そろそろちゃんと片付けを教えなくてはと思うのは、お子さんが2~3歳になる頃でしょうか。でも、ハタと不安になることはありませんか?親である自分自身が片付けが苦手なのに、ちゃんと教えられるかしらと。
今回お届けするテーマは、これまで福岡県内の幼稚園や保育園、小学校など延べ60回以上講演し、大変好評をいただいています。以下では、その講演で反響が多い部分を中心にご紹介します。
子どもが大きくなった今だから言えること「そんなに心配しなくても大丈夫!」
私は、家庭と仕事の両立に悩みながら何とか2人の子どもを育ててきました。
今振り返って思うことは「何もあんなに叱らなくてもよかったのに」という小さな後悔と、そんなに心配しなくても、子どもは案外ちゃんと大人になるものだということ。
無意識に親を観察し、真似をし、しっかりと自立していくということです。
子どもが片付けをしない?感情論や収納テクニックでは解決が困難
せっかくかわいいかごや引き出しを使って、おもちゃの収納を作っても、子供はなかなか親が思うように片付けをしてくれません。
私も実は、「片付けなさい!」「捨てるよ!」と叱ったり怒ったりして子育てをしていた時期がありました。でもそれは、自分のイライラを感情的にぶつけるだけの行為。
そこから子供が学ぶことは、ママが怒るから仕方なく目の前のものをどこかに押し込んで隠すことだったり、片付けはイヤなこと、面倒なことだ、という負の感情です。
何事にも原理原則があるように 片付けにもちゃんと基本があることを、残念ながら私たちは学校や家庭で学ぶことがないまま大人になりました。
そして、親になった時に自分が子供の時に親に言われたように、「片付けなさい」と叱ってやらせようとします。
歴史は繰り返されていることを、多くのご家庭で見てきました。
片付けは、捨てることが目的ではなく、面倒なことでもないのです。
片付けは、生活を便利にし、安全で豊かな生活のための土台なのです。
子どもに「片付けなさい」という目的は?
物が増えたから、とそのたびに収納かごや収納グッズを買う。こういった「足し算思考」になると、あっという間に住まいは物に占拠されます。
地震や火事などの時に、住まいが物に占拠されていると、避難経路を塞がれたり物の下敷きになったりと最も危険な場所になってしまいます。
今一度、もしもの時に子供を抱え安全に避難できるレイアウトになっているか、高い所からモノが落ちてこないか、家具が倒れてこないか、そして日常的にモノが多すぎて家庭内事故などの危険がないか、確認をしてみませんか?
そして、「何のために人は片付けをしなければならないの」と子どもに聞かれたらまずは、「安心、安全、清潔、そして便利に暮らすため」と言えるようになって欲しいと思います。
暮らしを「安心、安全、清潔、そして便利」にするための手順
少し専門的な理論になりますが、とても大事な事なのでよくお読みください。
子どもに片付けを教える前に知っていただきたいことがあります。
下の図は、暮らしを「安心、安全、清潔、そして便利」にするための手順を表しています。
一番下の土台になっているのは整理です。
次に収納、片付けは下から3番目の位置、お掃除が一番上になっています。
片付けは3番目の位置なので、子供にまず教えることは、片付けではなく「整理」といえます。この考え方の順番が違うと、片付けや収納テクニックに落ち入り混乱のもとになります。
整理とは区別して取り除くこと
土台となる整理について詳しくお伝えするために、「どんどん増えていく子どもの絵本の収納」を例に挙げて考えてみましょう。
「足し算思考」は回り道
本が増えるたびに本棚を増やすと一時的に片付きますがまもなくいっぱいになり、また本棚を買い足していくと10年後20年後は部屋中が本棚になることでしょう。
これは収納を先に考える足し算思考と言え、「安心、安全、清潔、そして便利」な生活にうまく近付くことができません。
「引き算思考」が近道
広辞苑によると、整理とは「必要か必要でないか区別をし、不必要なものを取り除くこと」とあります。絵本の整理を例を挙げましょう。
まず、絵本を全部床の上などに出して、今読んでいる絵本は右へ、もうほとんど読まなくなった0歳の絵本などは左へ、区別します。
次に 今読んでいる絵本は元に戻し、もう読まなくなった絵本は更に分けます。
大切な思い出として別の場所に保管する
リサイクルショップやメルカリで売る
誰かにあげる
それでも残った絵本は、資源ごみに出す
どの方法でも取り除くという整理がここでされました。つまり、整理というのは引き算の概念なのです。
引き算は必ずお子さんと一緒に
物が増えたら、定期的にこの整理を必ずお子さんと一緒におこなってください。
絵本に限らず、洋服やおもちゃや、作品や工作などもすべてこの方法で整理をします。
2歳3歳でまだ小さいから、と親御さんだけでやってしまうのは、子どもに整理を教える絶好のチャンスを失うことになるので、とてももったいないことです。
物が増えたな、なんだか掃除がしにくい、片付けが大変になって来た、など感じたら整理のタイミングです。
引き算のコツは「今大好きなもの」はどれ?と考えること
「今日は要る・要らないをしようか」とニコニコと声をかけてください。捨てさせようと意気込んで怖い顔をしないこと、これがポイントです。
捨てる物や要らないものを選ばせようとすると、全部要る!ということになり区別が一向に進みません。
「今大好きなのはどれとどれ?」
「ここにいくつ入るかな。一番好きなものからこの棚に並べてみよう」というように、ゲーム感覚で、「今」を基準に選んでいくことが自然と身につくように教えていきましょう。
そのスペースに入らないものはどうしようか、とそれも子どもに聞いてみましょう。
