インタビュー

コロナ禍で事業転換!エンタメ事業から出張手洗い洗車事業へかける想い。|フレネル 池松拓哉さん

By 寺尾えりか

|
2021.06.08
フレネル

人は「十人十色」と言われるように、起業のかたちも人それぞれ。「MY FOUNDING STORY」シリーズでは、さまざまな企業の創業ストーリーを紐解き、これから起業しようとしている方々の参考や励みにしてもらいたいと考えています。

「エンタメ業界を盛り上げたい」との想いから、2018年に合同会社フレネルを立ち上げた池松さん。アーティストのエージェントやイベントの企画運営を行う中、新型コロナウイルスの流行が池松さんを襲います。イベントはすべて中止。エンタメビジネス中心だったフレネルは、仕事がゼロに近い状態に。しばらくは何とか立て直そうとエンタメにしがみついていたという池松さんですが、2021年2月に完全手洗い定額制出張洗車サービス『CALUXE(カラクス)』を立ち上げました。起業された時の想いや、思い切った事業転換を行った理由、池松さんの“これまで”と“これから”に迫ります。

フレネル池松

■プロフィール
合同会社フレネル
代表CEO 池松拓哉さん

1979年、鹿児島県生まれ。音楽・芸能業界でプロデュースやマネジメント、プロモーション、 営業職を経験する中で全国を巡った結果、 2016年3月に1番住み心地の良かった福岡に家族と共に移住。福岡の会社にてコワーキングスペースのマネジメントを担当したのち、2018年に合同会社フレネルを設立。現在、自らをARAIST(洗う人)と名乗り、出張手洗い洗車業務に取り組んでいる。

洗車で終わらない、ラグジュアリーなサービス

――まずは、現在の事業内容について簡単に教えていただけますか。

池松:完全手洗い定額制出張洗車サービス「CALUXE」を2021年2月からスタートさせました。立ち会い不要で、ご希望の場所にうかがって洗車を行います。回数に応じた月額制のサービスなので、毎月お客様の車に対峙することになります。だからこそ、お車の変化にも気づきやすくなります。単なる洗車サービスではなく、お客様の車専属のコンシェルジュだと思って取り組んでいます。

洗車

――「洗車をLuxuryに、暮らしに潤いを」というコンセプトで取り組んでいらっしゃるんですよね。

池松:そうなんです。仕事や家事に追われていたりすると、どうしても洗車って後回しにしてしまいがちですよね。車が汚れていると、心も乱されやすくなるように思います。お部屋を掃除するのと同じように、車もキレイに保つことで、心の健康にも繋がると考え、ひとときでも「暮らしに潤い」をお届けできるよう心を込めて洗車しています。「CALUXE」の場合は、立会いや鍵のお預かりが不要なほか、使用する水もこちらで持ち込みます。支払いもキャッシュレス対応、完了報告は写真を添えてメールで行っています。コロナ時代に対応するだけでなく、共働きで忙しいご家族や、多忙な経営者層などのニーズに応えるような仕組みをとっています。また、約5〜6リットルというごく少量の水と植物成分配合で有害物質を含まない溶剤を使用し、環境にも配慮しています。

道具一式

新型コロナの流行が、事業転換のきっかけに

――起業されたのは2018年とのことですが、「CALUXE」を立ち上げる前はどういった事業を展開されていたのでしょうか。

池松:学生時代からバンド活動をしていて、自分自身歌手になりたいと思っていました。そのうち、上には上がいるという現実を知ったんですよね。でもなんとかエンタメ業界に関わりたいと思い、20代のころからずっと裏方として音楽・芸能業界に関わってきました。そして、2018年にアーティストを輝かせるような事業を行う会社を立ち上げました。

イベント

▲創業当時のイベント

――現在の洗車とはまったく違う内容ですね。

池松:そうなんです。主に取り組んでいたのが、アーティストエージェント、イベントの企画運営やマネジメントなどのエンタメ系。今思えば不純な動機かもしれませんが、娘たちに「かっこいいおやじ」だって思われたいっていうのもあって、ずっとエンタメにこだわっていたかもしれません。(笑)。

――洗車事業に切り替えたのはどうしてですか?

