相続における兄弟間のトラブルは、「争続」と呼ばれるほど深刻な問題に発展するケースが少なくありません。この記事では、遺産相続における親族間のトラブルを避けるために、遺産分割のルールや注意点について解説します。仲の良かった兄弟がいつまでも助け合える関係を維持できるよう、事前にしっかりと対策を行いましょう。
兄弟・姉妹間の遺産相続トラブル事例
遺産相続トラブルは、「誰が」「何を(どの財産を)」「どのくらい相続するのか」という、遺産の分割方法における不平等感により発生することがあります。遺産分割において、兄弟・姉妹間でトラブルが起こりやすい事例を4つ紹介します。
1.遺言によって特定の相続人に遺産が集中していた
誰に・何を承継してほしいかを生前に記す遺言は、遺族を想う故人の意思です。その意思は尊重されるべきであり、遺言があればその内容に従わざるを得ません。
しかし、「全ての遺産を長男に相続させる」といった内容の遺言をしていた場合、他の兄弟は遺産を受け取ることができず、不満からトラブルに発展する可能性があります。あるいは、相続人本人は了承していても、配偶者が納得しないといったケースも予想されます。
2.長男だからという理由で他の兄弟に遺産を譲らない
長男が親と同居し世話もしていた場合、「何もしなかった他の兄弟が遺産を主張するのは許せない」と思うのも無理はありません。特に昔は「家督制度」により、原則として全ての遺産を長男が単独で相続することが法律で決められていました。
しかし、家督制度は1947年(昭和22年)の民法改正によって廃止となり、その後は兄弟・姉妹にも平等に相続権が与えられています。他の兄弟にも相続権はあるため、お互いの主張からトラブルが発生する可能性は十分にあります。
3.誰がどの財産を取得するかで意見が割れた
遺産が簡単に分割できる現預金だけなら問題ありません。しかし、遺産には自宅や土地など簡単に分けられないものや、会社経営者であれば自社株なども含まれます。
例えば親の遺産に土地や建物が含まれる場合、土地を相続しても、結婚して遠方に住んでいる子どもにとっては管理のしにくい財産となってしまいます。一人が「土地や建物はいらないから現金をもらいたい」と主張すれば、兄弟間で意見が割れることもあるでしょう。
4.長い間疎遠の兄弟がいる
遺言がなく、遺産分割を話し合いで決める場合は、相続人全員の合意が必要になります。長い間疎遠になっている兄弟がいる場合、その人の同意がなければ遺産分割を決することはできません。
また、普段は疎遠なのに、親が死亡したと分かった途端に現れ、自分にも相続権があることを主張してくる場合もあります。そうしたケースでは遺産分割がうまく進まず、トラブルに発展する可能性が非常に高いです。
>>遺産相続手続きの期限はいつまで?手続き期限があるもの・ないものを確認しておこう
兄弟間に定められた法定相続分とその割合
遺産分割における不平等感をなくし、兄弟間の遺産相続トラブルを避けるためには、法定相続分を参考にする必要があります。ここでは法定相続分とその割合について解説します。
法定相続分とは?
兄弟・姉妹が平等に遺産を相続できるように、家督制度の廃止とともに定められたのが「法定相続分」です。民法900条にはその割合について、以下のように規定されています。
相続人の組み合わせ | 配偶者 | 子ども | 直系尊属 | 兄弟姉妹 |
配偶者のみ | 100% |
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配偶者+子ども | 1/2 | 1/2を人数で分ける |
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子どものみ |
| 100%を人数で分ける |
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配偶者+直系尊属 | 2/3 |
| 1/3を人数で分ける |
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直系尊属のみ |
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| 100%を人数で分ける |
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配偶者+兄弟姉妹 | 3/4 |
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| 1/4を人数で分ける |
兄弟姉妹のみ |
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| 100%を人数で分ける |
相続人が配偶者と子どもの場合は、1/2を配偶者が相続し、残りの1/2を子どもで分配します。相続人が子どものみの場合は、全部を子どもで等分に分配します。
法定相続分はあくまでも目安
法律で定められているからといって、必ずしもこの割合で分割しなければいけないという訳ではありません。法定相続分はあくまでも目安であり、遺言があれば遺言が優先され、遺言がなければ相続人全員の意向で自由に遺産分割を決めることができます。
法定相続人とは?