ポイントは簡単な選択肢、例えば1群と2群に分ける、大事に保管をする、誰かにあげる、売りに行く、などの方法をわかりやすく示してあげると、親が思っている以上に子どもは判断できます。もちろん最初から上手く行きませんが、ひとつでも二つでも、自分で判断したら、それを尊重しましょう。
整理の力はスゴイ
整理によって以下の力が養われます。
空間を認知する力
限られたスペースや空間に、どのくらいの大きさの物を、どのくらいの数収納できるのかを考えられるようになる。
創造する力
物がなくても工夫して新たな物を生み出せるようになる。
見通す力
おもちゃが床に出しっぱなしだと 誰かが踏んだり転んでしてケガをするかもしれない。小さな妹や弟、ペットが間違って食べたりするかもしれない。こういった「未来に起こる危険」を予測できるようになる。
また、なぜ片付けをしなければならないかを考えたり、その根拠を理解したり、自分だけではない他の誰かに対する思いやりの気持ちがは育まれたりもします。
こういった自立心は、日頃家庭生活での整理や片付けを通して自然に身に付けることができると言われています。
収納は「物のおうち作り」
収納は整理の次のステップで、「必要なすべての物に場所をあたえること」です。
つまり、お人形にもミニカーにも、ズボンやくつしたにも、帰るべきおうちが必要なんだよ、ということで、子どもスペースにはすでに、かごや棚などを利用して皆さんのお宅にはちゃんと用意されていることでしょう。
収納場所が明確に決まっていれば 2歳でも3歳でも元に戻す「片付け」ができます。
もちろん、毎回ちゃんと片付けるかどうかは気分次第のこともあるでしょう。
しかし、収納場所が決まっていないと片付けを教えることはできないのです。
子どもが片付けやすい収納のポイント
1. 出し並べ収納でワンアクションの簡単片付け
文字通り、出して並べる収納のことを「出し並べ収納」といいます。
幼児は、引き出しや扉の中から出すことはできても、しまうことはまだ苦手なのです。今よく遊んでいるものは出し並べ収納にして、ワンアクションで「片付け」ができるようにしましょう。開けたり閉めたりするアクション数が増えるほど片付けは面倒になります。
⒉ 棚とかごの選び方
棚があれば、床に並べるよりも空間を上下に分けて使えるので、とても便利です。 成長に合わせて棚の位置を変えたり増やしたりできる商品を一つ用意して置くと長く使えて便利です。
かごはさまざまなかわいいものが市販されているので、皆さんのお宅でも積み木やブロック、プラレールなど分類して便利に使っていると思います。
ポイントは、棚とかごの間に手が入る程度の空間を残すことです。
その空間があるだけで、中身が見えます。また、その空間に手を入れて一個だけ取り出したり、しまい忘れたおもちゃをポイと放り込むことができます。
⒊ 観察とひらめき
一緒に遊んだり片付けを手伝ったりしながら、子ども目線で観察するのも大切です。
入れ物が小さすぎないか、重すぎないか、動線が長くはないか、必要以上に物を与えすぎていないか、最近よく遊んでいる物やそうでもない物など、子供のくせやこだわりに気付くとそれに合わせた収納法がひらめきます。
「片付け」は繰り返し繰り返し教える!完璧な子どもを求めない
あなたは子どもの頃はどうだったでしょうか。「片付けなさい」と言われて「はい!」とできていたでしょうか。
できたこともあれば後で後でと何とか逃れ、結局やらずじまいだったこともあったでしょう。
今も昔も同じです。残念ながら子どもは親の思い通りにならないのが常です。それが当たり前です。せっかくすべての物に「おうち」を作って、褒められるくらいのステキな収納を施したとしてもです。
3回に1回でもちゃんとできたら思いっきりほめましょう。「ブロックを踏んでパパが足をケガしたら痛いよね。だからそろそろ一回片付けようか」など、片付ける理由を伝えて促して行きましょう。
2~3歳のイヤイヤ期がきたら、順調に成長している証拠だと喜んで、繰り返し繰り返し、元に戻すことを教えていきましょう。
物はどんどん入れ替わっていく
子どもの成長は早いので、それに合わせてどんどん新しい物が必要になってきます。
ほんの少し前は90cmのお洋服だったのに、すぐ小さくなって一回り大きいサイズに買い替えていくように、おもちゃや絵本やパズルも少しずつ難易度が高い物に買い替えていくことになります。
それはとても嬉しいことです。
「まだ新しいから」とか「まだ遊ぶかもしれないから」と整理を先延ばしにしていると、入れ替わりがされないままになるので、ありとあらゆるものが出しっぱなしになり片付けが大変になります。
たとえば、3月と8月の第4日曜日は整理の日、と決めてしまって、我が家のルールとして定着させていきましょう。
まとめ: 片付けの向こう側にある未来
育てたように子供は育つ、と昔からよく言われることですが、同じように育てたつもりでも個性や持って生まれた気質も異なります。
やればやるほど反抗する子もいれば、のんびりとゆっくり片付けるのが好きな子もいます。
だからこそ、「要る要らないをしようか」と母はいつも整理を教えてくれたっけ、と大人になった時にふと思い出す原風景を子どもに残してください。
きっとあなたと同じことを今度は親となったお子さんが伝えていくことでしょう。
片付けなさいと言う前に。
- 子育て
里舘 友子
整理収納コンサルタント、住宅収納スペシャリスト、暮らし美人化計画ハウスキーピングSan代表
福岡市在住。2008年起業、延べ4,000軒以上の家庭で、片付けの本質的な問題解決提案や行動計画を手がける。 豊富な経験とノウハウ、理論の融合で、単に捨てるだけではないスキル移譲が得意。学校や公共団体、住宅系企業主催イベント等多数講演。著書に「私は整理収納アドバイザー®」(ハウジングエージェンシー) ■ http://house-keep.info/