池松:新型コロナウイルスの影響で、エンタメ系のイベントはすべて中止になり、倒産寸前まで追いやられてしまったんです。それでもしばらくは、何とかエンタメ業界で…と、試行錯誤しながらしがみつくように頑張っていたのですが、通帳の残金ばかりが減っていくような状況からなかなか抜け出せず、心が落ちてしまって…。
そこから思い切って事業転換しようと考えて、福祉関係や伝統工芸関係など、さまざまな分野で事業計画を立ててはシミュレーションしてみることを繰り返しました。ただ、どれも自分のやりたいことというよりは「なんとなく稼げそうだから、面白そうだから」という考えから生まれたものなので、結果どれも発展性のある事業計画にはならず。そのうえ、幼い子どもたちの世話や、親の介護なども重なり、今思えば廃人になる寸前でした。その状態が半年以上続いて。
その心と比例するように、車も汚れていたことに気づき、ある時、思い切って洗車してみたんです。すると、すごく心がスカッとして、同時に活力もわいてくるような感じがしたんです。自分は何か思い悩む時など、事あるごとに自分の手で洗車する習慣があったということをその時思い出しました。「心を整える」みたいに。
そこからですね、完全手洗い定額制出張洗車サービスの「CALUXE」が構想に浮かんだのは。この習慣をそのままビジネスにしよう!と。

――たくさん苦しまれたからこそ生まれた事業だったんですね。

池松:新型コロナウイルスの流行というのは、ぼくにとって転換期になりました。頭をフル回転させ、たくさんの人の話を聞き、試行錯誤しました。思い切って事業転換しようと思うまでの2020年10月までは、本当に苦しかったけれど、自分の仕事や人生のことを深く考えるいい機会になりました。

――非接触で完結するというのは、コロナ対策の一貫として考えられたんですか。

池松:もちろんそれも理由のひとつですが、忙しくてなかなか洗車に行けないという方たちにむけて、と考えているので、留守の間や、買い物をしている間、お仕事中などに非接触で洗車をするという方法を思いついたんです。実際に現在営業をかけているのも、ホテルやジムなど、一定の時間車を駐車しておくような施設。
調べてみたら、福岡にはそのサービスがほとんどなくて、これは、と。そこからは2ヶ月くらいで事業計画などを組み立ててスタートさせました。

――すごい、全部を2ヶ月で、ですか!

池松:これはいけるって思ったのと、やるしかないっていう状態でした。…でも実は、最初は100%この仕事に誇りを持ってスタートしたわけじゃなかったんです。もちろん、洗車事業に対して需要や可能性は感じていましたが、仕事をしなければ食べていけないというのも正直なところで、自分をどうにか納得させようとしていました。でも、ある日、洗車道具を積み込んだ車で子供たちのお迎えに行った時、4歳の長女が後部座席の洗車道具を振り向いていったんです。「パパのお仕事かっこいいね」って。そこでハッとしたんですよね。娘が思う「かっこいいおやじ」って、有名なアーティストと関わったり、華やかな仕事をすることだけじゃない、どんな職種だろうと、一生懸命仕事に取り組んでいる姿を見ているんだと。もしかしたら、洗車道具が単純にかっこよく見えただけなのかもしれませんが、その時は、涙が溢れましたね。

洗車中

――素敵なエピソードです。娘さんのひとことで、池松さんの中で決意が固まったんですね。事業を立ち上げてしばらくは無料での洗車体験をなさっていたとか。

池松:そうなんです。みなさんにもぼくの洗車を体験してもらいたかったこと。そしてぼく自身の経験値として、まずは無料洗車を呼びかけました。利用してくださった方は「買った時以上に綺麗!」とよろこんでくれて、うれしかったですね。そして何より、水をほとんど使わないことにすごく驚かれます。

――環境にも配慮されているんですね。

池松:環境にやさしいということもミッションのひとつに掲げていて、そうなるとやはり水もなるべく使わない方法で洗いたいな、と。様々な洗剤を研究して、水を5〜6リットル程度しか使わなくて済む、環境にやさしい洗車方法にたどりついたんです。

長年の夢をかたちにした、起業

――少しさかのぼりますが、2018年に起業された時に、最初に取り組んだことについて教えていただけますか。

池松:仲間づくりです。フレネルは、同じ業界を志す仲間と2人で立ち上げた会社なんです。ぼく自身、ずっとエンタメ業界で仕事がしたいと思っていたんですが、うじうじと悩んでいる間に40歳手前になってしまっていました。よし!独立しようと思った時に、仲間がいたということは、かなり心強かったです。ひとりだったら、もう少し先延ばしにしていたかもしれません。

――今だからこそやっておいてよかった、と思えることは何でしょうか?

池松:そうですね。意識して取り組んだことではないですが、起業までに時間がかかった分、まわりに経営者も多かったので、自然と情報をストックできたことでしょうか。その経験談など自然と役に立っていると思います。

――資金の準備はどのようにされたのでしょうか?