法定相続人には順位がある
民法では、遺産相続の権利が与えられる人を「法定相続人」として定めています。法定相続人には順位があり、上に述べた法定相続分も順位が高いほど割合が高くなっています。常に相続人である配偶者以外の法定相続人の順位は以下の通りです。
1. 直系卑属(子ども・孫)
2. 直系尊属(父母・祖父母)
3. 兄弟・姉妹
法定相続人の人数によって相続税の控除額が決まる
相続税の申告を行う際は、法定相続人の人数によって、遺産にかかる基礎控除額が計算されます。
● 遺産にかかる基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
よって、法定相続人の人数が多ければ多いほど、課税される遺産から差し引かれる控除額が多くなり、相続税の負担は軽くなります。
遺産分割の3つの方法と遺産分割協議手続き
兄弟間で遺産相続トラブルを発生させないためには、その割合もさることながら、「何を(どの遺産を)相続するか?」も重要なポイントとなります。ここでは遺産分割の3つの方法と、遺産分割協議の手続きについて解説します。
遺産分割の3つの方法
遺産を分割するには、以下の3つの方法があります。遺産の種類や相続人の人数に応じていずれかの方法で分割を行います。
現物分割
それぞれの遺産の現物を、特定の相続人が相続する方法です。例えば、実家の土地と建物は配偶者である母親が、現預金は長男が、株式は次男が相続するといった形です。それぞれの相続人の都合に合わせ、納得した上で相続できるため、最も多く利用されている方法です。
換価分割
不動産など物理的に分割が難しい遺産について、売却し現金に換えた上で分割して相続する方法です。例えば誰も住まなくなった自宅の土地・建物のように、用途はなく売却しても差し支えのない遺産に適しています。
代償分割
現物を相続した特定の相続人が、他の相続人に対して法定相続分を現金で支払う方法です。現物分割では明らかな金額差が生じてしまい、相続人間で不平等となってしまう可能性がある場合に利用します。
遺産分割協議とは?
円満に解決するための話し合いのこと
法定相続分で割合が決まっていても、遺産の種類によってはその割合通りに分割できるとは限りません。そんな中、相続人間の話し合いによって遺産相続の内容を自由に決められる手続きが遺産分割協議です。遺産分割協議は遺言があった場合でも行うことが可能です。
期限の定めはないが、早めの対応が必要
遺産分割協議には期限の定めはありません。しかし、相続放棄の手続きは相続発生から3か月以内、相続税の申告・納税は相続発生から10か月以内と期限が定められています。そのため、その後の手続きを円滑に進めるためには、早めの分割協議が必要になります。
遺産分割協議の手続きの流れ
遺産分割協議は、以下の手順に沿って行います。
1. 相続人の調査(誰が相続人にあたるか特定する)
2. 相続財産の調査(どのような相続財産があるか確定する)
3. 遺産分割協議(どのように分割するか相続人全員で話し合う)
4. 遺産分割協議書の作成(協議内容を文章にまとめ、相続人全員の署名押印を行う)
なお、ここでいう話し合いは対面である必要はありません。遠方に居住している場合は、メールや手紙でも可能です。
遺産分割協議で合意に至らない場合は弁護士に相談
遺産分割協議で合意に至らなかった場合は、家庭裁判所で遺産分割調停となります。それでも合意に至らない場合は、遺産分割審判に移行します。最終的には裁判官により遺産分割が決定されるため、不利益が生じる可能性があります。そうならないためにも、遺産分割協議で揉めた時点で弁護士に相談しましょう。
遺産相続トラブルを防ぐための対策
最後に、遺産相続における兄弟・姉妹間のトラブルを発生させないために、相続人(兄弟・姉妹)と被相続人(親)がそれぞれ事前に行っておくべき対策について解説します。相続によって家族がバラバラにならないように準備しておきましょう。
【相続人の対策①】将来について兄弟・姉妹間で話し合う
親の介護を他の兄弟任せにしない
親が介護状態になった際に、誰が親の世話をするのかを事前に話し合いましょう。親の介護を担った兄弟が、相続発生時に多くの遺産を主張するのは当然に予想できます。遠方に住んでいるから、嫁いでいるからといって他の兄弟任せにせず、お互いに協力し合える状態にしておきましょう。
誰が何を承継したいのか意向を把握しておく
例えば親の所有する住居に長男家族が住んでいれば、長男が住居を相続するのが妥当です。また、親の会社を次男が承継する場合は、次男が自社株を承継すべきです。この財産は誰が継ぐのが良いのか、親も含めて事前に話し合っておきましょう。
