2025年問題とは、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となることで社会に大きな変化をもたらす問題のことです。社会保障費の負担増や労働力不足など、私たちの生活にさまざまな影響を与えると予想されています。この記事では、2025年問題の概要と社会への影響を解説するとともに、個人でできる対策について詳しく説明します。
2025年問題とは?
「2025年問題」とは、団塊の世代(1947~1949年生まれ)が75歳以上の後期高齢者となることで起こる、社会保障費の負担増や働き手不足などの問題のことを指します。
まずは、年齢別の人口について確認しておきましょう。
2025年の日本の人口構造
下記の2つの資料は、国立社会保障・人口問題研究所が公表している2000年と2025年の人口ピラミッドです。年少人口(緑:0~14歳)、生産年齢人口(青:15~64歳)、老年人口(橙・赤:65歳~)で区分されています。
人口ピラミッド(2000年)
現在の75歳以上が50歳以上であった約20年前(2000年)の人口ピラミッドを見ると、当時は、生産年齢人口(青色)が多かったことがわかります。しかし、年少人口は少ないため、この時期から将来の労働力不足が懸念されていました。
人口ピラミッド(2025年)
25年後の2025年には団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となるとともに、団塊ジュニア(1971年~1974年生まれ)とよばれる世代が50歳以上となります。40歳以下の生産年齢人口(青色下部)が減っており、年少人口も増えているわけではありません。なお、団塊ジュニア世代が75歳以上の後期高齢者になることを、2040年問題といいます。
福岡県の人口
次に、「令和5年福岡県の人口と世帯年報(令和4年10月~5年9月)」で、福岡県の人口についても確認しておきましょう。
全国で見ると、福岡県の人口は第8位です。1年間に年少人口(0~14歳)は9,814人、生産年齢人口(15~64歳)は2,968人それぞれ減少している一方、老年人口(65歳以上)は1,862人増加しています。老年人口は25年連続増加しており、過去最高となっています。
国外からの転入者も多い福岡県ですが、ほかの自治体と同様に高齢化が進んでいる地域であるとわかります。
出典:福岡県「福岡県の人口と世帯年報(令和5年)」
2025年問題による影響
人口減少を原因とする2025年問題で、私たちにどのような影響があるのでしょうか。2025年になるとすぐに変化するわけではありませんが、少しずつ影響が現れる可能性があります。一方で、すでに影響が出始めているケースもあり、早急の対策が求められます。
日常生活に必要なサービスの減少
日常生活に必要なさまざまなサービスが影響を受け、生活者の利便性が低下する可能性があります。
担い手がいなくなり地域の小売店や飲食店が少なくなれば、生活に必要なモノが買えなくなったり、外食する機会が減ったりします。また、医師不足が深刻化すれば、待ち時間が長くなったり、近くで診察を受けられなくなったりするでしょう。
自治体のサービス提供能力の低下
自治体の税収が減少し、十分な行政サービス体制を構築できなくなる可能性があります。
担当者不足で自治体窓口での対応に時間がかかったり、道路や橋などのインフラ整備が滞ったりして、住民生活に影響が出るでしょう。またゴミ収集の回数や時間が見直されるなど、これまでのサービス水準から低下する恐れがあります。
公共交通機関の利便性低下
地方の公共交通機関の利用者が減少し、運行本数の減少や路線の廃止が進む可能性があります。
人口減少の著しい地方の鉄道路線やバス路線では利用者の減少により採算が取れなくなり、運行本数が減少したり、最悪の場合は路線が廃止されたりする可能性があります。自家用車を持たない世帯は、生活圏が極端に限定されてしまうかもしれません。
空き家・空き店舗などの増加
空き家や空き店舗、工場跡地、耕作放棄地などが増加し、地域の生活環境や景観が悪化する可能性があります。
空き家が増えると防犯上の不安や衛生面での問題が生じ、近隣住民の生活に悪影響を及ぼします。また、空き店舗の増加により、商店街の活気がなくなり、地域の利便性が低下するでしょう。工場跡地や耕作放棄地が増えることで、景観が悪化したり害虫が発生したりする恐れもあります。