池松:エンタメというふわふわとした業界ゆえ、難しかったのが資金調達でした。結局大手銀行さんに相談したものの、融資までには至らなかったので、手持ちのお金でどうにかしました。今考えてみれば、ひとつの銀行にこだわらず、いろんなところに掛け合ってみればよかったですね。

――これから起業したいと思っている方に、ひとこといただけますでしょうか。

池松:やりたいと思ったらすぐに行動することじゃないですかね。人脈も広げられた40手前で起業したことに対して、結果的によかったと思いつつも、やっぱりもっとはやく起業しておけば…と思ったりもします。会社をつくること自体ってやってみると拍子抜けするくらい簡単なんです。大切なのはもちろん事業計画なんですが…。躊躇せず、思い切ってトライしてみてほしいですね。

フレネル池松さん

――最後に、今後の展望について教えていただけますでしょうか。

池松:まずは、もっともっと多くの方々に、洗車の選択肢として「出張洗車」というものがある、ということを知っていただけるような動きを加速化することです。ご自宅や職場に伺う以外でも、話題のカフェやレストラン、スパ施設、ジムなど、ご自身が心のリフレッシュをされている間に、愛車もキレイになっている。そんな文化を作っていきたいですね。
意外と「出張洗車」って、いろいろなものと組み合わせやすいサービスだと感じていて、具体的には言えませんが(笑)、いろいろ画策中です!
また、時間はかかるかもしれませんが、地球にやさしい溶剤を開発したいと思っています。今使っている溶剤ももちろん環境には配慮されたものですが、もっともっと地球に優しい、100%自然由来で安心安全なものを、どこかの企業に協力してもらいながら、開発したいんです。
さらに、障がい者の方々の働く場を積極的に作っていこうと考えています。洗車ってもちろん技術も必要だけれど、そんなに難しいことをしているわけではないんです。だから、すごくマッチすると思うんですよね。「洗車」を軸に、「人と環境に優しい事業」を生み出していけたらと思っています。

普段仕事中の池松さんは、なんと驚くことに洗車もスーツを着用されたまま行っているのだそう。聞いてみると、撥水加工がほどこされ、ストレッチ性が効いているので、まったく苦にはならないのだとか。その姿からも、洗車と真摯に対峙している池松さんの姿勢が見てとれます。「廃人になりかけた」ということが嘘のように、キラキラと目を輝かせている池松さんの姿が忘れられません。

合同会社フレネルについて

■会社概要
会社名:合同会社フレネル
URL:https://www.frenel.jp/
所在地:福岡県福岡市中央区大手門3-12-12 BLDG64 3F
設立:2018年3月20日
代表:池松拓哉

■事業内容
アーティストのエージェント、イベントの企画運営のほか、2021年2月より、「洗車をLuxuryに、暮らしに潤いを。」をコンセプトにした出張洗車サービス「CALUXE」をスタート。

■問い合わせ先
Mail:info@carwash-caluxe.com

お知らせ

▷Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。

▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。
https://www.ncbank.co.jp/hojin/sogyo/sogyo_plaza/

[NCB創業応援サロン福岡]
福岡市中央区天神2-5-28 大名支店ビル7階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-713-817
[NCB創業応援サロン北九州]
北九州市小倉北区鍛冶町1-5-1 西日本FH北九州ビル5階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-055-817

タグ
  • 創業

Writer

おすすめの記事

続きを読む >

求人

2022.07.21

【求人】リフォーム・住宅メンテナンス業の株式会社海辺、次なるステージを目指すべく人材を募集中!【PR】

コロナ禍やウクライナ情勢、円安によって物価高騰が続く今。その影響を受け、マンションやビルなどの不動産価格も上昇しています。そこでますますニーズが高まっているのが、元々ある資産に手を加えることで価値を高めるリフォームや修繕工事です。今回ご紹介する総合住宅リフォーム会社の株式会社海辺は、およそ40年前からそのニーズに着目し、現在では内装だけでなく外装やサイン工事までワンストップで手がけています。そんな同社では次のステージを目指すべく、新しい仲間を募集中!そこで業務内容や仕事の魅力、今後の展望について、35歳の若さで社長を務める海邉義一さんにお話を伺いました。

続きを読む >

お役立ち

2022.06.16

インボイス制度とは。注目の導入理由から免税事業者への影響までわかりやすく説明

軽減税率の導入に伴って、2023年(令和5年)10月よりインボイス制度が導入されます。消費税の課税事業者に限らず、免税事業者にも影響があるとされているのです。この記事では、インボイス制度の概要や導入に至った理由、その基礎となる消費税の知識と事業者への影響などについて解説します。