福岡から世界へ ペーパー・スクリーン版画で潤いの時間を。版画家大場敬介氏インタビュー。

ペーパー・スクリーン版画とは


何枚もの和紙を使い、着色には油絵具など油性のインクを刷り重ねる版画。和紙を使うことで柔らかな質感が表現され、独特の絵肌の調子、色と色が重なる深い色合いと色鮮やかなグラデーションから、唯一無二の作品が生みだされます。

ここでは大場敬介氏のインタビュー記事とみなさんにお届けしたい4作品を編集部がセレクトしました。忙しい日々にほんのひと時、ココロとカラダの栄養補給としてペーパー・スクリーン版画の世界をお楽しみください。

大場敬介:ペーパー・スクリーン版画家
■Profile ペーパー・スクリーン版画の第一人者である大場正男氏の流れを継ぐ大場敬介氏。福岡県太宰府市在住。トルコ国アンカラ国立絵画彫塑美術館にて展示、製作実演。CWAJ PRINT SHOW 出品など受賞歴多数。講師としても活動中。

版画家大場敬介氏インタビュー

伺ったのは、緑豊かな山間に佇む『ギャラリー&カフェ風の木』

木製の扉を開くとコテージのような木の温かみに包まれるフロアと音質のいいジャズが私たちを迎えてくれました。カフェにはALTECの大きなスピーカーが壁の両サイドに配置され、ゆったりとしたソファとアール・ヌーヴォー調の照明が心地よく、その奥に大場さんのギャラリーがあります。

福岡で生まれた現代版画

――お父様の大場正男さんが第一人者とのことですがペーパー・スクリーン版画はどのように誕生したのですか?

父はテレビ局のディレクターをしていて、趣味で版画をしていました。仕事で世界的巨匠の一人とされる日本版画家の棟方志功氏のドキュメント番組を作る機会があり、それを機に二人の交流は深まりました。東京オリンピック(1964年)の頃、カラーテレビが普及し始めた時期に当時はモノクロが主流だったのですが、「今からの版画は色がついたものがいいだろう」と告げられたそうです。そこで父はガリ版に油絵の具を重ねる版画を考えたんです。それを賀状として作成したのがペーパー・スクリーン版画の始まりなんです。

絵に服を着せる感覚で額を作る

――敬介さんも小さいころから絵を描くのが好きだったとのことですね?

幼少期は絵を描くとこがとにかく好きで、山下清みたいにスケッチブックとクレヨン、鉛筆を持って毎日のように近くの太宰府天満宮へ絵を描きに行っていました。

ある時、父と行った美術館で絵画より入れてある額に魅せられてしまって、とにかく本場の額が観たくて、着の身着のままでフランスへ行きました。18歳でお金もなく、言葉もわからないままでしたが初めてのヨーロッパはおとぎの国のようで感動ばかりでフィレンツェ、スイス、スペインにも行き、たくさんの額を見て帰国したんです。そうしたら日本の額があまりにお粗末に感じてしまって、再び学びにフランスへ行きました。

2度目のフランスでスペインの画家と出会うのですが、彼が言ってくれた「人に服を選ぶように、絵に服を着せる感覚で額を勉強したらいい」という言葉がとても腑に落ち、その感覚はずっと変わらず、私の作品は今もそれぞれオリジナルの額を作って入れています。

滞在中にはパスタにはまり、イタリア料理店で修業をすることもありましたが、ダリ美術館やサクラダファミリア、ルーブル美術館を巡るうちにそれぞれの作品に刺激され「僕は何者になるんだ」と自分自身に問う日々がありアートの世界へ再びもどりペーパー・スクリーン版画を極めることにしました。

天然石の顔料と素材へのこだわり

――ペーパー・スクリーン版画の特徴の一つが色彩の美しさかと思いますがどのようにして描かれるのですか?

色を重ねるごとに色が入れ替わっていくのがペーパー・スクリーン版画ならではの技法です。そのためには顔料の選定もとても大切です。

1950年代から続く、世界中の画家や芸術家が集まるフィレンツェの老舗画材店「ZECCHI」でも色彩の勉強をしました。オーナーが日本贔屓だったこともあって通い詰めていろいろなことを教えてもらいました。「ZECCHI」ではいろんな芸術品に使う顔料や材料を取り扱っていて、天然石を原料にしたものや他では手に入らないような顔料もあるんです。

顔料はその日にすぐに買えるというものではなく、注文するとそこから調剤薬局のように顔料を砕いて調合するので日を改めて受け取るんです。私はさまざまな顔料と配合で約400種類の色を作ることができます。

日本独特の和紙を使用することで色の鮮やかさをより表現できるので、和紙は次の世代に残すことを考えて保存性がいい中性紙を使っています。

次の世代へ

――福岡だけでなく県外でもスクールをされているそうですね?

