インタビュー

「防災ってカッコイイ!」人命を救うサービスを、もっと身近な存在に。 | AUTHENTIC JAPAN 久我一総さん

By 山本佳世

|
2021.05.17
オーセンティックジャパン

人は「十人十色」と言われるように、起業のかたちも人それぞれ。「MY FOUNDING STORY」シリーズでは、さまざまな企業の創業ストーリーを紐解き、これから起業しようとしている方々の参考や励みにしてもらいたいと考えています。

空前の登山ブームと言われる昨今。少し前から「山ガール」が話題を集めて若者の登山者が増え、コロナ禍の今は三密を避けるレジャーとして、より脚光を浴びているようです。その一方で、山での遭難や滑落といった報道も多く目にするようになりました。

山岳事故に限らず、最近は地震、台風、豪雨、大雪など常に日本のどこかで災害が発生しています。決して「自分は大丈夫」と言えない状況にある中で、身を守るためにはどうすればいいのか。そんな問いに答えるかのように起業したのが、今回ご紹介する久我一総さん。「ライフハザードカンパニー(命を守る企業)」をコンセプトに、さまざまなビジネスを展開する久我さんの"これまで"と"これから"に迫ります。

AUTHENTIC JAPAN株式会社  代表取締役社長 久我一総さん

■プロフィール
AUTHENTIC JAPAN株式会社
代表取締役社長 久我一総さん

1978年、福岡県福岡市生まれ。西南学院大学文学部外国語学科英語専攻卒業。2002年パナソニックシステムネットワークスに入社し、SCM部門の責任者としてイギリスの子会社へ出向。10年後に帰国し、商品企画部門へ異動。2011年にAUTHENTIC JAPAN(オーセンティックジャパン)を立ち上げ、退職。現在に至る。

身内の認知症とノリで起業

――事業内容についてお聞かせください。

久我:会員制捜索ヘリサービス「COCOHELI(以下:ココヘリ)」を提供しています。これは、発信機型会員証と全国エリアの捜索ヘリネットワークを使って、山で遭難した時にその人の居場所を素早くかつ正確に把握し、救助組織へと引き継ぐサービスです。現在6社の航空会社と全国34都道府県の警察・消防航空隊・防災ヘリが導入しています。発信機は20gと軽量で最長で16km先から受信できる性能を持ち、これまでに25件の捜索を実施しました。このノウハウを生かして開発したのが、「LIFE BEACON(ライフビーコン)」という小型発信機。鍵やカメラなどの大切なアイテムに付けることでスマホのBluetooth機能を使って探せるほか、迷子や災害時など「もしも」の時に持ち主を捜索することもできます。
ライフビーコンはネッツトヨタ福岡と提携し、新車を購入された方全員にプレゼントされています。
そして昨年11月にはヘリコプターの捜索エリアを「山」から「街」に拡大した「ココヘリタウン」をリリースし、日常的に災害から身を守れるようなサービスも展開しました。

ココヘリ
ココヘリ

――以前はどのような道を歩んで来られたのですか?

久我:大学卒業後は旧九州松下電機(現パナソニックシステムネットワークス)に入社し、SCM(サプライチェーン・マネジネント)や商品企画を担当。ここでモノづくりや物流、商品開発といったさまざまなことを経験しました。

――なぜそんな大企業を離れて起業することに?

久我:起業した2011年頃、祖母が認知症になったんです。当時は僕の子どももまだ小さく、「お年寄りの徘徊や子どもが迷子になった時に見つけ出せる機械があればいいな」と思ったことがきっかけです。まだ会社に勤めていた時だったので、国内外でそういった商品がないか探してみたのですが、どうにも見つからない。そんな時に、会社の技術者から「新しくリリースされる920MHzという周波数帯であれば飛距離も出るし、人命救助にも使えるかも」という話を聞きました。「ならば自分たちで人を捜索できる機械を作ろう、会社も立ち上げよう」と、会社を辞めて起業することを決意したんです。今思えば軽いノリでしたね(笑)。

――ノリで本当に起業されるというのがすごいですね!

久我:真面目に思い悩んでいたら、起業なんて出来ないと思いますよ。安定して給与を頂ける恵まれた環境からわざわざ出ていくなんて、リスクしかないので。もちろん起業してトントン拍子に進む人もいると思いますが、大抵の人は何かしらのリスクや挫折を味わうはず。辞めるチャンスなんていくらでもある中で、事業を続けられるのは"コア"となる強い思いがあるかないか。僕は「やるからには、そこに何かがあるはず」という思いでここまで続けてこられたんだと思います。

オーセンティックジャパン社内

――起業して、最初に取り組んだことは何ですか?

