点
繰り上げ返済をするとローンの金利が減るメリットがありますが、注意すべき点もあります。
必要な資金は残しておく
住宅ローンを早く返そうとして手元のお金を全て繰り上げ返済に使ってしまうと、家計が苦しくなることも考えられます。一般的に病気やけが、失業など緊急時の備えとして、生活費の6カ月分程度の予備資金が必要とされています。生活防衛資金や教育資金など、目的の決まったお金は繰り上げ返済に使わないようにしましょう。
ライフステージに合った繰り上げ返済のタイプを選択する
繰り上げ返済のタイプのうち、期間短縮型のほうが利息の軽減効果は高くなります。しかし、どのようなケースでも期間短縮型を選ぶべきというわけではありません。住宅ローンの返済期間中には、子どもの進学や病気・けがの治療で家計が苦しい時期もあります。そのような時期は返済額軽減型で毎月の返済額を減らせば、家計にゆとりをもたらしてくれます。ライフステージごとに適切な繰り上げ返済のタイプを選びましょう。
手数料と最低金額に注意
繰り上げ返済の手数料と最低金額は金融機関によって異なるため、事前に確認が必要です。
金融機関によっては、インターネット経由の手続きの手数料が無料で、窓口では有料の場合があります。こまめに繰り上げ返済をして借入の元本を減らしたいなら、手数料のかからないほうが望ましいといえます。
また、最低金額の多くは1万円以上です。フラット35では窓口で100万円以上、インターネットで10万円以上となっています。
繰り上げ返済を想定して住宅ローンを組むなら、コストと利便性もチェックポイントになるでしょう。
期間を短縮すると借り換え時に期間を延ばせない
繰り上げ返済で短縮した返済期間は、延ばせないことに注意が必要です。借り換えをした場合、ほとんどの金融機関が借り換え前の返済期間のままになります。期間短縮型の繰り上げ返済後に借り換えをすると、短縮した返済期間が新しいローンの期間になるというわけです。借り換えで返済額を減らしたくても、返済期間を延ばせません。繰り上げ返済には、こうしたリスクもあると頭に入れておきましょう。
繰り上げ返済より借り換えが有利な場合も
繰り上げ返済を検討する際、場合によっては借り換えが有利なこともあります。借り換えとは、現在の住宅ローンを一括返済して新しく組むことです。借り換えは手元の資金が無くてもできますが、費用がかかります。一般的に住宅ローンの借り換えは、残債が1,000万円以上で返済期間は10年以上あり、借り換え後の金利差が1%以上ならば、メリットがあるといわれています。繰り上げ返済と借り換えのどちらが有利かはケースバイケースなので、試算して比較してみましょう。
マイホームを取得するなら西日本シティ銀行の住宅ローンがおすすめ
これからマイホームを取得する人は、西日本シティ銀行の住宅ローンがおすすめです。1万円から繰り上げ返済ができて、インターネットからの手続きなら手数料はかかりません。11疾病保障の団体信用生命保険も利用できるので、病気になっても安心です。
まとめ
繰り上げ返済には利息を軽減し、総返済額を抑える効果があります。早い時期からコツコツ実行すると効果的です。メリットがある反面、住宅ローン控除との両立や家計に負荷をかけないようにするなどの注意点もあります。トータルバランスを考え、上手に繰り上げ返済を活用していきましょう。
- 住宅ローン
松田聡子
群馬FP事務所代表、CFP®、証券外務員二種、DCアドバイザー
国内生保で法人コンサルティング営業を経て2007年に独立系FPとして開業。企業型確定拠出年金の講師、個人向け相談全般に従事。現在は法人向けには確定拠出年金の導入コンサル、個人向けにはiDeCoやNISAでの資産運用や確定拠出年金を有効活用したライフプランニング、リタイアメントプランニングを行っている。