ペーパー・スクリーン版画の楽しさをたくさんの人に伝えていきたいと活動しています。要望があって大分や熊本なども訪れています。イタリアやスペインでみんな心よくいろんなことを教えてくれたように私もできる限り教えています。「ここまで達成しないと次は教えられない」などという出し惜しみはしません(笑)。

ただ「技術は教えられるけど、絵は、習っても、教えても、いけない」といっています。「自分の感性を大切にして、自立することが必要」僕はそれをイタリアやスペインで学びました。

――受講生は1500人を超えるそうですね。

個展を開く人や賞をもらう人も出ています。私も生徒さんたちのために展示会を開いたりしています。日本ではあまりないようですが、欧州では、作品の販売などはよく行われているので、生徒さんのバックアップができればと。たとえ趣味でも日本で生まれ育った現代版画「ペーパー・スクリーン版画」を次の世代にも残していきたいですね。

【ペーパースクリーン版画の世界】 

作品をゆっくりお楽しみください。
大場敬介さん:どう感じたかは、見る人それぞれの感性なので想像を広げてみてください。

SHICHIFUKUROU   Keisuke Oba ©

①「SHICHIFUKUROU」

七福神をモチーフに、デザインには3年を要した7羽のフクロウが並ぶ 作品。「のびのびと生きているヴェネツィアの人々が好きで、ヴェネツィアのゴンドラを宝船としてフクロウを乗せました」と大場敬介さん。

フクロウの色は虹の出る順番です。真ん中の緑に見えるフクロウは黄色に青を合わせて生まれた色です。薄いブルーが黄色にかかって緑、濃いブルーが黄色と重なって深緑、ピンクの上のブルーを重ねることで紫ができています。重なるごとに色が入れ替わっていくのはペーパー・スクリーン版画ならではの技法。その特徴を存分に楽しめ、幸運を呼び込んでくれそうな作品の一つです。

BreezeⅠ   Keisuke Oba ©

②「BreezeⅠ」

「過去・現在・未来  風に乗って向う先は・・。」

3つの太陽は 過去、現在、未来を意味しています。古代の船に乗った家族は風に向かって力を合わせて前進しています。大場敬介さんは目に見えないものを題材にするのが好きなのだそう。鳳凰が風に乗って遊泳しています。鳳凰のそばにはゼンマイが描かれています。古代の壁画には必ずと言っていいほどゼンマイが描かれていることにロマンを感じ、古代から今をつないでいるアイテムとして描かれています。背景の色合いは古代の壁画のイメージ。イタリアのポンペイ遺跡の壁画に残る印象的なワイン色や熊本県山鹿市のチブサン古墳の壁画などの色彩に通ずるものがあります。

Diva   Keisuke Oba©

③ 「Diva」

「歌姫・・・」

ラテン語で歌姫、主役という意味。東京オリンピック開催の時ということものあり制作した最新作です。的のようだったり、五輪のイメージだったり。中央に描かれているのはメダルでしょうか?抽象的な作品として実は縦でも横でも飾ることができます。ここで観ることはできませんが、レガントで和風モダンなイタリアの額縁が作品の魅力的をより引き立てていますので実物をぜひ画廊で。

The tree   Keisuke Oba©

④「The tree」

「終わりのない旅へ想いをのせて…」

中央の木は3本の矢を意味したものでもあります。力を合わせ頑張ろうという精神を描きました。種から水をやり、実りまでの時間がかかる木を成長の意味、生命の意味として前進する船に乗せました。左の大きな古代の矢は太陽より高く遥か彼方へ貫くような心の矢です。的はないので、心の矢は終わりのない旅へ想いをのせて貫いています。背景は大場敬介さんオリジナルの技法。サバ肌をイメージしたグラデーションと下の方にはシャンパンゴールド、シャンパンシルバーの線が引かれています。さらによくみると全体に渦巻きが入っています。渦巻きは永遠やパワーをイメージする模様としてもとても縁起のいいものだそう。右側には希望の旗がはためいています。「ときどき突拍子もない発想が湧いて作品にしてしまいます。笑」と大場さん。

ブルーライトを照らした写真 

自然の顔料で描いた作品はブルーライトを当てると輝きと共に絵が浮かび上がり新たな魅力を放ちます。

まとめ

初めてお会いしての取材でしたが、インタビューの中ではイタリア料理を学びたいと店主にお金の代わりに折鶴を渡したこと。それがとても好評で近所の小学校でも折紙を教えたこと。ある日著名人が通う有名な会員制のレストランに連れられ「私は何もできないが、毎日食べて自分の舌で覚えなさい」と店主に言われ、店に通い80種類のパスタをすべて食べたこと。自己防衛のため作務衣を着て日本武道家に間違われていたことなどなど。ワクワクする話が次々に博多弁で展開されます。出会う人に恵まれているようですが、大場敬介さんの学びたいまっすぐな意欲と駆け引きなしで相手の懐に飛び込む素直さが国籍を超えて人を引き寄せているのではないでしょうか。それは暖かかったり、楽しかったり、優しかったり、美しかったり大場さんの作品それぞれにも現れているように感じました。

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