久我:人を捜し出せる機械の開発を目指したのですが、何千万円という多額の費用が必要になります。そこで最初の2年間は開発費や生活費を稼ぐため、既存の商品を仕入れて販売する物販に力を入れることに。当時ちょうど普及し出したスマホに目をつけ、スマホと連動するスピーカーや携帯型のスタンドといった商材を海外から仕入れ、必死に営業に回って販売して何とか資金を稼ぐことができました。

そこで最初に開発したのが、「HITOCOCO(以下:ヒトココ)」です。「ヒトがココにいる」という意味を持つ軽量小型の無線機器で、親機から子機のある場所を特定することで行方が分からなくなった人を効率的に探すことができます。

――それがなぜ、山岳遭難救助というサービスに移行したのでしょうか?

久我:「ヒトココ」はデバイスとしては優れていますが、それ自体にブランド力もなければ会社としての実績や歴史もない。そんな我々が「人命を助ける装置なので買ってください」と言っても、にわかに信じがたいじゃないですか。そこで信頼性を上げて販路を広げるために「最もハードな環境で活動するプロに認めてもらう」ことを考えました。

行方不明者を捜索し、命を助けるプロ…つまり災害や山岳遭難の救助にあたる警察や消防のみなさんに使ってもらうために、まずは日本山岳協会にアポイントをとって「ヒトココ」について必死にプレゼンし、採用していただいたんです。

――そこから「ココヘリ」へと発展していったんですね。

久我:「ヒトココ」のユーザーから意見を聞くと、「山岳遭難した時に居場所が分かるだけでなく、もしもの時はヘリでも捜索に来てほしい」「無料で使えるようにしてほしい」といった声が多く寄せられたんです。そこで、無料で発信機を貸し出してヘリコプターが利用できる会員制のサービスにできないかと考えました。それが2016年にスタートした「ココヘリ」です。ユーザーにとっては装置を購入せずともサービスを受けられるというメリットがあります。

"僕らしかいない" 命を守るサービスを提供

――新たに始めた「ココヘリタウン」とは、どのようなサービスなのですか?

久我:我々の事業のコンセプトは「ライフハザードカンパニー」。人の命を救うことに特化した事業なので、山の遭難だけでなく災害時にも力を発揮できるサービスができないかなと考えたんです。ただもっと、普段の生活の中で身を守れるライトなツールにしたかった。そうして誕生したのが、「ココヘリタウン」です。

普段はキーホルダーのように車の鍵やバックなどに小型の発信機(ライフビーコン)を着けておき、鍵などのモノがなくなったらスマホで捜索できる。さらに災害などで行方不明になった時に自分の居場所を知らせてヘリコプターで捜索してもらえるというサービスです。

「ココヘリ」の会員数はおかげさまで増加していますが、このサービスを「山」から「街」へ拡大しようと考えた際、5年や10年かけてその資金を調達しようとしても、最近の災害の多さを考えると待っていられません。そこで2021年3月に西日本シティ銀行や西日本新聞など、地元企業からの資金調達を実施して力をお借りすることにしました。

起業した2011年は、東日本大震災が発生した年でした。未だに何千人という人が行方不明のままですよね。生きていることが一番ですが、残念ながら亡くなってしまっても、ご遺体が見つかるだけでも幸運だということを知りました。

日本にいる限り、災害は必ずどこかで起こります。僕らがやろうとしているのは、"見守りサービス"ではなく"人命救助"。いざという時に命を守るサービスを提供できるのは、僕らしかいない。それは揺るぎない思いです。

ココヘリイメージ

――御社が提供されているサービスの商圏は関東の方が広そうですが、拠点を福岡にした理由はなんでしょう?