地域のつながりと共助機能の弱体化
地域コミュニティの活力が低下し、住民同士のつながりや助け合いの機能が弱まる可能性があります。
近所付き合いが希薄になり、高齢者や子どもの見守りや支援などの地域の助け合い活動が衰退します。また、地域一丸となった清掃活動やコミュニティ活動を維持するのが難しくなり、防犯や防災機能の低下で、地域の安全安心が脅かされる恐れがあります。
社会保険料の値上がりによる負担増
年金保険料や健康保険料が値上がりし、現役世代の負担が増加する一方、将来の年金額や給付額が減少することが予想されます。
高齢者を支える年金や健康保険などの社会保障費が増えることで、現役世代の一人あたりの負担が増大します。社会保障の財源悪化により将来の年金額や給付額の減少が見込まれ、老後の生活設計に影響を与えるでしょう。
2025年問題による業界別の影響
次に、2025年問題を業界別に見ておきましょう。業界で活躍している人だけでなく、その業界と関係のある人や商品・サービスの提供を受けている人まで影響します。
医療業界
高齢者人口の増加により、医療需要がますます増えていきます。しかし、医師の高齢化や地域偏在による医師不足により、一人ひとりに十分な医療サービスを提供するのが難しくなる恐れがあります。
医療不足や医療需要の増加に対応できなければ、国民の健康や生命に影響を与える可能性があるため、医療従事者の確保や医療体制の維持などが求められています。
介護業界
高齢化により、介護士のサポートを必要とする人が増えていきます。増加する要介護者に対応できる人材が不足し、介護サービスの提供が難しくなる可能性があるのです。
介護報酬の低さや労働環境の厳しさなどから介護職離れが進めば、介護サービスの質の低下が懸念されます。介護者の人材確保のために、労働環境の整備が求められています。
物流業界
慢性的な労働力不足に加え、トラックドライバーなどの物流業界の中心を担う人材が不足しています。
物流業界では2024年4月から、トラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制が適用されました。人材不足によりドライバー一人ひとりが担う負担を重くせざるを得ない状況で、再配達などの付加サービスがさらに負担を大きくしているといわれています。再配達の手間を削減するために、置き配(玄関に配達物を置いておく方法)が活用されていますが、さらなる人材確保と工夫が求められています。
小売業界
消費者の減少と購買力の低下が進み、小売業界の売上が減少する可能性があります。
少子高齢化により消費者の絶対数が減少していますが、高齢者の増加により消費の中心となる中年層の割合が低下しています。年金世帯の割合が増えれば購買力は低下するため、小売業界の経営を圧迫することになるでしょう。
百貨店では長く集約化が進んでいる一方、小売業界全体では多言語化対応や免税手続きなど、インバウンドによる売上強化に取り組んでいます。
建設業界
建設業界では労働力不足が深刻化する一方、インフラ整備の需要が拡大しています。
建設業界も、2024年から時間外労働の上限規制が適用されました。物流業界の労働時間規制と相まって、建設プロジェクトの進行に影響を与える可能性があります。具体的には、工事の進捗ペースや資材の搬入タイミングが変化し、プロジェクトの工期延長やコスト増加につながるおそれがあるのです。
また、高度成長期以降に整備された道路橋やトンネルなどについて、2040年までに建築後50年以上となる施設の割合が加速度的に増えます。国土交通省によると、橋長2m以上の橋は約73万あり、そのうち約75%が2040年3月までに建設後50年以上経過するとしています。
建設業界では、労働不足やエネルギーや資材価格の高騰のなかで、このようなインフラ整備に対応しなければなりません。
出典:国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来」
2025年問題で個人でできる対策
2025年問題は社会全体に影響を及ぼしますが、個人でも対策を講じることが可能です。この章では、2025年問題に対して、個人ができる具体的な準備や対応策を解説します。