【相続人の対策②】正確な知識を持つ
兄弟・姉妹間での争いを防ぐためには、相続に関する正確な知識を持っておくことが重要です。法定相続人や法定相続分の定義、遺産相続手続きの期限など、正しい知識があればスムーズな分割協議を行うことが可能です。
例えば半血の兄弟(前妻の子ども)にも相続権があるという事実を事前に知っていれば、無益な争いをすることなく分割協議を進められます。トラブルの発生が予想できそうな事態には、事前に知識を備えておきましょう。
【相続人の対策③】専門家に相談する
相続はお互いの利権が絡む複雑な問題に発展することもあるため、不安がある場合は専門家に相談しましょう。例えば、兄弟間の遺産分割について疑問が生じたとき、西日本シティ銀行の「遺産整理業務」を利用すると、適切なアドバイスが受けられます。プロのサポートを活用しながら、円満な遺産相続を目指しましょう。
\気軽に相談できる場所があります/
【被相続人の対策①】遺言書を作成する
遺産の割合や内容が相続トラブルの原因であれば、遺言書で決めておくことが最も有効です。例えば、「自宅の土地・建物は介護をしてくれた長男、株は会社を継いでくれる次男」と遺言書にハッキリ書いてあれば、相続人が揉める可能性は低くなります。
遺留分には注意する
遺言が法定相続分を一切無視した内容であった場合でも、遺留分を侵害していない限りは有効です。逆にいえば、遺言が遺留分を侵害した内容であればトラブルの火種となってしまいますので、十分に注意しましょう。
「遺言信託業務」なら遺言書作成から執行までサポートが受けられる
西日本シティ銀行では、遺言に関する各種相談、遺言書の作成助言や保管、遺言の執行をトータルサポートする「遺言信託業務」を提供しています。疑問の解決や面倒な手続きを一括して引き受けてもらえるため、「遺言って何だか難しそう」と考えている人はぜひ活用をおすすめします。
>>遺言信託はどんな仕組み?手続きの流れやメリット・デメリットを総まとめ
【被相続人の対策②】自身の財産や相続人について把握しておく
自身の財産を把握し、家族信託を活用する
死亡した後に、故人の財産の状況を家族が調査するのは非常に困難で時間がかかります。自身が元気なうちに財産目録などを作成し、財産の管理をしておきましょう。
また、将来の認知症や介護状態になるリスクも考慮し、家族信託を活用して自身の資産管理を任せる方法もあります。
誰が相続人になるかを把握する
例えば離婚経験がある人は、前妻との間の子も相続人になります。死後にトラブルに発展しないように、誰が相続人になり得るかを把握しておきましょう。
西日本シティ銀行では、相続人を確定するために必要な戸籍の収集を、相続人や被相続人に代わって行う「相続人確定サービス」が利用できます。相続人を特定する作業や戸籍を取りに行く手間が省けるため、相続の準備がスムーズになるでしょう。
【被相続人の対策③】生命保険を活用する
生命保険は相続人固有の財産
生命保険の死亡保険金は相続人の固有の財産となるため、遺産分割の対象にはならず、受取人が単独で受け取ることができます。つまり生命保険を活用すれば、渡したい人に無条件で遺産を渡すことができます。
代償分割や相続税対策として有効
代償分割では、遺産を相続した特定の相続人が、他の相続人に法定相続分の現金を支払います。このとき、遺産を相続する人を受取人として生命保険に加入していれば、死亡保険金によって代償金を確保できます。
また、資産の多くが不動産などの場合、相続税を支払うための現金の工面が困難です。生命保険に加入することで、相続税の納税資金を死亡保険金として確保できます。
生命保険を活用した相続や贈与の相談は「NCB相続プラザ」へ
西日本シティ銀行では、生命保険を活用した相続対策や生前贈与対策の相談ができる「NCB相続プラザ」を開設しています。知識と経験が豊富な相続のプロが、悩み解決のお手伝いを行ってくれる心強いサービスですので、ぜひ活用してください。
\相続対策をプロが手厚くサポート/
まとめ
「ウチは兄弟仲が良いから大丈夫」と思っていても、いざ相続が発生すると、遺産分割の不平等感によってトラブルが起こるケースは非常に多いです。そうならないためにも、十分な知識を身に付け、しっかりと事前の対策を進めておきましょう。また、個人での手続きが難しい場合は、必ず身近な専門家に相談するのがおすすめです。
- 相続
世良 真貴男
相続診断士、住宅ローンアドバイザー、2級ファイナンシャルプランニング技能士
大手小売業の経営コンサルティングを経て、ファイナンシャルプランナーへ転身。 年間200組以上を担当し、家計や保険、住宅ローン、相続や資産運用など、顧客の資産を最善化するカウンセリングを行っている。