久我:たしかに関東の方がビジネスチャンスは多いかもしれません。でも福岡を離れないのは…何でしょうね、地元が好きだからでしょうか(笑)。ただこのご時世、ネットが繋がっていれば場所なんて関係ありませんし、福岡から東京まで飛行機で約1時間半と意外と近い。アメリカだったら隣の都市に行く感覚ですよ。それに、地元というホームグラウンドの方が足場もしっかりしていてグリップがいい。それに尽きますね。

――今後の展望について教えてください

久我:まずは動き出したばかりの「ココヘリタウン」を軌道に乗せることですね。あとは、天神にアンテナショップを作って当社の製品や防災グッズを展示し、広く防災を呼びかけたいと考えています。

防災と聞くと、言葉は悪いですが「ダサい」というようなイメージを持つ方も少なくないと思うんですよね。でも実は防災って家族を守ること、言わばカッコいいことなんです。「防災ってカッコイイ!」というスタンスで、普段からの防災意識を高めてもらえたらいいなと思っています。他には、自分に必要な防災グッズが一目でわかるアプリも開発したいですね。

久我さん

――まだまだ、やりたいことがたくさんありますね!では最後に、これから起業する方へのアドバイスをお願いします。

久我:会社員を辞めたらローンを組んだりクレジットカードを簡単に作ったりできなくなるので、そういったことは事前に済ませておいた方がいいですよ!リアルなアドバイスで恐縮ですが(笑)。

それと途中でお話ししましたが、起業は茨の道です。それなりに苦労することを頭に置いて、少なくとも10年は「思いが尽きないもの」をご自分なりに極めて起業すれば、何をするにしても諦めないはず!

お礼の手紙

「起業は軽いノリでした」とにこやかに話す久我さんですが、事業の発端となった「ヒトココ」の開発やそのための資金稼ぎ、日本山岳協会へのプレゼンなど、笑顔の裏に隠れた苦労や努力がたくさん。そんな中で事業を成功させたのは、「人の命を助けたい」という強い思い。会社の会議室には、これまで「ココヘリ」で捜索された人やその家族から届いたお礼の手紙が大切に飾られています。自分の信念によって捜索が叶った人々からのメッセージを優しく見つめる久我さんの姿が印象的でした。

AUTHENTIC JAPAN株式会社について

■会社概要
会社名:AUTHENTIC JAPAN株式会社
URL:https://hitococo.com
所在地:福岡県福岡市中央区赤坂1-6-15 日新ビル4F
    東京都中央区日本橋小舟町11-2-4F
設立:2011年12月
代表:久我一総

■事業内容
会員制捜索ヘリサービス「COCOHERI」の運営
「LIFE BEACON」および専用アプリ「LIFE BEACON APP」の提供
子ども見守りアイテム「COCOKIDS」の提供

お知らせ

▷Fukuoka Growth Nextでは西日本シティ銀行スタッフが毎週水曜日常駐しています。創業に関するご相談も承っていますのでお気軽にお越しください。

▷福岡市と北九州市には創業期のお客さまをサポートする専門拠点『NCB創業応援サロン』を設置していますので、こちらにもお気軽にお越しください。
https://www.ncbank.co.jp/hojin/sogyo/sogyo_plaza/

[NCB創業応援サロン福岡]
福岡市中央区天神2-5-28 大名支店ビル7階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-713-817
[NCB創業応援サロン北九州]
北九州市小倉北区鍛冶町1-5-1 西日本FH北九州ビル5階
平日:9:00~17:00
TEL:0120-055-817

タグ
  • 創業

Writer

おすすめの記事

続きを読む >

求人

2022.07.21

【求人】リフォーム・住宅メンテナンス業の株式会社海辺、次なるステージを目指すべく人材を募集中!【PR】

コロナ禍やウクライナ情勢、円安によって物価高騰が続く今。その影響を受け、マンションやビルなどの不動産価格も上昇しています。そこでますますニーズが高まっているのが、元々ある資産に手を加えることで価値を高めるリフォームや修繕工事です。今回ご紹介する総合住宅リフォーム会社の株式会社海辺は、およそ40年前からそのニーズに着目し、現在では内装だけでなく外装やサイン工事までワンストップで手がけています。そんな同社では次のステージを目指すべく、新しい仲間を募集中!そこで業務内容や仕事の魅力、今後の展望について、35歳の若さで社長を務める海邉義一さんにお話を伺いました。

続きを読む >

お役立ち

2022.06.16

インボイス制度とは。注目の導入理由から免税事業者への影響までわかりやすく説明

軽減税率の導入に伴って、2023年(令和5年)10月よりインボイス制度が導入されます。消費税の課税事業者に限らず、免税事業者にも影響があるとされているのです。この記事では、インボイス制度の概要や導入に至った理由、その基礎となる消費税の知識と事業者への影響などについて解説します。