ライフプランを見直す
2025年問題の対策として、ライフプランを見直してみましょう。
団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になることで、社会に大きな変化をもたらします。社会保障への影響として、年金制度の持続可能性への懸念から年金支給開始年齢の引き上げが検討される可能性があります。
また、高齢者人口の増加により社会保障費が増え、現役世代の負担が増大することが予想されるでしょう。医療・介護サービスにおいては需要の急増により、サービスの質や利用のしやすさに変化が生じる可能性があります。
このような2025年問題による社会変化に対応するため、ライフプランを見直す必要があります。
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キャリアプランの見直し
まず、長期的なキャリアプランの見直しです。年金支給開始年齢の引き上げの可能性を踏まえ、65歳以降も働き続けることを視野に入れることが重要です。勤め先の継続雇用の可能性を探ることや、新たなスキルの習得を通じて異なる分野での就労を検討する必要もあるでしょう。
資金計画の見直し
次に、資金計画の見直しです。社会保障費負担の増加により、近い将来の手取額が減るだけでなく、将来の年金受給額が減少する可能性も考えられます。自助努力による資産形成を強化し、医療費や介護費用の負担が増えるケースに備える必要があります。
収入源を確保し貯蓄する
社会保険料の負担増大により手取り額が減るため、安定した収入源を確保しなければなりません。支払っている年金保険料より年金受給額が少ないと、老後の資金計画に大きな影響を与えます。手取り額が減少する一方で、将来の備えをしなければなりません。
また、解消されない人材不足に対応するため、外国人労働者の積極的な雇用やAIによる問い合わせ対応、ファミレスの配膳ロボット、倉庫内の搬送ロボットなどが見られます。このような業界全体の対応は雇用環境を変化させるため、個人にとっては収入の不安定化につながる恐れがあります。
このような状況に対応するために、副業により収入を下支えしたり、新たなスキルを身につけてキャリアアップしたりする必要があります。収入源の確保を目指し、余剰資金で資産形成しましょう。
健康的な生活を心がける
2025年問題は、医療や健康に関する面でも大きな影響をもたらします。高齢者人口が増えることで医療費の増加が見込まれ、医療費の窓口負担割合が見直される可能性もあるでしょう。また、医療需要の急増と医師不足により医療サービスを受けにくくなり、利便性が低下する恐れがあります。
これらの影響に対応するために、健康的な生活を心がけることが重要になります。
定期検診を受けることで、病気の早期発見・早期治療が可能です。また、適度な運動やバランスの取れた食事と十分な睡眠を心がけ、日々の生活習慣を見直すことで健康的なライフスタイルを確立できます。健康管理アプリを活用して日々の健康状態を把握しやすくしたり、趣味活動を通じてストレス発散したりして、メンタルヘルスも維持しましょう。
まとめ
2025年問題は、団塊の世代が75歳以上となることで生じる社会保障費の増大や労働力不足など、私たちの生活に大きな影響を与える問題です。この問題に対しては、社会全体での取り組みが必要ですが、個人レベルでの対策も重要です。
地域によって影響の度合いは異なりますが、影響を緩和してより安定した生活をするためにも早めに考えておくことが大切です。
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藤孝憲
CFP®・宅地建物取引士(未登録)・住宅ローンアドバイザー・証券外務員2種・DCプランナー2級・エクセルVBAエキスパートなど
2006年2月にファイナンシャルプランナー(FP)として独立、個人相談をはじめ、カルチャーセンター講師やFP資格講師・教材作成、サイト運営・執筆など、FPに関する業務に携わり15年以上経つ。商品販売をしない中立公正な立場で、相談者の夢や希望をお伺いし、ライフプランをもとにした住宅ローンや保険などの選び方や家計の見直しを得意とする。執筆でも、わかりやすく伝えることはもちろん、情報を精査し、消費者・生活者側の目線で書くことにこだわる。